9月3日の夜…いや、あと一時間もしないうちにそろそろ日付が変わる頃かな。 チーム・グレ☆グレを活動室に集めた。今日のミッションは、以下の討伐。
・クソデカオムライス
・ナポリタンの洪水
・クソデカハンバーグ
・大”漁”のシーフードフライ
・寸胴鍋いっぱいのコンソメスープ
・パンとグラタン
・クソデカプリン
これらを処理しなければならない理由は勿論、チームメンバーの1体が引き起こした問題だから。 食いしん坊のイブキが、寮の食材をごっそり使い、一晩のうちに調理してダイニングのテーブルいっぱいに並べたはいいけど、恐らく食べ終わらないうちに……
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【お知らせでち】
でちでち。 イブキさんは期限を迎えたでち。
(以下略)
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……ガーデンを去った。
詳しい説明は省くけど、あのコは半年ほどしか生きられない短命のドールだ。パッと見他ドールとの違いはないので、あのコが自分からそうであることを口にしなければ、わからないままだったかも。
ガーデンで料理好きのドールは他にもいるけど、何故一発でイブキのものだとわかったかというと、一度見たら忘れられない、特徴的すぎるサイズ感。巨大なマギアビースト用かなってぐらいデカい。
これだけ沢山の食べ物が置いてあれば、他のドールだって匂いに誘われて食べに来る。ボクは屈折魔術で姿を隠し、リビングの隅っこで彼らの出入りが途絶えるのを待つ。 それからまぁ、なんやかんややってからチームメンバーを念話で呼び出したものだから、遅い時間にもなっちゃうよね。
芝居大好きなヨハイは夜型だからなのか逆に寝不足なのか、いつもよりテンションが高かった。他の皆はいつも通り…のように見えたけど、思えば同じく食いしん坊で、同じく期限つきのドール、ホムラも…その時までもうちょっとじゃなかったっけ。
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一人で過ごすにもあまり広いとは言えないチーム・グレ☆グレの活動室に、メンバー5体と大量の料理が押し込められた。他のドールが手をつけたとはいえ、まだまだ残っている。流石に大皿、大鍋ごとってワケにはいかなかったから持ち運べるようにコンパクトな容器に纏めて来たけどね。
…あるものが入っている、中ぐらいのサイズの鍋以外は。
「はーーい!いただきます!」
チームリーダーの号令により、晩餐魔機構獣クソデカディナー(仮称)の討伐が開始される。 皆の反応は様々。クラートは料理を目の前にして何か考え込んでいるのか、ずーんとした雰囲気だし、ホムラとヨハイはめちゃくちゃいつも通り。フェンは終始無言。いやまぁこれに関しては何となくわかるよ。フェンは期限つきのドールに対して複雑な事情があるから…
「1人少なくなると、それだけでも静かになっちゃうのね」
皆思うところがあるにしても5体揃ってこの静まり返り方は流石にどうなの!?とむずむずしてきた頃に、ホムラが口を開いた。
「ぶっき~!おいしいよ~?ボクたちで全部食べちゃっていいのぉ?」
それ以上静かにならないように、誰の方を見るでもなく、ボクはからかうように声をあげる。 すると、隣から一回だけ小さく、鼻をすする音が聞こえてきた。
「あれだけ『残すな』って言ってたのにこんな大量に…勿体ないことするよね~」 ボクはその音の主…クラートがギャン泣きしてしまわないように、まるで愚痴への共感を求めるように大げさに言った。
「…せめて、僕達で全部食べてしまおう。きっと…イブキもそれを望んでると思う」
すると、クラートは涙を振り切るかのように、料理をお腹に詰め込むスピードが上がる。 それにヨハイの「うむ、美味!」という歓声(?)も重なり、ほんの少しだけ場の空気が温まった。
「…で、それは何だ?」
フェンが、控えめに存在をアピールしているカレー鍋を指差した。
「カレー」
「見りゃわかる」
ちょうどその中身を鍋ごといこうとしてクラートにとめられているホムラの返答に、フェンは少し眉を寄せる。
「ただ、あいつが拵えたモンの中にはなかった」
フェンは、イブキが料理していたところに居合わせたのかな?早い話が、見覚えのない料理が一品増えていることが疑問だったみたいだね。
「うぐっ、か、辛っ…イブキ、こういうのも作ってたんだ…」
ホムラの分を取り分けるついでに自分の分も皿にとり、一口味見したクラートが今にも火を吹きそうな顔で言った。先程我慢できた涙がまた溢れ出してきそうだった。
「それ作ったのボクだよ」
言わなきゃバレないだろうし黙ってようと思ったんだけど、流石におもしろ…可哀想だったので種明かしフェンは腑に落ちたとでも言うように小さくため息をつき、クラートの涙は「え」の一言と共に一気に引っ込んだ。あれ?辛くて泣いてたんじゃないの?
「…なんで持ってきたの。この流れだとイブキが作ったものだって、思っちゃうじゃん」
「おしえたげなーい」
ぶすっと膨れ熊になるクラートに、ボクはべーと舌を出す。 …でも、『イブキが作った』というのは半分正解だったりするんだよね。これは…前に箱庭にある山にいるキノコのバケモノを駆除しに行ったときに教えて貰ったキノコカレー。
…だってイブキがつくったものは皆辛くないんだもん。スパイス欲しくなっちゃうでしょ?
「いや、あの…持ってきたこと自体は別に良いんだよ。………なんでこんな辛いの」
「そうかな?」
デスソースは控えたはずなんだけど、まだ辛かったかな?フェンとホムラは平気そうだし、ヨハイもなんか悶えてるけど「美味である!!!」って叫んでるし……
「クラートくんの舌がオコサマなだけじゃないのぉ?」
「……むぅ」
クラートの膨れた頬が、ボクの言葉を否定できないと訴えかける。まぁ、まだまだ料理の腕はイブキに到底及ばないのだけは認めるけどね。 でも別にボクは料理ドールを極めたいワケじゃないしこれはこれで個性ってことで!
*
…さ~てと、ほどよく皆のお腹も膨れてきたところで、と。 ボクはおもむろに席を立ち、所々くしゃりと折り目がついている紙を広げると、手頃な壁を探す。
「む?その絵は何だい、カワイイアイドルカガリ君」
「ああ……今朝ここに置いてあった」
ヨハイの問いに、ぶっきらぼうに答える。 たまたま用事があってこの部屋に入った時、床にこれが置いて…投げ入れてあった、が正しいかな? …料理にスパイスが欲しいなってうっかりキッチンに立った理由もコレ。
「っ……こ、これは……」
それを見たクラートが食事の手を止め、食い入るように眺めはじめる。 今度こそ彼の涙は隠れる場所を失い、溢れ出てきてしまったようだ。
「……イブキ………」
作者のサインはなく、子供が…最期の力を振り絞って描いたもの…以外の情報は得られないそれが誰のものなのか、クラートは…多分ボクら皆、気が付いていた。
「は~あ、全然似てないんだけど~!」
ぶつぶつ言いながら壁にその絵をしっかりと貼り付ける。 その間ずっと、皆はずっと、わるわるだけどにこにこなその一枚に釘付けになっている。
「グレ☆グレ卒業のつもりで描いた系?抜ける時はちゃんと抜けるって言えし」
卒業扱いになんて、してやらないから。
「…………」
「辛気臭いぞポチー。お酒でも持ってこよっか?」
当然色々思うところがあり、結局終始口数が少なかったフェンにちょっかいをかけようと、断られること前提の提案をした。ボクの記憶に間違いがなければ、このドールの年齢でお酒を口にすると大変なことになってしまう。ところが…
「……飲むか」
フェンはキケンな道を進むことを選んだようだ。流石チーム・グレ☆グレの一員だ。 晩餐は、まだもう少し続きそうだ。
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と、ここでこの日記は終えるつもりだったんだけど、とんでもないものが届いてしまった。
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特別追加報酬のお知らせ
厳正なる審査によりカガリ様に
マギアレリックの付与が決定いたしました。
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9月30日、使うと不思議なことが起こる道具『マギアレリック』が送られたという通知が届いた。 恐らくこれは山のバケモノを討伐したからだ。こういう報酬ってだいたい抽選で届くから滅多に当たらないんだけど、珍しいこともあるものだ。
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付与予定のマギアレリック
「GDバンダナ-複製」
マギアレリックの説明
「着けると食欲が無限に増えるバンダナの形をした異常」
今後ともカガリ様の活躍をお祈り申し上げマス。
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そう。あくまでバケモノを討伐したことに対しての報酬だから、行ったメンバーや、期限付ドールとは一切無関係だ。
わかっている。わかっているけれど
『おなかすいた~!』
レリックを手に取った瞬間、そんな声が聞こえる気がした。
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