「カガリさん、アルファベットを知っていますなのですね?」
「まーね。…で?」
「”すごい”は、SUGOIと書きますなのです」
「…こう、フィナーレ!みたいなカタカナっぽい言葉で言い換えられない?」
「あぁ、それなら…」
7月26日。
美術館かどっかに出没したらしい、なんか「トウゲのばばーん」みたいなマギアビーストに皆が”おもてなし”している間、ボクは教師AIのアルゴ先生の元へ来ていた。あるドールから貰った、手書きのアルファベット早見表を持って。
「……ん、わかった。ありがと」
「カガリさん、珍しく勉強熱心なのですね。マギアビーストの討伐にはもう…」
勉強熱心なカガリさんは、聞きたいことだけ聞いたらさっさと退散する。 まさか自分が教えた知識が、ガーデンにとんでもない事を仕掛けるチームの名前になるなんて、思いもしないだろう。
…ああ、そういえばこの日記は報告書代わりだから。先生が皆見るんだっけ。
アルゴ先生見ってるぅ~~~~?
*
7月27日のド早朝、ボクは特定のドールの部屋前のポストに”招待状”を忍ばせる。
といってもガーデンに入学する時に貰ったアレに比べたら全然ショボい、ノートちぎってつくったやつだけど。
チームの正式名称は
「チーム・グレート☆グレネード」!
我ながら良いネーミングセンスだよね(圧)
お友達ごっこはもううんざりだった。でも誰かと協力した方ができることの幅が増える。使える駒があるなら使う。ただそれだけ。
…でも、正直ダメ元だった。皆それぞれに真っすぐ自分の道を突き進む優等生(笑)だと思ってたから。最悪ひとりでも”チーム”と言い張って暴れてやるつもりだったけど…なんと4体ものドールが釣れた。
「カガリちゃんはどーしてぐれぐ…もごご」
そこで…7月28日の夜。
折角なので団としての意識を高めるため、地下のバーで決起会を開いたってワケ。単純にバーに寄ってみたかっただけだけど。
但し、活動前から団の名前を生徒会や風紀委員に知られてツブされたら困るから、うかつに団の名前を出さないことを条件に。
ところがそれを早速破ろうとした悪いコ…あ、いやこのチームはワルの集まり(の予定)だけど…が居たので、本人形(ほんにん)が注文したフィッシュアンドチップスの皿から白身魚のフライを拝借し、口の中に突っ込んでやった。
「燃えるコトがしたかったからだよ!」
でも、頂いた質問にはしっかりと答える。優しさアピールしとかないと団員はついてこないもんね?
さて、その流れで皆がここに集まった理由を話して貰うことになったので、内容と一緒にイカれた団員たちを紹介しよう!
「なんかたのしそーだったから!」
はじめに口を開いたのは、先程うっかりをやらかしたドール、ぶっきー…あ名簿見たらイブキだった。 青い髪を、オレンジ味の飴みたいな飾りで結ってる。
「面白そうだったから」
続いて口を開いたのはホムラ。
空よりも鮮やかな水色の、ふわふわの髪をしてる。制服じゃなくて、爆発に巻き込まれてはじけ飛んだような服を着てる。…2体とも兎に角食いしん坊で、主にバーのテーブルは、2体が注文した料理たち(ほぼメニュー全種類×2!!)が占領している。皆で分けるために気を利かせたんじゃなくて、コレがそれぞれ一人前らしいよ。やばすぎ。まぁこういうブッ飛び要素は我がチームには必要だし、いっか。
「…気になったから。…か、活動内容が…」
次に遠慮がちに喋ったのがクラート。
注文した料理も小さいサイズのものばかりで、性格がよく出てる感じ。なんだか頼りなさそうだし来る場所を間違えているんじゃないかと未だに疑っちゃう。だからこのドールだけは入念に面接をしたんだけど…話を聞いてみるとなかなか面白い反応で…これからどんな風に活躍してくれるのか楽しみでもあったりする。 特徴は、褐色肌で熊耳つけてるところかな?クマートくんって呼ぶと楽しい。 ところで、皆の前で喋るの苦手なのかな。緊張してるのかどもってる。
ちなみに、ここまで紹介した3体はクラスコード・クリア。いーなー、赤い制服…。
「……強いていうなら、自由に大暴れするためだ」
はい、熊の次はポチ…ことフェン。
それ武器にしたら絶対強そうだなってぐらい鋭いツノを持っている、クラスコード・グリーンのドール。そういえば、一番付き合いが長いかも。入学早々センセーや教師AIにたてついて樽に入れられて串刺しにされるとかいう爆笑級の武勇伝持ちドール。向こう見ず直進型かなって思いきや、大口を叩くわりに肝心な時に一歩踏み出せない小型犬でもある。だからポチ。小型犬のくせしてクソデカグラタンハンバーグでテーブルのスペースはしっかり取る。活動の最中にひよって逃げないといいけど。
「じゃ~次は、叶うかどうかは別として、ガーデンでこうなったら楽しいなって事をどんどん言ってこ~!」
…このコたち全員、ボクにとってのコーハイだ。入学したときは同期が一体もいなかったから「周りは全部センパイだ」なんて思ってたのに。 …センパイ風と団長風、両方吹かせようとちょっと仕切ってみる。
「例えばさぁ…校則全部消し飛んだらいいのになぁ」
ふふっと笑う者、おいおいそういうことかと呆れる者、ピンとこない者、反応は様々だけど話題としては悪くなかったようで
「…なくせとまで言わないけど、せめて、罰則ポイントが10貯まったら公開処刑じゃなくて、
お説教とかにしておいてほしい…」
皆の意見をひととおり聞いたあと「皆が幸せなら…」とつまらない発言をするかと思われたクラートが、一番はじめに食いついた。え?わざわざこんなコト言うって…まさか罰則ポイントを惜しみなく溜め込む気があるのかな?
「もっと食べるもの、あるのいいのにねー?
バグちゃんマーケットのおやつも食べほーだいがいいなー」
次に便乗したのはイブキの周りのお皿の上に置かれていたものが、いつの間にかほぼ全て旅立っていた。 相当な量だったはずなのに、まだ足りないのかな!?マギアビーストみたいに、そのうち一般生徒ドールを食い散らかしたりしないかな。
「もっと色んなデートスポットがあると良いよね。
新しい発見ができたらもっと楽しめそう」
ホムラは入学して半年経っていないはずだけど、もうデートしたい相手がいるのかな?ボクにはまっっったく関係ないし1ミリも興味をそそられない提案だ。
「最終ミッションと隠しミッションが無くなりゃ良い」
うーん、なんともフェンらしい。
「最終ミッション」「隠しミッション」…どちらもガーデンを、そして自分自身をより詳しく知るのに必要な条件として立ちはだかるものだけど、どちらも特定のドールを死にいたらしめる必要がある……と、ボクは認識してるんだけど、そういえば隠しミッションの話は誰かとした事がないから内容が同じかどうかわかんないな。最も、情報を共有しちゃいけないからこその隠しミッションなんだけど…。 まぁ、好き好んでやりたいドールはなかなかいないだろうね。
「そもそも中途半端に記憶ないとか意味わかんないよね?」 「ガーデンにとっちゃ、中途半端が一番都合が良いんだろ」
「………意図的に、記憶を奪われてるってことかな。………何のために……」
フェン、クラートが各々考えはじめる。
……ボクらドールは、中途半端に記憶を失った状態でガーデンに入学した。それを思い出すための手段が『最終ミッション』。
……ところが……『誰もがそうである』わけではないみたい。
「そうなの?コアの子はたいへんだぁ……」
この話題に対して『え、関係ないんで…』といった顔つきで聴いているドールが2体。 その片方、イブキがこんなことを口走った。
「……まさかテメェ、コアじゃねえ方のドールか?」
フェンがピクリと眉を顰める。それもそのはず。フェンは誰よりも”コアじゃねえ方のドール”の話題に敏感のはずだ。
「あー!なんだっけ!ぽてとちっぷ?」
「人格チップな」
フィッシュアンドチップスのチップスの方を頬張りながらボクがふざけると、フェンはすかさずツッコミを入れる。
かつてガーデンに、ニチカというドールがいた。 彼女は入学する前の記憶を持っており、暫く見ないなと思っていたら…再会した時には、胸に大きな鉄の花を咲かせた死体となっていた。
“ニチカさんは人格チップというものを埋め込まれた一般生徒ドールでしたなのです。
人格チップは太陽の種の形をしていて、半年以内に花を咲かせますなのです”
ニチカについての説明をしているアルゴ先生の言葉を思い出す。
そして……フェンは、ボクの記憶が正しければ、ニチカと一緒にいることが多いドールだったし、当時の行動の断片から、彼女を大切に想っていたこともうかがえた。
「ポテトチップならおいしかったのにねー!」
「イブキもそうなの? 仲間だね」
「わーいなかまー!」
まるで好きな食べ物が一緒で喜んでいるぐらい軽いノリで和気あいあいと会話をするホムラとイブキ。 …改めてこのふたりがいつ入学したのかを確認したとき、彼らに残された時間はそう多くはないことを知るのだけど、この2体は自分の運命を知っているのかな。
「……あ、でもリツには秘密にしてて?」
「?なんでリッちゃん?」
「……かわいそうだからって理由で振り向いてほしくないから。リツは、優しいからね」
「かわいそうなの?」
どうやらホムラが想いを寄せているドールはリツらしい…あれ?雲行きが怪しいなぁ。リツは未だに”卒業しちゃったモトカノ”のことで頭がいっぱいだったはずだけど…?
相変わらず愛についてはわからないけど、この情報は続報を楽しみにしていても良いかも知れない。
…リツとはある程度話も合うし、此処に誘いたかったんだけどなー。アイツ風紀委員だからしぶしぶ招待状送るのやめたよね。
人格チップを持つドールをかわいそうと形容する…ってことは、どんな末路を迎えるかホムラは知っているのかな…で、イブキは知らない?どっちなんだろ。
…すっかりミッションの話から逸れたけど…あ~、なるほどね。イブキとホムラは人格コアがないからミッション達成が不可能で、免除かなんかされてるってことかな。根掘り葉掘り聞きたかったけど
「コアじゃなくて、ポテトチップスを埋め込まれたドールは、可哀想………?」
完全に出遅れてるクラートを見て、それ以上話を広げるのはやめることにした。
「も~~クマートくんってばポテトチップスじゃないよ!人格チップだよ~!」
「テメェのせいだろが!」
「クマートじゃないし」
二種類のツッコミが同時に入る。あ~…クラートはこのタイプのドールについて何も知らないんだ。下手に落ち込まれても面倒だから「半年間のおためし入学生なんだよ」とでも伝えておこっかな。
「……まぁなんだ。やり残したことがねえように存分に暴れとけ。ちょっとは協力してやる」
「とにかくみんな悔いの無いように楽しもうねってことで!あらためて、かーんぱーい!!」
話題に耐え切れず、暴れ出すかと思っていたフェンが冷静だったお陰で、必要以上に暗くならなくずに済んだものの、ぬるま湯ぐらいの温度になった場の雰囲気を乾杯の音頭で再び点火! カチリというグラス同士の挨拶の音に、何体かの「かんぱ~い」の声が続く。そして…
「よーし!おかわりしよー!」
「賛成」
性懲りもなくメニュー制覇の2周目をおっぱじめようとするホムラとイブキ。
「まだ食べんの!?お腹にマギアビースト飼ってる!?」
「だってここはいくら食べてもタダだもんねー!カフェだとジャーキーいるでしょ?」
「ジャーキー……結構高いね。カフェで一日アルバイトして、やっと一本だもの。貧乏はつらい」
ついツッコミ役に回ってしまったボクに、イブキは悪びれる様子もなくやんわりと答える。 そう。此処とは別に、箱庭の中にもカフェがあるんだけど、飲み食いするには「ご褒美ジャーキー」が必要だ。そしてジャーキーを貰うのに必要な『バグちゃんポイント』は、手に入れる手段こそあるものの、そう気軽にポンポンと増えていくものでもない。罰則ポイントは簡単に増えるのにね。 アルバイトができることはすっかり忘れてたけど、ホムラの話を聞く限り、労働時間に見合わない報酬だ。
「なんでカフェもタダにならないんだろうねー!」
「ね」
「カフェを……タダに……」
頭の中が、発光魔法でもかかったかのように明るくなる。早速楽しいことができそうだ…
イブキが放った何気ない一言が、チーム・グレ☆グレの最初のミッションの内容を決定づけるものとなるのだった。
Diary071「グレートでグレネードなヤツら」
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