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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    言ってみるものだ

    最近ちょっとピリピリした日記が多かったから、たまにはほっこりした話でも。
    11月8日。 この日は朝から慌ただしかった。 願いを叶えてくれるかも知れないマギアレリックを使って
    「叶った願い」として出てきた引換券を持って先月新しく生えたカフェに立ち寄って
    ちょっと変わった魔法を教えてもらって、それから………







    「あったよね!なんだっけ。ほら爆散魔術みたいな」 「放散魔術ですね。なんですかそのポップコーンみたいな魔術は」 ばったり会ったともだちのドール、アザミとくだらない話をしながらカフェで過ごしていると、一通のメッセージが端末に届く。

    ―――――――――――――――
    ドールたち。

    キミたちは、
    ガーデンからの支配の解放を望むか。

    答えを聞かせてくれ。
    僕は温かい池の横にいる。

    イオサニ
    ―――――――――――――――



    *


    5日ぶりに再び冬エリアへと赴く。前回訪れたときもこの送り主に会いに行くつもりだったけど、気まぐれという名の予定変更により流れてしまった。でも遂にこのときが来た。
    端末に記された『温かい池』…温泉にたどり着くと、それよりも目立つ変わった形の建造物?が目に入る。

    「なにこれ!?」
    「……ドールか。何の用だ」

    大きな物体ばかりに気を取られ、声がするまでそこに誰かがいることに気づかなかった。

    「あ!ねーねー!これ送ったのキ………」

    その誰かをよく見ようと近づく。ボクらを『ドール』と呼ぶ、ということはこのコは違うのだろうか? と、言葉を最後まで紡ぐ前にボクは立ち止まり、あるものに釘付けになる。 変わったデザインの紅い服でも、緩やかに波打つ金髪でもない。

    「ああ、それを送ったのは僕だ。キミは開放を望むか?」

    このイキモノはドール達と殆どの身体のパーツは一緒だが、あるはずの場所に耳らしきものが見当たらない。代わりによくわからない機械がついていて、声はそこから聞こえてくる。 けれどはっきり言ってそんなことはどうでもいい。

    「耳ーーーー!!!!!!!!!」

    ボクの目を惹いたもの、それは

    「ねえ耳!うさ耳!えっ?えっ?」

    頭の両側から白く長いうさ耳がへちょりと垂れていた。

    「本物!?それホンモノー!?!?!?」

    耳が大きい分聴力も優れているのか、ボクの声量が優れているのか、あるいはその両方か…

    「うるさ……本物の耳だけど……」

    迷惑そうにうさ耳くん……メッセージを送ってきたことを認めた以上、イオサニと呼んで差支えないだろう……が一歩後ろに下がる。 ホンモノのうさ耳があると言われればやることは唯一つ。

    「触らないでほしいんだが」

    当然、避けようとする。ルームメイトのうさちゃんことバニラもだいたいこんな反応だ。 そういえば、バニラは今お腹をすかせているだろうなぁ。本当はカフェにも此処にも来る予定なんてなかったから、マギアレリックで願いを叶えたらすぐ帰るつもりだったのに…。 さて、バニラとイオサニの大きな違いは、言葉がきちんと通じること。ボクはまだ引き下がらない。

    「ちょっとだけもふもふさせてくださいお願いします」

    一歩下がり、深々と頭を下げる。ダメで元々だ。

    「…………優しく触ること。あと、引っ張らないこと。それなら触ってもいい」


    意 外 と す ん な り 許 可 が お り た。


    ちなみにこれでダメだったら他ドールのレリックを破壊したともだちと同じように土下座するつもりでした。
    ボクはうんうんと頷き、まるで神にでも触れるように、両手をそ~っと伸ばして親指と人差し指で触れる。


    ふにっ

    「ふぁ……」

    あ~~~~~~~~しあわせ。
    とけそう。ここが楽園だ。
    耳はバニラのものより大きく、ふわっふわのもっふもふだった。

    「…………」

    耳を堪能していると、渋い顔のイオサニと目が合う。 ボクは感触をしっかり記憶に刻み込むように深呼吸をしたあと、名残惜しそうに両手を離し

    「しあわせになりました」

    もう一度深々と頭を下げた。

    「……良かったね?」

    不可解なものを見る顔をされた。この手の反応にはわりと慣れているので気にしない。

    「へへへ満足満足…」

    さて、今日の日記はこれで終わろうか。

    「…じゃなくて!そうそうこれ!」

    というのは冗談で、振り出しに戻る。 端末を見せ、イオサニについての話を聞く。耳の気持ち良さ以外何の情報もなしに帰るなんて流石にアホすぎる。

    …イオサニはボクの知らない場所…恐らくこの箱庭の外からやってきた存在。ボクが建造物だと思っていたのは宇宙船と呼ばれる乗り物らしい。それ以外にも、個人的に喉から手が出るほど欲しい装置、そして…大きな野望を持っていた。それは今回の日記のテーマに反するので、あまり書かないでおく。とにかく…いろんな事を聞いた。情報が多すぎてこんがらがりそうだったけど、頑張って理解しようとした。このイキモノが来た理由…これからのガーデンのこと、…アルゴ先生のこと……。 何度も何度も、感情が先走ったような発言をしそうになるのを、できるかぎりぐっと抑えたりしながら。

    とりあえず今は、ガーデンに着陸したときに壊れちゃった宇宙船を修理していて、それが終わるまでは特に動くことはない、とのこと。

    「ゆ~~~~~っくり丁寧に直していいからね~~~!!ボクもその方がいっぱい耳もふもふしに来れるもんね!!!」

    それを聞いたボクはひとまず難しい顔をするのをやめ、へらりと笑って通常運転に戻る。

    「耳なんて触って楽しいか?よく分からないが…」
    「しあわせが得られます」

    現時点で自信を持って即答できるのはこのくらいだ。

    …あ~あ。また考えることが増えてしまった。ひょっとするとガーデンの最終ミッションの相手を選んだとき以上に難しい問題かも。 ようやく強くなるために再スタートをきれたと思ったのに、そうも言ってられなくなっちゃった。 焦ってもイライラするだけだし、また沢山悩むことになるなぁ… はぁ…時間は待ってはくれないのに。

    余談。
    その日、寮の自室に帰ってバニラの耳をもふもふしようとしたら、食事を抜かれたことも相まって不機嫌100%のおしっこをかけられました。

    おしまい


    Diary046「言ってみるものだ」
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