行事自体がつまらないんじゃなくて、それ以外にしなきゃいけないことが山積みなのだ。 一日の終わりに専用のテントで寝て起きる。ボクがやっているキャンプらしいことといえばこのぐらい。海はとても好きなのにちょっと勿体ない。でもこれでいい。
ルームメイトのウサギ…”バニラ”はデリケートなので海には連れて行けない。だから朝テントで目が覚めたらまず寮へ行って、バニラにご飯をあげて、そのまま連れて行ってでなんやかんやして、夕食を一緒に食べて、おやすり(おやすみのすりすり)してからおへやに戻して浜辺に帰る…ここ最近ほぼこんな感じ。
今日は少しだけ違った。バニラを肩に乗せて自室に連れ帰るボクは両手にあるものを持っていた。 使うと不思議な効果が発動する道具…マギアレリックだ。 レリックゼロという不名誉な異名を持つドール、アザミのもとに遂に渡ったレリックがついうっかり壊れてしまい、出現したマギアビーストを倒した報酬が、ボクの所に届いたのだ。
“どうかもし、マギアビーストの討伐後にレリックを入手しましたら
アザミの方へ返還願いたいと思います。
ホント、できることはなんでもしますので…
…靴も舐めるし土も食べるんで…
…お願いします。”
リビングの掲示板のきしょい貼り紙の通りにするならば、これは真っ先にアザミに返すべきものである。土を食べる姿にも興味はあるが、レリックの説明書を読むとこれがなかなか今の日課と相性が良いので、こっそり頂いてしまうことにした。誰にレリックが届いたかなんて知らされないから、へーきへーき。
台座のような見た目のそれは、なにかを生成していた。それが完成するのに最低一時間ほどかかり、更に1時間毎に少しずつ大きくなるようだ。恐らく大きくなればなるほど高い効果を発揮すると思われるし、ぼーっと見ていてもつまらない。
説明書を読んでいる間、お構いしろしろとひっきりなしに肩をホリホリしていたバニラも遂に寝落ちしたので、そっとおへやへ戻す。 寮から海まではかなり時間がかかるから、その間にレリックが拵えているものがよりいい感じのサイズになるよう期待しながら歩き、テントの中で、完成したブツの効能を確かめるのが良いだろう。
さて、問題はこれを物乞魔機構獣レリックヲイテケにバレないようどう運ぶかだ。他クラスの魔法や魔術をなぜか習得しているアザミがこの部屋を透視していたら死が確定するけど、それならもっと早い段階で部屋に突撃してもおかしくない…監視されていないことを願いつつ、レリックに触れ、縮小魔法をかけてポケットに入る大きさまで小さくして持ち運ぶ。専用の大きな武器を対策本部まで運んでいたドールをを思い浮かべ、ひらめいた方法だ。これで準備は万端!
*
道中、アザミを警戒しながら歩くが、特に草むらから襲い掛かってきたり、地面から生えてくる様子はなく、時間こそかかれどすんなりと浜辺へ戻ることができた。肩を撫でおろし、自分のテントの入口を開いたそのとき
「ハァイカガリサァン……」
「ぎゃあああ出たああああ!!!」
「やめてくださいひとをゴーストみたいに…」
確かにゴーストではなかった。しかし、テントの中は捕って喰いそうな顔のアザミで埋まっていた。
「それより……持ってますよね?」
「なにを?」
「とぼけてもムダです。出してください、マギアレリック」
レリックのために勝手に住居に侵入するのは勇者のやっていいことだろうか。 多分彼女はタンスや机の引き出しから回復薬をくすねるタイプの勇者だろう。 かく言うボクも魔王たりえるかと言われれば…この話は今はいいや。
「持ってませ」
「いいえ持ってます。出撃したドールに一通り確認しました。あとはあなただけ。それに……レリックの匂いがプンプンしますねぇ?」
理由はむちゃくちゃだがバレているようだ。こわ。 少なくともボク以外のドールがレリックを受け取れば、某眼鏡を除いて素直に差し出すだろうに、わざわざひとりずつ問いただしたのか。普通にきしょい。
アザミは問答無用で掴みかかる。油断していたせいもあって数秒間の取っ組み合いののち、アザミのバックドロップであっさりと終わった。唯一良かった点は、色々あって、ボクがそこそこ苦い表情をしていたのを彼女に見られなかったことぐらい。 当然ひっくり返されればポケットからモノが飛び出してくるのでありまして。
*
両腕を組むアザミと正座するボクの間に、大きさが戻ったマギアレリック。
「ちょっと使うくらい良いじゃん~」
「ちょっと使うだけならコソコソ持ってくる必要がないですよね??」
「バレたか」
「…それで?これはどういうシロモノなんです?台座…のように見えますが…この中央の物体は…」
見ると、台座中央部分にちんまりと……できていた。
「かなり小さいですね……用途も形状から全然想像できませんし……」
「あーーダメダメ!!」
レリックの真の持ち主であるはずの手を当たり前のように払いのけ、ボクは出来上がった一粒を取り外し、口の中へ放り込む。
「隠し場所!!!…まぁひとのこと言えませんが」
隠しているのではない。試しているのだ。
口の中に入れた堅くて小さな物体を…… ごくん。
「って、え…呑んだ? 今。なんで??」
アメづくりに失敗したときの砂糖の味が口いっぱいに広がる以外、期待していた効果は見られない。 まだ大きさが足りなかったのかも知れない。そしてこれ以上の実験は続行不可のようだ。
「ぶぇ~…あんまおいしくないからアザミにあげる」
「今その一部をあなたが食べたんですけど⁉︎」
「だいじょぶだいじょぶ、またすぐできるから」
「?????」
アザミはまだピンと来ていないようだ。
いいじゃないか、これは今からキミのものになるんだから、たっぷり時間をかけて検証すればいい。
……たっぷりの時間。きっと過ごせる…よね?
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