このお話のつづき
空の光は姿を消すどころかよりいっそう燃え上がるように感じる。
地平線は見えないが、どうやら日はまだもう少し、沈みそうにない……
両掌にふわりと包んだ彼の核を、
そのままで在り続けて欲しい、彼の人格そのものを
木々の間から顔を出す紅い光にそっと重ね それを丸ごと吸い込むように、
託された声をかみしめるように、一気に呑み込む。
口の中いっぱいに、錆びのような…そして仄かに甘い味が広がる。
ああ……これが彼というドールを形成した人格コ
「いやまっず」
普通にマズい。
全身から力が抜け、その場にふにゃりと座り込む。
え?皆これ呑んだの?ゲロマズじゃん。
きっしょ。
全員同じ味なの?あ、性格で決まる?
傍らで木にもたれかかっている、彼と目が合う。
…最も、相手はもうボクのことなんて見えていないけれど。
「当たり前でしょゥ。食べ物じゃあるまいしィ…」
彼の音階を真似てそう呟く。耳に入ってきた自分の声が、変声魔法を使用していないわりにそこそこ似ていたのでふふっと口元が緩む。
なんだかよくわからないけど、楽しくなってくる。
ボクは思わず歌ってしまった。
これまでの学園生活でも、無意識に口をついて出てくるあのメロディーを。
どこで覚えたのかも、誰に教わったのかも、自分でつくったのかさえわからない……
……わからない?
……違う。
ずっと前から歌っていたじゃないか。
そうだ。まさに…こんな状況で。
炎が全てを赤く染めている時に。
周りのものが奏でる音とはまるで不釣り合いな、爽やかで明るい歌を。
いつも途中で終わっていた旋律には、続きがあった。
適当にハミングで誤魔化していた部分にも、しっかりとした言葉が乗っていた。
歌える 歌える 歌える
すべて、歌える。
ボクは――――
『最終ミッション達成おめでとうございます』
*
ボクの長い一日は、あの後もう少し続いた。
詳しくは別の機会に書こうと思っているけれど、自室にたどり着く頃には、寮の殆どの部屋の照明が消えていた。あ、迷子になってたわけじゃないよ。
そして翌日…10月22日。
泥のように寝た。どうやらはしゃぎすぎたようだ。
カーテンを閉め忘れている。毎朝窓から降り注ぐ光はとっくに真南へ昇ってしまったみたい。
それでも、快晴の朝に早起きをしたように、頭の中はすっきりとしていた。 いつもと同じ、日常のはじまりだ。
アイツは、もう目を覚ましたかな。
願ったカタチで、また憎たらしく笑ってくれるかな。
会いに行こうか?…いや、やめておく。
そういえば…アイツ何時に起きてんだろ。それさえ知らないのにあんなことに巻き込んだなんて。 笑っちゃうな。
いつもどおりに、時間が流れる。
ちょっとだけ違うのは
たくさん思い出して、
一番古いともだちのことを少し知れて
…忘れたふりをしなきゃいけないことがひとつ増えて…
でも、それだけ。
なにも驚くことはない。
結局のところ、ボクはボクだった。
それがわかっただけで、寧ろ気が楽になったかもしれない。
軽い足取りで、燃えそうな予感のする方向へ突っ走るだけ。
…最高にたのしい、……”夢”、…だったな。
さてと!今日は何をしようか?
Diary036「夢」
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