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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    シャロンの逆襲

    ボクの名前はカガリ。ガーデンという魔法学校の生徒だ。
    勇者を目指す友、アザミを倒す魔王となるべく、1月の終わり頃から森に修行に出た。 だからうんと強くなるまでは会わないつもりだった。

    「その代償にとんでもないマギアビーストが出るかもしれない……ってなったら、あなたはどうします?」

    ボクは、燃えるコト…面白いことが好きで、燃えないコト…タイクツが嫌い。 そして、燃えるコトの前ではたびたび制御不能になる。

    「マギアビースト!? 出るの!? いつー!?」

    “マギアビースト”…ガーデンに時々現れる、異形のカイブツ(だいたいカワイイ)。 ここ最近タイクツ気味なボクを刺激するには十分なキーワードを、よりによって勇者本人から持ち出され、スルーを決め込もうとしていた念話魔法(離れているドール同士で会話できる手段)にうっかり応答してしまった。 慌てて、センセー……ガーデンやらボクらの寮生活やらを管理してるペラ板のモノマネをして誤魔化しても後の祭り。いや、別にあっち……念話の主、アザミに居場所がバレるわけじゃないけど……問題はボクの方。一瞬でも、懐かしいやりとりに安らぎをおぼえてしまったら…

    帰らずにはいられない、ガーデンに。






    …そんなわけで、ボクは久々に寮の自室に戻った。
    ガーデンでは既に新学期が始まっており、理由は知らないけど「ソルガーデン」「ルナガーデン」の二つに分かれ、ボクの部屋には「ルナガーデン」の制服が置かれていた。早速袖を通して備え付けの姿見を見る。うん、可愛い。何着ても可愛い。…あれ?鏡ってこんなサイズだっけ。前より大きく感じる…気のせいかな。 机の傍には、卒業したドールがくれたマギアレリックと、寝ているルームメイトのうさちゃん、バニラとそのおうちがある。 生徒会だの、新しい教育実習生だの、学校からの連絡を受信している端末は、中身の濃い通知で溢れかえっている。

    しかし!

    カガリのわくわくガーデンライフ第二章を始める為にはまずやっておかなきゃいけないことがある。この数十日の間でボクの身に何が起きたかを報告書に纏める。そんでセンセーにチクる。新生活への第一歩を踏み出すのは、それからだ。



    *



    修行の舞台に選んだのはワンズの森。
    入るのはこれが3回目だけど、既にこれでもかってぐらい思い出が詰まってる。バニラのふるさとでもあるから、このコを連れて行けて、かつドール目につきづらい場所といったらもうここしかなかった。 特に、お気に入りスポット『ワンズの像』の台座のある区域は、ある条件を満たしたドールじゃないとたどり着くことができない。 魔法が当たるといけないので、バニラを台座の裏側に避難させ、十分に離れてから訓練をはじめ、適当な時間になったらやめる。

    ところで、修行をするのにそこまで厳重に隠れる必要があるのかって?………ぶっちゃけ、隠れる口実として『修行』がちょうどよかっただけ。…どうして隠れたいのかって?
    それは……

    「久しぶりだねカガリちゃん?」
    「げ!」

    ボクには、会いたくないドールがもう一体いた。 ある昼下がり……森に籠りはじめてから一週間以上は経ってるから、だいたい2月に入ったぐらいかな?聴覚以外の感覚を研ぎ澄ませる訓練のため頭から被っていた、遮音魔法つきの前の制服の上着を取った瞬間、真後ろからそのドールの声が聴こえた。怖すぎない?

    「おおおおおおおしさしぶりれすしゃろんせんぱい…」

    しゃろんせんぱいこと、0期生のシャロン。学園祭で手伝ってくれたり、なにかと相談に乗ってくれたり、いいセンパイなんだけど、な、なんだけど………

    「げ、ってなにかなカガリちゃん?」

    アザミへの「会いたくない」は完全にこっちの気持ちの問題だけどシャロンの方はもうなんというか、防衛本能。 そりゃ「げ!」も出るわ。

    「なんでこんなとこに生えてくるんですか」
    「なぜだか最近ずーっと俺のことを面白いぐらいに避けてるみたいだったからさあ……、どうしたのかなーってね」

    どうしたのかなーでこんな所まで来るのはもうやってるでしょ。偶然じゃないでしょ。眷属呪詛でつくりだしたちっちゃいいきもので監視してたでしょ。帰りたい。

    「なにか後ろめたいことでも…」

    そのわざとらしく落としたテンポは暗に「事情は全てお見通しです」って言ってんだよなぁ…

    「やそそそそそそんなことあるわけないこともなくもなくもなくもくもくもく…」
    「いやどっちなんだい」

    ガーデンを離れてからそこまで経っていないはずなのに、言い訳の仕方どころか会話のやり方すら頭から消し飛んだように、意味不明な文字の羅列をもくもくさせることしかできない。

    「で、カガリちゃんこそどうしてこんな所に?」
    「えっえーとあの、修行を…そう、修行!」

    気を取り直そう。ボクは今修行中でとても忙しい。ドールに構っている暇なんてない。ものすごく予定が詰まったアイドルのように手短に挨拶してこの場を離れ

    「へえ~?」
    「そゆわけだから、じゃね!」
    「じゃあ付き合おうか!今時間あるし」

    させてくれない。

    「いやいやいやいやダイジョブデスイノチダイジ」

    “命大事”なんて初めて口走ったよ…

    「遠慮することないって!新学期もほったらかしにするぐらい大事な修行なんだろう? それに、俺もちょうど魔術の試し撃ちしたいなあって思ってたからさ!」

    100点満点の笑み。 今このタイミングでそのへんの一般生徒ドールから命をぶん取ろうものなら、眠りにつく度間違いなくこの笑みのシャロンに追いかけ回される夢を一か月間見ることになるだろう。それにしても、ドールの笑顔にここまで恐怖を感じる日が来るなんて思わなかったなぁ…

    「そ、それならそこの木がちょうどいい的になるんじゃないでしょおか!!!」
    「戦う練習は実際に動いてるものでしたいし、カガリちゃんも強くなりたいのなら、魔術を実際に受けてみた方が色々なことがわかってくる……じゃないかな?」
    「こ、ころされる……」

    とにかく、ヤバイ状況なのは変わりないし。



    *


    「さーって、何から試そうか?」

    シャロンはにっこにこ顔で水分補給をしながら言った。もう楽しそうじゃん。 流石に何度も失敗しているので、消費魔力の大きい転移奇跡で逃げる案はナシ。それに、さっきシャロンが言った「実際に魔術を受けた方が色々なことがわかってくる」という言葉、色んな意味で正しい。 丁度良く、ボクには「喰らってみたい魔術」があった。 氷の柱を創り出す樹氷魔術と、熱を奪う(与えることもできるみたい)放散魔術。どちらもクラスコード・ブルー…そう、アザミが所属するクラスの魔術だから、立派な勇者対策!
    ………ってことにしといて。

    「樹氷と放散からか、了解!」
    「『から』て何、ねぇ。『から』って」

    その後も確実になんかやります宣言されてる。やっぱ帰っていい?

    「樹氷はツララを出すんだよな……よっ」

    ちょっと背伸びして高いところのものを取るような軽い掛け声から生まれたと思えない、大きく、先端の尖った氷の柱がボクのすぐ横の足元から空に向かって真っすぐに突き出る。

    「ひゃっ!!!!」

    ドスンという音が合図になったので間一髪のところで避け…

    ドスドスドスドスドス
    多い多い多い多い多い!!!

    いくら耳が良いとはいえ突然アップテンポな超絶技巧を譜面なしの初見でやれなんてムリなの。避けれるわけないのこんなの。まぁ当たるのが正解なんだけどこれはひどすぎる。そんなに尖ってなかったから身体に突き刺さることはなかったけど、当たれば痛いです。はい。

    「放散かあ、放散って難しいよなあ……」

    あやうく氷像にされるところだったってのに、息を切らしているボクに、シャロンは特に何の反応も示さずさっさと次の手を考えている。極悪氷柱カーニバルでちょっと寒くなってるし、今これ以上熱を下げられたら溜まったもんじゃない。せめてちょっと休みたい…

    「ん?どこ行くんだい?」
    「あの~ちょぉっと喉がかわいたのでぇ…」
    「おっと待った!」

    の掛け声の振動が地面に、そして……

    「びえぇっ」

    足の裏から全身に伝わって身体がシビれた!?…ように感じた。 いや、多分声は無関係だけど…何とも説明のしようがない。 だってこれ知らない魔術だもん!ビリビリしたものが足元から這い上がってくるような感覚がするので、自分に浮遊魔法をかけて浮こうとするけれど、靴に触れる前に痺れでバランスが崩れ尻もちをつき、より多くのビリビリをプレゼントされたタイミングで魔術が解除された。

    「しっっっっっかり怒ってんじゃん!!!!!!!!」

    ボクはよろよろと立ち上がりながら憤慨する。

    「ふはっ、じゃあそういうことにしておこうか」

    ????????
    そーいうこともこーいうこともないでしょうが。これで怒ってなかったら何なの!?

    …… お察しの通りボクはシャロンを怒らせるようなことをした。はい。やりました。 去年の終わりごろ、シャロンはある理由で身体が使い物にならなくなり、端末を通しての会話しかできなくなった時期があった。
    で、その、まぁ…そん時色々あってぇ…娯楽がほしくてぇ… つい、ね、つい。落書きしちゃったわけ。油性ペンで。あくまでシャロンの姿が映っている端末に、だよ?だから元通りの身体になった時顔に落書きなんて残ってなかったもん。…で、さっさと一喝してくれたら良かったのに、なんかボクと目が合うたびにっこ~~~って笑ってきてさ、もう逆に怖いじゃん。しんだほうがいいような目にあわされるじゃん。ボクは他のドールに比べて死に対する恐怖は薄い方だけど、あくまで「燃えるコト」がその先に待っている時限定だからね!?

    「なんで!?オレちゃんせんせぇは端末ビンタで済んでたのに!罰重くない!?!?」

    もうひとつ納得いってないことがある。シャロンを端末生活せざるを得ない身体にし、他のドールも沢山傷つけた張本人…ガーデンの教師AIのアルゴ先生に対するシャロンの制裁は『端末のボディで殴る』にとどまった。ボクは傷ひとつつけてないのに何で魔術モリモリ乗せスペシャルコースなわけ!?意味わかんないんだけど!!

    「んー……強いて言うなら」

    けろっとした表情でシャロンは一瞬だけ考え

    「たまには俺がこういうことしても、いいよな?」

    本日一番のすがすがしい笑顔と共にこう言い放った。 いいよな?じゃないんだよちっともよくないよ。軽いイメチェンみたいなノリでかよわい、かわよいコーハイを袋叩きにしないで。アザミでやってそういうことは。 落書きが原因じゃないんだったらこっちも黙っちゃいられない!

    「ふーざーけーんーなー!」

    もうこうなったら、顔面にガチで消えない落書きを残してやる。 ボクはシャロンの顔面をすっぽり覆うほどの架空のレンズをイメージし、意識を集中させ、光を蓄積させる。クラスコード・イエローの攻撃魔術といえばこれ!集光魔術の準備だ。 かつてアルゴ先生から喰らった桁違いの威力のそれを思い出しながら、できるだけ近いものを相手にぶっぱな…

    「って!」

    …頬を細い何かで焼かれるような感覚がして気が逸れてしまい、魔術は不発に終わる。 一心不乱を貫けない悪いクセだ。ハッとして相手を見れば、手を銃の形にしちゃってかっこつけてる。

    「俺、実は銃得意なんだよ?」

    撃つまでの隙がなく、的確に狙いを定めて細い集光魔術を連発してくる。だから多いんだって! …待って?いくら魔力をそこまで消費しないワザだとしてもさっきからえげつない量撃ってるのに、ピンピンしてるの何!?
    ……と気になってガーデンに戻ってから調べたところ、一日魔法が使い放題になるマキシウムという飲み物があるらしい。シャロンが戦闘…いや拷問開始前になんか飲んでたのは、そういう事か…購買で普通に売ってるらしいけど、ボクが購買で買うものといえば9割贖罪券だから気づかなかった…

    「さあさあ!しっかり逃げないと、冷えちゃうよっ」

    その声を最後に、シャロンが消えた。いや、これは…消えてはいない。屈折魔術で光を操って、透明に見せているだけ。僕の周りをぐるぐると、足音が動いているのだけはしっかり聞こえる。何も知らないふりをして足音が近づいてきたところを集光……いやもうナイフでいい。めんどくさい。準備しようとポケットに手を忍ばせた時……

    ポン。

    「!?」

    背後から肩を叩かれ、反射的に振り向くと……人差し指が頬にむにっと当たる。

    「なんで!?」

    思わず声がひとりでに飛び出る。 何、が、起きた…? 確かに足音はボクの周りから聴こえていた、はずなのに、気が付いたらすぐ後ろにシャロンが居た。 瞬間移動ができる転移奇跡を使った?…違うな、使うのなら屈折魔術を解除してからじゃないと。 動くものに録音魔法をかけて惑わした?……そんな都合の良いものは無い。風だって吹いていない。
    …と、あれこれ考える間もなく触れられた指先から放散魔術が放たれ、ボクは冷凍庫生活を疑似体験させられることになるのだった。うれしくない。
    魔法や魔術のことはかなり学んだはずなのに、さっきのビリビリといい、ボクの知らない何かをシャロンはまだまだ隠し持っていた。シャロンだけじゃない、アザミや、ボクより先に進んだドール達もきっと……

    「それじゃ、修行?がんばってね!」

    突然現れた通り魔による乱暴狼藉は、ボクの身体が首だけを残して地面に埋められたところで終止符が打たれた。

    びぇ。

    かつて、あるノートに誤解を招く情報を書き込んでしまったばかりに面倒なことに巻き込まれた(ボクが巻き込んだ)アザミの悲鳴を思い出す。

    「落書きしただけなのに~~~~!!!!!」



    *



    …と、まぁ、こんなことが起こったわけで。 穴掘りが得意なバニラが気づいて来てくれなかったら自力で脱出は難しかった(それでも時間はかかったけど…)。 その後気を取り直して、まぁそこそこ修行も頑張ったけど、何をしたかとか、ああ…あと、埋められた場所にナゾの建物があったとか書きたいことがいっぱいあるけど、ペンを走らせているうちになんだか皆と喋りたくなってきたから、また今度でいいや。 屈折魔術でコソコソしながらの引きこもり生活も飽きたし、この報告書を出したら久しぶりにダイニングに顔を出してみようかな。


    Diary059「シャロンの逆襲」
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