短命のドールは、元々は人格を持たない”一般生徒ドール”と呼ばれる存在。 ドールの心であり命である人格コアの代わりに人格チップを胸に埋め込まれているんだ。
人格チップは半年以内に、所有者の胸を突き破って金属の花を咲かせる。 先日そんな末路を辿ったイブキと全く同じ終わり方を、ホムラも迎えるものと思っていた。
ところが
「あ〜あ〜あ!可愛くなっちゃって〜!どうやったのこれ〜!?」
ガーデンの脅威であるマギアビーストや、ガーデンの脅威予備軍になれそうななんとかリードバックの被害を受けることでお馴染みの春エリアに化け物が現れた。
学園長代理のルファル先生からの通知によれば、正体はホムラだという。 続いて主に戦闘関係でボクらのお世話をしてくれる、理事長のカシサン(先生じゃないらしい)からも連絡が入る。どうやらマギアビーストとほぼ同等の扱いで対処する流れっぽい。
そういえば前から思ってたんだけど理事長と学園長ってどっちが偉いの。
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ねぇこれどういう事?
本当にホムラなの? なんで?
望んだ姿ってどういう事?
ずっと一緒にいたいって…あれは嘘だったの?
元に戻す方法はないの?
なんで…なんであたしを置いていったの?
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支給された端末を使ってドールが自由に質問できる場所で、リツがめちゃくちゃ荒ぶってる。
ここでおさらい!
ホムラはリツにメロメロ。リツの為ならマギアビーストだって呼べちゃう。
でもリツには他の、忘れられないドールがいた。
だから恋模様は絶望的かな~?って感じだったんだ。
…でもこの必死な感じ、もしや…? 俄然興味が湧いてきた。
それに……
化け物になったってホムラはホムラだ。寧ろ期限つきのドールでいることをやめ、より長く生きられるカラダを得るという選択をとるってものすごい事じゃない?リツは元に戻すことに固執してるみたいだけど、万一戻せたとしても金属の花に何もかも破壊されておしまいじゃん。
それよりは今のままのホムラを仲間に引き入れる方が絶対良いのに。ほら、使い魔みたいにさ?
なので、ちょっと出遅れちゃったけど、他のチームメンバーにも招集をかけつつ戦闘エリアに突撃したってワケ。
化け物はどことなくホムラの面影があって可愛かった。大きく裂けた口が縫い付けられているのは元々なのか、それとも……?
「あんたは相変わらずだね…」
はしゃぐボクに声をかけるリツは、この時なぜかアザミの姿をしていた。どうしてか聞きそびれたから詳しい事情は知らないけど、姿がアザミで声がリツ。ものすごくシュール。もう「そういうもの」と受け入れるしかなかった。
「ホントはお菓子持ってきたんだけどさ〜、ポチに没収されちゃったんだよねぇ」
「さすがに今じゃねえだろ、あれ持ってくんのは」
ホムラといえばリツか食べ物。言葉が通じなくなってもこっちに興味を引けるように…って、来る前にチームメンバーのクラートとお菓子をかき集めてきたんだけど、同じくメンバーの制止とツッコミ担当フェンにことポチ全部没収(と銘打って胃袋に回収)された。意味わかんない。
「ま。覚悟決まってんなら、決まってるうちにやり切るのが一番ってこった」
リツの覚悟、それは……
「ホムラをあのままにはしたくない…それをあいつは望んでないでしょ…」
どうやらホムラを倒す気のようだ。ここに来た時既にホムラがかなり弱っていたのも、その覚悟のあらわれと言って良いだろう。
……でも、どうして?
さっきはあんなに喚いてたのに。
「だってリッちゃんと一緒に…」
もっと一緒にいたいから自分の運命に抗って、壊したんだよ?
リツのために、ドールのカラダを棄てたんだよ?
なのにさっさと倒しましょうってあんまりじゃない?
あいつは望んでないって、どうしてそう言い切れるの?
そんなのリツが勝手に……
……ホムラの望み、か……
“……できたてのポップコーンの匂いね”
“ワタシはホムラ。7期生、クラスコードクリア。よろしくね、カガリ”
ボクの中ではずっと、不思議なコだったな、ホムラ。 初対面の時から距離感面白かったし…
“面白そうだったから”
そう言ってグレ☆グレに入団したあのコにとってこのチームは、面白かったのかな。
“おかわり”
戦いの最中だって、夢中になって食べるコだったけど、
イブキみたいに笑っては…いなかったかな?
“大丈夫。リツが構ってくれるならそれでいい”
チームに入った時から既にリツ一直線。もしかして、入った理由も、リツに振り向いてもらえるようなことをするため……?
……そういえば、ホムラのこと、思ったよりよくわかってなかったな。
今回ばかりは誰かさんに「表面上しか見ていない」って言われてもおかしくないな。
「……ま、い〜けど?」
途端に、リツを説得する気をなくしちゃった。
「…それでもあたしは倒すよ…ズルしてるけど本気の決闘だからね」
本気の、決闘。 本気の……決闘か。
その姿でそんなこと言うなっつうの…
完全にこっちの問題だけど。
「ホムラちゃーん!おーいホムラちゃーん!聞こえてる?」
やる気が鈍る中、一応声をかけてみる。 かみさまと呼ばれたコや、教育実習の先生が変化したマギアビーストの時然り、言葉は通じなさそう。
「……あ!後ろにクソデカオムライスが」
モノはないけど、言葉で吊ってみようとすると、ホムラはお腹が空いたような唸り声をあげる。
「聞こえてるっぽいよ!?やっぱ食べ物に反応してるんだよ!」
リツの覚悟をもう一度試すかのように、本当に言葉で説得をする気がないか確かめる。
「……本当に聞こえてるのかわかんないけど…最期にもう一回言っとくね…」
リツがゆっくりとホムラと向き合い、そして
「あたしは!ホムラの事…大好きだよ!」
「!」
勝ったんだ。ホムラの気持ちが。 卒業してもなお、苦しむことになってもなお、リツは”かつて好きだったドール”を忘れられなかった。 短命のドールでは、その超えられない壁を壊すことなんてできないと思ってた。 でも、ホムラはやったんだ。 “もう一回”っていうことは、きっとホムラには既にリツの気持ちは届いている。 そのうえで、もっと一緒にいたいと願ったのかな。 折角熱い台詞を決めたのに、攻撃の方は決まらなかった。 リツは自分の足にもう片方の足を絡めて転んでしまう。
「…っ!」
「そこはパシッとキメてよリッちゃん!?!?」
「……ごめん…ちょっと覚悟が足りなかったかな…大丈夫…あたしは大丈夫だから…やれるから…」
なんかさ。愛を知らないわりにはボクって特定の2体の恋路のサポートに回ること多くない? 見てらんなくて、よろよろしてるリツを思わず立たせちゃったよね。 直後、チーム・グレ☆グレとして、リツの覚悟に便乗していつものアレを喰らわせてやろうと思った瞬間、ホムラから「ふたりにして」とばかりに巨大な触手攻撃をおみまいされる。
装備している「アレ」のせいで通常より更に無防備になってたり、どうやら相手も腹ペコで機嫌が悪かったようで、一瞬にしてボクの意識は闇の向こうへと旅立った。
このあとホムラとリツがどうなったのかは知らない。多分本人が報告書を書くんじゃないかな。
それにしても……
マギアレリックを壊してビーストを呼び出しても 自分が化け物になってもなお、揺るがなかった”愛”。 それが具体的に何なのかはわからなくても、とても頑丈で、偽物ではないことだけはハッキリしてる。
リツに振り向いて欲しい気持ちを伝える為に、無関係なドールも巻き込んで傷つけてもいる。 きっと別のドールなら、その選択は間違えていると言うだろう。 でも、間違えたからこそ、ホンモノの愛を育むことができた。
校則どころか、自分の運命すら打ち砕いてやりたい事を貫いたホムラは、我らが誇る「チーム・グレ☆グレ」のメンバーだ。
間違えるのは、やっぱり悪いことじゃない。
………正しく在ることに囚われているアイツにも、何としても思い知らせてやりたい。
もう言葉でどうこうするのは無理だ。
それなら
”うんと間違えること”で
“間違えないこと”は“間違いだ”とわからせてやろう。
次の「チーム・グレ☆グレ」のミッションが、決まった。
Diary079「焔残して」
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