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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    憂いは心にあり?

    生徒会室で会長ドール・イヌイとの会話を終えた後、その足で6期生でブルークラスのドール、シャンティを探す。多分あのコはボクがガーデンを離れている間…つまり2月~4月までの間に入学したドールだけど、殆ど喋ったことがなく、居場所もさっぱり見当がつかない。

    「うぃーっす。居る〜?」

    とりあえず無難なところで寮の部屋から攻めてみる。扉に手をかければすんなりと開く。幸運にも、読みは当たったようだ。










    「おかえり~ずんどう…………あん?カガリさん??」

    中から部屋の主の声が、予想の遥か斜め上の言葉と共に飛んでくる。 ガーデンにはやたらとボクの名前をイジるドールがいるけど、開口第一声で体格をディスってきたヤツは初めてだ

    「あ゛?ずんどうって誰が!」

    殴り合い待ったなしの展開かと思ったら…

    「ずんどうまるが帰ってきたのかと思って…」
    「ずんどうまる?」

    …そういえばさっきも『おかえり』って言ったか。ペットか使い魔の名前かな?でも今は、可愛いイキモノを見せて欲しい気分じゃないので

    「……まいいや。んー……」

    と軽く流し、シャンティの様子を観察する。…特に、落ち込んだりうじうじしている様子はない。

    「てか何でカガリさんがオレの部屋に?」

    それはそう。多分片手で数えられるぐらいしか会話をしたことがないセンパイが突然部屋に殴り込みに来たんだもん。真っ当な反応。

    「あー…」

    咳払いを挟み、まず怪しまれないように極力親しみやすいよう接してみる…

    「最近生徒会の圧力がヤバいって噂を聞いてね!可愛い後輩が最近理不尽な説教を喰らってないか調査して回ってるんだよねぇ」

    …つもりが、わざとらしいオーバーリアクションになってしまった。某余輩には劣るけど。

    「は、はぁ……」

    かえってシャンティはぽかーんとしてしまった。これだから段階を踏んで探りを入れるのが苦手なんだ、ボクは。 放っておいても気まずい沈黙が膨れ上がるだけなので、しぶしぶもう少し核心に迫る部分を話す。

    「………最近カイチョーにこってり絞られて凹んだりしなかった? 例えば………アザミと一緒にいた時とか?」
    「あぁ、ありました」

    何故知っているんだ、と警戒されるかと思ったら、案外すんなり答えてくれた。

    ここでちょっとおさらいをしておくと、ボクは今、最近様子のおかしいアザミというドールについて調査をしている。当人は何も教えてくれないし、好奇心をどっかに忘れてきちゃったような振舞いの原因が、『アイツが所属している生徒会』にあるんじゃないかと、カイチョーサンに話を聞きに行ったワケ。そうしたら

    以前カイチョーサンが、責任についてのお説教をアザミにした
    羽の生えた6期生はんもアザミと一緒にしょげていた

    …という話を聞くことができたんだけど、全然情報が足りない。イマイチ凹んだ理由に繋がらない。 だから同席していたシャンティからも何か聞き出せないかなってね。 もしかしたら、シャンティが実はやべーヤツで、やべー取引を持ち掛けてきたのかも知れないし。

    「でもあれはオレが悪かったんで…。……アザミさんには迷惑をかけました」

    ……それカイチョーサンからも聞いた~~!! 何だよもう、アザミといい…皆が皆自分を悪者にして。なんかもっと “イヌイが鬼の形相で怒っててヤバかった”とか”イヌイの説教中に実はシャロンがずっと樹氷魔術の構えとってた”とか面白…手がかりになるような情報吐けっつーのー! …と、癇癪起こしても仕方ない。

    「………ん………その時のカイチョーとアザミの様子って、ぶっちゃけどうだった?」

    とりあえずどっちが悪いかは置いておいて、何か2体が気になる行動をとっていなかったかつっついてみると、シャンティは少し考えながらこう答えた。

    「イヌイさんは、生徒会長ってこともあって結構気ィ張ってたっていうか…、ピりついてた感じはあったすけどマギアビーストはバケモンっすから。ほかの生徒の為に怒るんは当たり前っすよね。変な感じはしなかったっす」

    成る程。アザミはマギアビーストが関わった事件で怒られてた…と。 うーん。現場を見ていたわけじゃないけど、シャンティの言うことに納得はできる。やっぱりイヌイは、理由もなく頭ごなしにキレ散らかしたり、脅したりするドールじゃない。

    「代わりにししょ、あーアザミさんはしょぼくれてました。怒られたのもあるけど、なんか思い悩んでるみたいで…」

    …ししょ…?
    ……ああ、そういえば。

    “てことは……訓練内容にまだ余裕があるということですね……増やしますか。これで死んだように寝れますよきっと”
    “嫌や~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!ほんまに死んでまう~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!”

    箱庭に生えた「山」を見に行った時、アザミとシャンティがこんなやりとりをしていたのを思い出した。この2体は師弟の関係を築いていたのか。
    …この頃はまだ活き活きとしてたな、アザミ。

    「この前話し聴こうと思ったんすけど、オレには話してくれませんでした。……割と、信頼してもらえてると、思ってたんすけどね」

    話してくれたなかった時のことを思い浮かべたのか、シャンティの顔がしょんもりと曇る。 どんな答えがアイツの口から返ってきたのか容易に想像できたし、無性に腹が立った。

    「わっっかる!アイツいっつも落ち込んだらひとりで殻に篭んだよ。わけを聞こうとしてもモゴモゴして話そうとしないしさ!?ひとりで背負いたいならもっと平気なフリしろっつーのーー!!!」

    スイッチが入ってしまい、ついアザミへの愚痴をこぼしてしまう。

    「お、おぉ……」
    「………はぁ。すっきりした」

    ドン引きはさせたものの、とりあえずシャンティの顔にかかっていた曇り空はややマシになった模様。

    「…………シャンティ君もアザミとそこそこ絡んでんだ?」
    「まぁ、一応…。オレがここまで戦えるよう鍛えてくれたんはアザミさんなんで」
    「へぇ〜?じゃ、強いんだ」
    「試してみます?オレとしてはいろんな人と戦えるんはうれしいんで」
    「っはは!いいね!キミは楽しんで喧嘩できるタイプだ?」

    一対一で会話をするのが初めてとは思えないぐらい、緊張の糸がかなり緩んだ空気感の中、会話を弾ませる。最初はいわゆる「イイコ」だと思ってたけど…そういえば山に行った時も、進んでお宝強奪しようとしてたし、戦いに対してなんの抵抗もないあたり、実は結構気が合ったりするのかも。一般生徒とか殺したことあるかな。こんど聞いてみよう。

    「今はパスだけど、いずれ殺り合うことにはなるだろうね!ボクはアザミを倒すのが目標だから!まず弟子には勝っとかないと…」
    「ハハッ、戦えるの楽しみにしてますね!」

    …とは言いつつ、ボクはまだまだアザミより弱い。ボクにも”師匠”と呼んでいたドールがいるけど、チーム・グレ☆グレを立ち上げてからはすっかり疎遠。暫く森に籠って修行してたとはいえ、あれからかなり時間も経ってるし、今やり合ったらきっと、アザミはおろか、シャンティにすら勝てないかも知れない。

    「アザミさんを倒す、か。オレも目標にはしてます。まぁ今んとこ一撃くらいしか入れられてないんすけど」
    「お!?こりゃ負けてらんないね…!」

    ……そしてどっちが先にアザミを倒すのか競走…といきたいところだけど、今はそうもいかない。

    「………でもそのアザミが最近おかしいからさ。原因探ってたっつーワケ……」

    仮に「危ない選択」をやめてしまったアザミがものすごく弱くなっていたとして…そんなアイツに勝ったところで何の意味もない。 ってだけの話をしていたのに

    「……カガリさんって、意外と友達思いなんすね?」

    ボクはアザミと”友達だ”なんて一言も言ってないのに、満面の笑みを浮かべてシャンティはこんなことを言う。ボクは思わず眉をひそめてから、冗談めかした乾いた笑いで上書きする。

    「きっしょ〜!んな訳ないって。つまんない相手と戦いたくないだけじゃん〜。友達とか……何?愛?あの辺さっぱりだから、ホント」

    心なしか、その笑い声が自嘲気味になっていたかも知れない。

    「情がなきゃオレのとこまで来て話し聴こうなんてしないと思いますけどね?」
    「っんぁぁ!ボクはいいの!今はアザミの話!」
    「にゃはははは!」

    ああっ何だよ!むず痒い! ポケットに常備させている非常食(と書いておやつ)をシャンティの口に突っ込んで黙らせようとしたら、ひょい、と避けられた。あまりに流れるように避けるものだから、驚きと、若干の危機感をおぼえる。ガチでシャンティに色々抜かされているかも知れない。アザミと戦うどころじゃないかも知れない。まぁ、当然だよね。好き放題遊んでたわけだし……好き放題……、

    ……。

    …生徒会で構ってくれないアイツが悪いし。友達なんて呼んでやらないよ。

    「…結局アザミが撃沈したのってカイチョーが原因なんかね…?それより前はなんか兆候あった?」

    深呼吸して、再び話を本題に戻す。

    「んー、オレちょっと前に左腕なくなってた時があったんすよ。ほんで理事長サンに作ってもらう~って話してた時にはもうしょぼくれてたような……」

    前から気になっていたけど、ある時期から、シャンティの左腕はドールのものと少し違うものになった。手袋型のマギアレリックでも手に入れたのかなぐらいにしか思ってなかったけど…

    「…あぁ…その腕面白いなって思ってたけど、元のやつもげちゃったんだ?相当暴れたんだねぇ」

    もっと悲惨なことになってた。まぁ、ガーデンに居ればそういうこともあるよね(?) それよりも…

    「….でもそれってかなり前だよね?………」
    「そうなんすよ~…。だからだいぶ前から拗らせてるんすよ、あの人」
    「…………」

    そんな前から、アザミは何かを背負っていた。
    シャンティにも…、…ボクにも、頼ろうとしないで。
    やっぱり、腹が立つ。

    「うんわかった、殴る」
    「え!?!?!?オレを!?!?!?!?」
    「なんで??????アザミをだよ!」

    シャンティがボケてくれたお陰で、殴る理由を説明できるぐらいには冷静さを取り戻す。

    「言葉で歩み寄ろうとしてもだんまりならもー殴るしかないっしょ?うじうじすんなって目を覚まさせる!」
    「………実はもう一発殴ってるんすよねぇ」
    「じゃー2発!2発でダメなら3発!」

    いつだってそう。
    一回やってダメだったら二回目三回目。
    たとえそれが命のやりとりであっても。

    「……ぶっちゃけ、それ以外思いつかないし」

    他のドールなら、もっと上手くやれるのかな。 こんな安直な試し方しかできないから、ボクもボクで「失敗をしてしまう」のかな。

    「ま、そんぐらいやらないとダメそうですもんねあの人」

    シャンティがボクの提案を肯定してくれなかったら、またいらない事をあれやこれやと考えていただろう。そうしないためにボクはうんと楽しむと決めたのに。思いついた方向へ駆け抜けるって。

    「次あった時、もう2.3発オレも殴っとこうかな」
    「あはははは!やっちゃえやっちゃえ! あ、でもボクが殴れるとこ残しといてよね!?」
    「当たるかどうかもわからんっすけどね!」
    「当たるまでやってやるし!」

    ……とまぁ、調査は穏便に終了した。
    カイチョーサン…イヌイが怒ったことが直接の原因ではなかったにしろ、生徒会に入ってからおかしくなってったって可能性はまだ消えていない。

    やっぱり、アザミの口を直接、真っ二つに割るしかない。



    *




    シャンティもまた、ボクの知らないことを知っている。でも、だからといって他のドールのように、遠く手の届かない、全く別の存在…とも思えなかった。それが彼のドール柄ゆえか、ボクと近い部分があるからなのかまではわからないけど。
    …でも、「アザミを友達として大事にできるぐらいの情がある」は、買いかぶりすぎだ。 だってボクは、こんなに時間が経つまで、アイツが悩んでいることに気が付けなかった。 シャンティはボクより前に、アザミに喝を入れようとした。目を覚まさせようとしていた。

    なのにボクは……久しぶりに見たアイツに、つまらない、と。ガーデンのイヌだと言った。

    “……なーんだ。結局おたくも、そういった表面上しか見ないわけだ、カガリさん?”

    ……うるさい黙れ。
    どうして今出てくる。
    聞きたくもない声。
    度々頭の中でボクを嘲笑う。
    今関係ないだろ。
    ふざけるな鬱陶しい。

    違う。違う違う。
    全部アザミが悪い。

    アザミも…、……も、…皆…言ってくれないのが悪い。
    言ってくれないものはわかりようがない。
    誰もが皆、そんな器用になんてできていない。
    悔しい。悔しい。悔しい。悔しい…………

    「憂いはどこにあるんじゃったか、トメさんや」
    「喋んなオマエは」

    使い魔のノームは今日もわけのわからないことを口走ってる。あとトメさんマジで誰。
    と、ノームの立ち位置にちょうどカレンダーがあったので、日付を確認する。

    そういえば、もうすぐ9月22日か。

    “まだまだ強い相手と戦いたいと思う?”
    “それはもちろん。……ただ、強敵の対象にはマギアビーストだとかアルゴ先生だとかいますけど……なんというか、なんか違うんです。”

    …去年の9月22日、よく覚えてる。

    “きっと私が本当に求めてるのは、同じドール……同じ条件での強敵、なんでしょうね……”

    ……ワンズの森で、ボクはある約束をした。

    “だからさ…アザミがタイクツしないように、魔王になって何度も何度も、傷つけに行ってあげる!”
    “……ふはっ、確かに面白い展開ですね。それに、あなたは私よりも魔王に近しいかもしれませんし”

    ……勇者と魔王が、誕生した日。 アザミは、まるでお気に入りの本を見つけたかのように無邪気に笑って言った。

    “お互いに傷つけ合い、火をつけあい、タイクツを殺し続けて。そして、いざという時には培った炎で敵を迎え撃つ——”
    “——そんな胸熱な物語……最高じゃないですか!”

    タイクツを殺し続けて楽しむことを、胸熱な物語だって、アイツは。

    “よ~~し!目指すぞ!最凶の魔王!!”

    あんなにも、笑ってくれたのに。

    どうしちゃったんだろうね、キミも……ボクも。



    Diary076「憂いは心にあり?」
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