ボクは、ガーデンの生徒になった。
持っている手紙以外
必要なものは学校から支給される。
それでいい。
なんの不自由もない。
が、
ボクは忘れ物をした。
絶対に忘れ物をしたのだ。
いつもならそんな事は気にしない。なるようになると片づけてしまうのだけど、どうも落ち着かない。
少しもやもやしながら寮の中に入れば、夜遅くの到着だったにも関わらず5人以上のドールが出迎えてくれた。
この日に入学したドールはボクひとりだけ。だからこの時点でこの空間にいるドールは全て、寮生活に慣れ、学んでいることも多い、いわゆる「センパイ」だ。
義理人情にはあまり興味がある方ではないけど、体験入学初日から不愛想を振りまくわけにはいかないので、素直に歓迎を受けることにした。
笑顔をとりつくろうなんて、たやすいことだ。
その中で、一番はじめに声をかけてくれたククツミという名のドールの部屋で、ボクは一晩を過ごした。
他にバタバタしていることがあったからかは知らないけれど、昨日の時点で寮の部屋が決まっていなかったボクに、ククツミセンパイが部屋をあけ渡してくれたのだ。
追記:これを書いたあと、センパイが昨夜どう過ごしていたかが判明したので、また別の機会に書くことにする:D
この部屋の住んでいるのはククツミセンパイだけではなく、「バンク」という名前のペットがいたんだれど、部屋に入ってきたボクを見るやいなや壁にあいた穴から逃げ出してしまったので、結果的に今夜ボクはこの部屋をひとりじめできるというワケだ。
ベッドの上に仰向けに寝転がり、ため息のついでに軽く「はぁ~」声を一緒に出したつもりだったけど、それが壁中をはずみ自分の耳に返ってくると、思ったより大きなボリュームだったたことに気づく。壁に穴が空いているということは、今の声は隣の部屋に筒抜けだっただろうか。…結局、文句は言われなかったし、言われたとしても別にどうでもいい。
まぁ、壁がこんな状態なら、センパイが一緒にいなくて正解だった。ボクはただでさえ「静かにする」のがニガテだから。
眠気に任せて目を閉じ、明日からの楽しい生活に期待を寄せながら入学第一日目は終わりを迎えた。めでたしめでたし。
…で終われば綺麗だったのに。
”忘れ物をした。”
またそのことを考えてしまった。
いつ、どこで、なにを、忘れたのか。
いや、落としたのか。
いや、失くしたのか。
さっぱりわからない。
そんなことある?
忘れてしまったということは、きっと大したものじゃない。
でも、そう片づけてしまおうとすれば、まるでそれがボクにとって不利益になる出来事であるかのように、脳が、体が、警告してくる。
眠れなかった。
別に寝なくても体に不具合が起きるわけではないけど
時間がなかなか進んでくれないから、ただただタイクツで、鬱陶しい。
次の日。
ボクの部屋が決まったという知らせを受け取ったのは、結局寝付けず、早朝に外の空気を吸いに行った(これ以上『忘れていること』を増やさないように、センパイの部屋の施錠は念入りにチェックした)直後だった。
学校から支給される教科書やなんかもそこに届いているというので、ボクは速足で自室へ行く。部屋に入れば、上着も脱がずに支給品の入った箱をひっくりかえす。
もしかしたら「忘れ物」とは、支給品の中に何か漏れがあることを予期したのかもしれない。魔法を扱う者としての素質が溢れるあまり、うっかり未来を予知してしまったのかも!!
…そんなバカげたことは起きていないことは、数分後に明らかになった。
教科書、制服、通学カバン………リストと照らし合わせて……
ある。
全部ある。
あとで取りに行くもの以外、全部。
持ち物を調べて「なにか一つでも欠けていればいいのに」なんて、
いったい誰が望むんだろう。
ボクはため息をつき、無造作に散らかした荷物の中からノートを一冊取り出し、これを書いた。何か特別なことがあったり、感じたりしたことを、毎日ではなくてもいいから「日記」としてつけていこうと思う。
…日記というには細かすぎるぐらいに、心情や行動を…まるで「物語」のように書くことだろう。
でも、それは…これ以上なにも「忘れない」ためだ。
逆に書いていないことは、忘れてもいい。
細かいことを考えたって仕方ない。
まずこれからやることは…
ククツミセンパイに部屋のカギを返す。
あとは…気をそらせるほど、全てがどうでもよくなるほど
この「楽園」で、ボクをもっと「燃えさせる」ものを見つける。
入学前に報告書を読んだとき、確かについた火を消そうとするものは
ボクがぜんぶ こわしてやる。
Diary 001「わすれもの」