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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    雪がくれ、雪あかり

    箱庭には春、夏、秋、冬、それぞれの季節を感じることのできる区域がある。
    ボクはこの日、その中で一番寒い冬エリアに来ていた。
    夜の雪景色、なんだか懐かしい。ガーデンに入学したときも、雪の降る夜だった。






    誰も信じてくれないと思うけど、教師AIのアルゴ先生と戦ってボクの意識が戻った後から、二日ぐらいずっと勉強に明け暮れていた。自分の魔法や魔術は勿論、他クラスの魔法も教科書に載っている範囲で、ついでに名前の知らないけど見たことのある魔法も含め、ノートに纏める。
    最初のうちは30分もしないうちに、飽きてルームメイトのうさちゃん…バニラとの遊びに移行したが、今では集中力が1時間は続くようになった。
    でもやっぱり机に向かう時間が長いと身体がむずむずする。冬エリアの温泉付近になにかいるというメッセージもドールから共有されているし、見物に行こうと外へ繰り出した。 雪が積もる場所まで赴いたまでは良かったんだけど、独特のリズムで雪を踏む音に吸い寄せられ、予定が全て書き換わった。別の日に改めて温泉へ訪れることにはなるので、何の問題もない。

    足音の主はクラスコード・グリーンのドール、イヌイ。 遠くからで顔はよく見えなかったが、特徴的な角のシルエットですぐにわかった。 踊っている……このコの踊りを見るのは二度目だ。まるで周りの雪や星を巻き込むように、くるりくるり。ボクは声をかけずに暫く黙って眺めていることにした…

    「とん、とん、と…………ぅん?」

    …つもりだったが、無意識に足音のパーカッションにあわせて鼻歌を口ずさんでいたようで、イヌイさんがボクに気づき、演目は終了してしまった。

    「あ。……ど、どうも」

    イヌイさんの挨拶はやや戸惑っているように聞こえる。

    「雪、好きなんだね~」
    「……え、えぇ……まぁ……」

    ボクは気にせず歩み寄る。観客がいるのが予想外だったのか少し照れているイヌイさんは、制服を身に着けていなかった。お祈りするときに着るものらしいけど、この服はつい数日前に見たことがある。
    先月の終わりごろ、イヌイさんは手にした壺の中に閉じこもってしまった。 壺に頭を突っ込んで取れなくなったとかそんな単純な話じゃない。覗き込むと、ナゾの空間へ行くことができるマギアレリックなのだ。ボクをはじめ数人のドールが、あのコを探しに潜入したんだけど…時間の流れも使える魔法まで何もかも変わってしまう…兎に角不思議としか言いようのない場所だった。誰かもう少し詳しい報告書、書いてないかな。
    …あのコと再会したときも、この格好だった。壺庭(あの空間の名前がわからないからツボニワと呼ぶ!)では服装も変わってしまうんだけど、イヌイさんは元々この服を持っていて、そのままの姿で居られたらしい。レリックの持ち主だからかな?


    「今時間ある?ちょっとお喋りしない?」

    ポーカーフェイスでミステリアスという印象が強かったイヌイさんは、それ以来何か吹っ切れたのか、ボクらに色んな表情を見せてくれるようになった。 何度か用事ついでに喋ったけど、込み入った話はしたことなかったし、今この瞬間このコの話をもう少し聞いてみたい、そんな気分になった。

    「そう、やね。……お話? かまへんよ。あたくしも居っただけやし」
    「ん!」

    雪にぐにゃぐにゃと不規則な足跡をつけながら、ボクらは話した。 話せる相手がごく限られているので、やっぱりメインは壺庭の話題。どんな風につくられているのか、一度目に訪れたときとは違う格好で探検できるのか…イヌイさんは特に何も考えずに滞在していたらしいが、ボクにとってあのレリックは可能性の塊だった。それにいまは、叶わなくても楽しいことを沢山想像していたかった。

    「イヌイさんって他にも面白そうなレリック持ってそ~だよね?こんど見せてよ~?」

    あんな面白いマギアレリックを誰にも言わずに隠し持っていたのなら、きっと他にもステキなおもちゃを所持しているに違いない。

    「えぇ……? そんなおもろいモン持ってませんえ?」
    「面白いかどうかはボクが決めます~~。ね?ね?ダメ~~?」
    「わ、わかったわかった……ほんでもあんま他に言わんといてな?」

    だだをこねるように詰め寄ると、イヌイさんは観念して後日、レリックギャラリーを開いてくれることを約束してくれたかわりに、内緒にしなきゃいけないことも一つ増えた。 イヌイは自分のことを表に出すのがあんまり好きじゃないらしい。そんなにいっぱい秘密をつくって、一個ぐらいうっかり漏らしちゃったりしなかったのかなぁ。ないんだろうな。口堅そうだし。

    「……壺の話に戻るけどさ、みんなで戦ったとき、まさかボクらで一騎打ちになるとは思わなかったよね~~!?」

    壺庭の…恐らく終着点。ちょうどこんな銀世界が広がる場所で、ボクらはイヌイさんと戦闘した。いわば、このドールが「ラスボス」だったのだ。壺庭ならではの闘い方にイヌイさんはある程度慣れているようだったけど、ボクらは違った。

    「あ~~……そうやね。あたくし何もしとらんはずやったのやけどねぇ……?」

    そう、ラスボスが恐らくまだ準備運動をしている間に、友達との戦闘に戸惑う者、雪に足をとられる者、武器を上手く扱えない者がどんどん脱落していったのだ。で、最後まで立ち上がっていたのがボクだったってワケ。

    「…まぁそんでも楽しかったわ」
    「優しいコたちの手元が狂っちゃったんだよ多分~。容赦のないボクが行って正解だったね~~!」

    楽しかったと返してくれたイヌイさんに対するボクの安堵の笑みは、あまり長くは続かなかった。

    「…でも、弱かったでしょ」

    同じ笑顔を貼り付けたまま、声を落とす。

    「いいえ? 十分お強かったですえ。あたくしなんてちょちょいのちょいやろ」
    「ウソだ」

    イヌイさんがフォローしてくれるけど、ボクは間髪入れず否定する。

    「ボク本気で何度もぶつかってたもん。でも…イヌイさんちっとも倒れなかった。しゃろしゃろを起こせなかったら、あと3日ぐらいは出られなかったと思うよ!?」

    あくまで冗談っぽく言ったけど、実際のところその通りだった。
    ボクとふたりだけの勝負になった頃には、イヌイさんの集中力は尽きていたようで、ワザを出すこともできず、ほぼ防戦一方だった。いつでも大きな一撃をくわえ、トドメを刺す隙はあったはずだ。 ボクは何度も向かっていって、攻撃を当てていたのに、ラスボスが倒れる気配がない。 運良く味方を蘇生させるための道具を拾うことができなければ、勝ち目はなかったと思う。結局、恐らく壺庭でのヒーローポジションであるシャロン…ボクよりもずっと、イヌイさんとの思い出を持っている彼を蘇らせ、やっと闘いに終止符を打つことができた。

    「それは、ほら……あの場所がそういうのやったンやろ。そう書いとったし」
    「どうかなぁ」

    『そういうの』……壺庭では、なにやら『じょぶ』なるものが与えられ、ボクは主に誰かを庇ったり守ったり…言わずもがな、一番不向きの役職が回ってきた。前線に立って攻撃をするよりも、腕っぷしの強いコが倒れないように敵の注意を引き付けるのが本来の役目だっただろうに、ボクは、慣れている戦法に逃げてしまった。

    「……オレちゃんせんせぇに言われたんだぁ、中途半端だ、って」

    ずっとそれを自分のやり方だと言い張り繰り返してきたが、この5日ほど前、遂にアルゴ先生から正論をたたきつけられ、完膚なきまでにやられてしまった。

    「イヌイさんはちゃんと…色んなこと考えてるでしょ。でもボクは勢いで突っ込むだけ。 その差が……あの戦いで『すてーたす』になって現れちゃったのかな~……なんてね~」

    まだガーデンで学園祭が行われていたとき、イヌイさんと先生がよく一緒に世間話…ボクにとっては爆笑トークショーだが…をしていたのを見かけていた。先生は『友達ではない』と言っていたし、どの程度本音でぶつかりあっていたかは不明。でも少なからず頻繁に交流していたこのドールに、胸の内を打ち明けた。今のイヌイさんがどう反応するかも、興味があったから。

    「……中途半端、ねぇ。 得意不得意はありますやろ。確かにあたくしは色々考えてますけど、すぐ動くンが苦手やし……得意なモン伸ばしたらええのとちゃいます? 気になるのやったら、どなたかが何かしらお相手してくださるやろし」

    得意なことだけを伸ばせば解決するのなら、それに越したことはない。 それを、苦手なことが邪魔をしている場合はどうだろう。少なからず克服も必要だ。

    「イヌイさんにも、苦手なことってあるんだ?」
    「そらもちろん。今まで言うとらんかっただけですえ」
    「たしかに!何考えてるか全然わかんなかった!」
    「ほほほほほ……そうしとったしなぁ…」

    どう苦手なことと向き合ったのかを尋ねるチャンスだったのに、当たり障りのない世間話で終わってしまった。

    「…ま、それはええわ。いつ見に来ます?」
    「イヌイさんの気が向いた時でいいよ?ぜんぜん急いでないから」
    「それ言うてしもたら一生来んけど……」
    「向いてよ!気!」

    結局話題はイヌイさんの日程合わせに方向転換し、単なる社交辞令でなく本当に見せてくれることへの喜びに火がついてしまったため、ボクは何も思い惑うことなく食いついた。 ふたりとも外せない予定は特に詰まっていなかったので、どのレリックを持ってくるか選んでもらう時間も考慮し、レリック鑑賞会は二日後に執り行われることに。

    「…ボクもなんかイヌイさんのお願い聞くよ?せっかくだし」
    「……? あたくしのお願い、ですか?」

    そしてまた、単純な興味に気を取られて時間の無駄遣いをする。

    「うん!聞きたくないな~と思ったもの以外は聞いてあげる!」
    「ふふふ、そら誰かてそうやろ。……ほんでもお願いねぇ……なんかあったやろか」

    気晴らしに来たんだし、そんな風に過ごしたっていいじゃん、という言い訳でも書き足しておこうか。

    「……歌って」
    「…それだけでいいの?」
    「えぇ。十分です」
    「へへ、いいよ!」

    ここで、あることを思い出した。

    「…そういえば学園祭のとき、一番前でライブ聞いてくれてたよね?嬉しかったよ」
    「あれは、まぁ、教師さんに言われたさかい……ほんでも、良かったですえ」

    学園祭のライブ。 歌いたい、という欲求と、ガーデンに喧嘩を売る歌をぶち込んでやろう。というアルゴ先生との企みによって決行された、最終日のステージ。 アルゴ先生がきっとしつこく宣伝してくれたのか、イヌイさんは最前列でそれを見てくれていた。 結局、あの歌以来ガーデンに喧嘩を売るようなことはできていないし、それに…

    「…。…イヌイさん、オレちゃんせんせぇと…ガーデンの話……したことある?」

    『ガーデンを素晴らしい楽園にしたい』という話を持ち掛けてきたアルゴ先生自身は、その後ロクに具体的な情報をくれない。

    「ガーデンの話……て、どんな?」
    「……今のガーデンをどう思っているかとか…そういうの」

    ボクがそれを耳に入れるほどの強さが足りないというのなら、イヌイさんなら…

    「……や、そういうンはなかったはず……あんさんはあるの?」
    「……あるといえばあるし…ないといえばない…かなぁ。 …肝心なことを教えてくれないから、イヌイさんならなんか聞いてるかな~って思ったんだけど、そっかぁ……」

    あれだけ呼吸代わりに名前を呟いていたドール相手でも、そんな話はしなかったらしい。

    「なるほどなぁ……今度会うた時は聞いてみます」
    「…へへ、いいよ、"気が向いたら"で」

    …流石に、『解き方が未だわからない宿題』をサボって気晴らししに来ておいて、欲しいおやつだけ誰かに持って持ってきてもらうなんて、虫が良すぎる。 他のドールにはボクが欲しい知識を与えたのかどうか、それだけわかれば十分だ。

    …十分?何が?
    自分の力不足が原因じゃなくてほっとした?

    「…よーし!気分がいいから早速今からカガリちゃん冬エリア出張ライブ開いちゃおっかな~~!」
    「ふふ、ええねぇ。お願いします」

    そう。ほっとした。
    だから身体をほぐして、全身の力を抜いて、イヌイさんのお願いを叶える準備をした。
    イヌイさんは笑って拍手をしている。
    スポットライトの代わりに発光魔法を使う。
    身体の横をゆっくり下へ下へと通り過ぎる雪が光の粉となって漂う。
    ボクは歌った。ガーデンに来た頃の、なにひとつ知らなかった頃の思い出に帰りながら。
    イヌイさんも歌にあわせ、雪明りを浴びながらくるり、くるりと舞い遊ぶ。
    なんて、なんて素敵な夜だろう!

    あ~あ。
    "こんなことばっかりしているから中途半端なのですよ、カガリさん。"
    って、この報告書をのぞき見したアルゴ先生に呆れられそうだな。

    Diary043「雪がくれ、雪あかり」
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