「ん?……あら、どうも。どないしました?」
足を踏み入れる前に中の様子をひととおり確認する。 ガーデンの生徒代表…のような役割の生徒会は3体だけど……
「…カイチョーサンひとり?」
「えぇ、そやね。今はあたくし1人です」
一番喋り方に特徴のあるドール、生徒会長のイヌイ1体だけだった。 シャロン、アザミの姿はどこにもない……とても都合が良い舞台が整っていた。
「どなたかお探し?」
「や?カイチョーサンにお話あるんですけどー」
「あたくしに?なんでしょ」
ずんずんと近づき、しかめっ面でイヌイの目をじっと見る。 相手のそれは開いてるのか閉じてるのかわからないので、果たして目線が合っているかは謎だけど。
「……アザミに何したの」
前置きもなく、単刀直入に本題に入る。 最近、アザミがすっかり変わってしまった。人格コアを抜かれたような変貌の仕方というよりは、どこか自分の行動に自信が持てなくなったような…少なくとも、これが「勇者を志す者」と言われれば開いた口が燃え尽きそうなぐらい、情けないありさまだった。 間違えるのが怖い、間違っていたら教えてくれとそればかり。
……色んなところにその言葉が引っかかって、癪にさわる。
イヌイは特に後ろめたくなる様子もなく、何のことやらさっぱりと言わんばかりにぽかーんとする。
「へ?……な、何も……?」
自覚がないのか、嘘をついているのか、もう少し追い詰めて確かめてやろうじゃないか。
「嘘!絶対した!!生徒会でゴリッッゴリにしごいたんでしょ!? …なんかこう…アザミがその辺の備品うっかり食べちゃったりとかした後にさ!?」
「食べてませんけど!?!?」
アザミならお腹が空いたらやりかねないと思ったんだけどな…
「なん、なんやあったんです?」
うーん…とぼけているだけならわざわざ聞いてこない……か? …もう、正直に言ってしまえ。
「………アザミが……変なんだよ。
いやいつも変なんだけど、いつもみたいに変じゃないから変というか……」
多少の危ないことならば喜んで首を突っ込んでくれたアザミ。
暫く戦闘がない「危なくない日常」に飽き飽きしていたアザミ。
森に生息していたウサギの感想を聞けば「おいしかったです」とトンチキな答えを撃ち込んでくるアザミ…
そんなアザミが…………『至ってマトモ』になってしまった。
「……なんでか知らない…?」
「えぇ?……あ〜……ひょっとしたらあたくしかも……しれんね……?や、一応あの子は元々ああいう子なのやけども」
アザミは元々、図書室に引きこもっている陰キャだったって話を本人から聞いたことがある。 当時のナイトガーデンカード(身分を証明したり、夜に校則が免除になったりする便利なカード)も見せて貰った時に口から自然と出た感想が「友達できなさそう」だった。 そっか…イヌイはボクよりずっと前からガーデンに居たし、図書委員だったから、あのコをよく見かけてたんだ。
「まぁその、足繁くは来てましたえ」ってさ。
「……とにかく、生徒会でなんかあったのかって聞いても、話してくれないからさ………」
「……なんやろねぇ、その。あたくしがちょっと前に叱ってしもたさかい、気にしとるのかもしれんね」
予想通り原因は生徒会だったっぽい。…でも…
「ちょっと前……ねぇ…。……かといって何日も引きずってビクビクするようなヤツじゃないと思うんだけど……」
ボクも何度かアザミに叱咤した事がある。相手の気持ちを考えて踏みとどまることを知らなかった時期だったからかな~り容赦なかったんじゃないかな。…それでも、それを何日も引きずって怯えるようなことはなかった。
イヌイだけが犯人というのも、どうも信じがたい。 イヌイが声を荒げて怒ったところは、一ぺんだけ見たことがある。でも…立ち直れないぐらい怖かったわけじゃないし、怒ってる相手にクソデカい感情をぶつけてるように見えた。一種の告白ってやつ? ただ…まぁ、あれが”本気でキレているイヌイ”かどうかはわからないから、もしかすると…
「相当やばいキレ方だったんだね?
拷問した????」
影を縫う縫合魔術で動きを止めた挙句、変異術で内臓をすこーしずつ抉っ…
「してませんしてません!!」
なーんだ違うのか。 いや、普段のイヌイなら理由もなく暴力に走ったりなんてしないと思うよ?でも、キレたらわかんないじゃん?
「あたくしはあの、もうちょい責任感持ったってねって、お伝えしたんです」
出た、責任。本当に生徒会は責任って言葉が好きだよねー。 集まって会議する前に責任ソングとか歌ってんじゃないの? ただ…
「……責任感持てって言われるのと怖がりになるのがイマイチ結びつかないんだよなぁ……」
多少自分の行動に慎重になるぐらいならわからないでもないけど、牙が全部ふっ飛ぶぐらい変わっちゃうものかなぁ…?
「やっぱイヌイちゃんが諭してる間にシャロンくんがアザミの足の指の爪を一枚ずつ剝がしてたとしか……」
「ひょっとしたら、あたくしの言い方があかんかったンかもしれませんし……かんにんね。あたくしからお話しときましょか?」
話す…かぁ。もし本当にイヌイがアザミを、マジで再起不能なぐらいベコベコに凹ませるようなことを言ったんなら……張本人から呼び出しがあればかえって怖がるんじゃないかなぁ…それに、ボクが来てたことをバラされたくもないしその案はナシ。
「…………ねぇ。アザミって生徒会でどんな仕事やってんの?」
口止めする理由を言うのも面倒臭いし、強引に話題を逸らす。 生徒会って、ボクが森に引き籠って修行してた時にできた組織だから、実はあんまり詳しくないんだよね。
「お仕事?そやねぇ……ほんでも、あんま変わったことはしてませんえ。お掃除やったり、センセーはんから渡されたモン整理したり。そんくらいです」
アザミは”環境”担当らしい。 そういえば…ガーデンには委員会というものがあるんだけど、ボクが所属していた園芸委員と、美化委員がいつの間にかなくなってた。ああ…その仕事をアザミが今兼任してやってるってことね。 アザミが。掃除を。
「そ…そうじ…うそでしょ……掃除て……」
アザミの部屋の惨状を見ているこっちとしては、アザミと掃除という言葉がセットになるだけで面白い。 ボクも整理整頓は得意じゃないけど、多分アザミはその上を行く。アイツの部屋を一言で表すなら…『マギアビーストの爪痕』。 本やらペンやら、何でも床に散らかってる。ボクならせめてクローゼットに押し込めておくのに(開けた途端に中身全部出るんだけど)。
「……多分イヌイちゃんの言い方どうこうの問題じゃないと思うよ?」
つまり何が言いたいかっていうと、根本的に仕事が合わなくて精神的に参ってるだけの可能性。 たったそれだけでって思うかも知れないけど、部屋があんな状態なんだもん。多分床に落ちてたペンを机の引き出しに入れるだけでその日摂取した食べ物全部戻すタイプだわ。
「どうなんやろねぇ……一緒に居った6期生はんもしょげたはったし……」
って、おっと?ここで新情報。
「…6期生はん……って、どの6期生はん?」
「ほら、あの……髪の白い、ブルークラスの子」
ああ、それならあのコだ。シャンティ。
箱庭に「山」が生えてきた時一緒に探索はしたけど…それ以来、見かけはするけどお喋りする機会にはそんなに恵まれてなくてさ。印象に残ってるのは…教師AIのアルゴ先生と、教育実習生のリヒト先生が”ちょっとやらかした”時、愛についてアツく語ってたことぐらい?
「あー。あのコね?……ま、状況はわかったわ……なんとなくだけど」
そのシャンティが絡んでるとなると、生徒会の仕事とも関係ない…?でも少なくとも、イヌイだけが原因と決めつけるにはもうちょっと材料が必要かも。
「……なんやあたくしから言うといたことありそうでしたら、お伝えしますえ。あたくしも一因ですし」
「や、いいや。6期生はんからも話聞いてみないとなんともだしね〜」
イヌイもイヌイで責任を感じているのか(この後責任ソングを独唱すると思われる)、アザミが心配なのか……繋げてくれようとするけど、一旦はお持ち帰り。ボクはドアをきちんと閉めたかどうかも確認せず生徒会室を後にし、その足で、シャンティを探すことにした。
Diary075「生徒会スパルタ疑惑!?」
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