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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    その瞬間(とき)を閉じ込めて

    フィナーレライブまで残り一週間を切った。
    色々あったけど、どうにかセンターに立つにふさわしい歌声も取り戻すことができた。
    …そうなるまでのいきさつは…そろそろ自分の声の話ばっかりするのも飽きたし、気が向いたらまた。






    ここのところ、出演メンバーは放課後毎日音楽室を独占しっぱなし。 日が落ち切ったあとも歌や演奏が鳴りやまないことも稀じゃない。
    今日も窓の景色に星空が描かれ始めるまで続いた練習が一段落した頃…

    「はーい、お疲れのところごめんね。ちょっとこの辺りの物を避けてもらっていいかな?」

    ライブスタッフ担当のククツミデュオがなにやら箱を携えてやってきた。司会担当のシャロンに、ドラム担当のロベルトが加わって楽器ケースやら鞄やらラーメンどんぶり…ラーメンどんぶり?…兎に角、いろんな荷物を壁際に寄せる。 ボーカル担当のリツ、アイラが幾つか机を並べ、その上に箱が置かれる。

    「なになに?なにー?」
    「「さて、なんでしょう?」」

    箱に吸い寄せられるボクに、ククツミデュオは声を揃えた。普段敬語をつかわないククツミセンパイの方が、楽しそうにややククツミちゃん側に調子をあわせているようにも聞こえたけど、それを抜きにしてもふたりの根底にあるものは一緒なのか、指揮棒もないのに息ピッタリだった。 共同主催のアルゴ先生による「開けちゃいましょうなのです!」という号令で、ボクとアイラちゃんが真っ先に箱を開け、中身を確認した。

    「わぁぁ!遂に!」

    入っていたのは、本番に着る衣装だった。予め仕立て屋に発注しておいたものが遂に届いたのだ。

    「かぁわいい〜!」
    「う、うわぁ、こんなの着て歌えるんだ!」
    畳まれてある衣装を一着取り出し、広げてみる。男女でデザインに差はあれど色合いがしっかり統一されている。

    「こ…これ着るの!?」

    と、少し間の抜けた声を出したのはリツ。女性用の衣装は肩を露出しているので、普段白衣に身を包んでいる(思えばこのライブ、白衣がムダにふたりもいるな…リツもカガクが好きだったりするのかな?)彼女には未知の領域だったようだ。

    「リツさんなら、きっとお似合いだと思いますよ?」

    と、ククツミちゃんが、たぶん正規の方法でリツを勇気づけたが

    「そうだよねぇ。リッちゃんには早いよねぇ~。ボクが着たら箱庭一モテちゃうかもね?」
    「あっ、箱庭一は不動でオレちゃんなのです。カガリさんは良くて二番目なのです」

    すかさずボクが変化球をかましたら、アルゴ先生も便乗してきた。

    「下から数えて、の間違いではァ?」
    「すっこんでろメガネ!」
    「ジオくん、嫉妬はいけませんなのです」

    白衣その2も首をつっこんできた。

    「はぁ!?着ないなんて言ってないし!」

    結果的にリツに火をつけることには成功したからいいけど…

    「この帽子も素敵ですね!」

    ロベルトがそう言って、赤いバンドのついた小さなシルクハットを取り出す。こちらは男女兼用のようだ。

    「でもちょっとジミだね?」
    「そう?あたしらが歌う曲も可愛さ全振りってわけじゃないんだし、丁度よくない?」
    「そうですね……よければなにか、お作りいたしましょうか?」

    リツとボクが話しているところに、こう提案したのはククツミちゃん。

    「つくる?」
    「ええ。ハットバンドにちょっとした飾りでも、と思いまして。皆さんそれぞれ、お好きなモチーフのブローチがついていたら……それだけでおしゃれになると思いませんか?」

    リツの帽子の赤い部分をちょいちょいと軽くつつく。

    「もしあまり目立つのがお好きでなければ……リツさんなら、髪や目の色とお揃いのリボンをあてがうのはいかがでしょう?」
    「あ~なるほどね、好みによって控えめにも派手にもできるわけだ」
    「ね~!ボクはボクは?どんなのが合うと思う?」

    満足げなリツの後ろから身を乗り出すと

    「燃えるのがお好きなら、いっそ帽子に直接火をつければ良いのではァ?」
    「帽子燃えんじゃん!」
    「だからァ……お好きなんでしょゥ?燃えるのが」
    「いっそカガリだけ頭チリチリで出れば?」

    茶々を入れるジオに加え、リツの追撃まで来た。白衣を着ている奴は全員燃やしてやろうと心に決めた瞬間だった。…と、焼殺対象ではない方向から「からころ」という音色が…

    「ク ク ツ ミ ち ゃ ん?」
    「す……すみません、だって、頭チリチリの……カガリさん……」

    ククツミちゃんは落ち着こうとシャロンの後ろに避難し、まだ肩をプルプルさせている。 どうやら燃やす対象は白衣にとどめるべきではないようだ。 ここでアルゴ先生が、過去にボクが(発火が原因ではないが)あるドールの頭をチリチリにさせた事を暴露しないか心配だったが、『今回は』生徒のプライバシーを守ってくれたようだ。
    とにかく、ククツミちゃんがこの帽子に似合うアクセサリーを作ってくれるらしい。とはいえ本番まで日数がさほど無いので、それを懸念したロベルトが案の定「お手伝いできることがあれば何でもおっしゃってくださいね」なんて言ってる。

    「あれ?まだ何か入ってるよ」

    全員分の衣装を出し終わったアイラが箱を覗き込んで放った一言にボクの興味が傾いたので、燃やされそうになっていたドール達は命拾いする。

    「これは…」

    箱に寂しそうに残されていたグレーの布地…のようなものをシャロンが取り出し広げる。その正体は、ボクとアルゴ先生がデザインした学園祭のロゴが書かれたTシャツだった。

    「俺達のじゃないかな?」

    シャロンはククツミデュオを見てにっと笑う。
    ライブの観覧を早めに予約したドールには、白いライブTシャツが配られることになっているが、こちらは灰色。箱庭に3着しかない、スタッフ専用カラーだ。

    「折角だから皆で着てみちゃう?」

    アイラが教室中のドールを見渡しながら同意を求める。誰よりも自分が早くそれを身にまといたいと言わんばかりに胸を弾ませている。

    「着る~!!」

    それにボクが便乗しないわけがない。
    「折角だしね」「賛成です」と他ドールも口々に同意する中

    「どうせ当日になれば嫌でも着ることになるでしょうにィ…」

    ひとり、場の空気を盛り下げてくるメガネ。

    「へー。じゃ何で衣装出した瞬間メガネはずしてたんですか~」

    アルゴ先生と箱庭でモテるモテないの話に口を出してきたジオを、ボクがすかさずにらんで反論したとき、アイツが眼鏡をかけなおすところがちょうど目に入ったのだ。アイツは眼鏡を…ものをよく『見たくないとき』にかける。

    「そりゃァ、とち狂った模様の服でも着せられては困りますからァ?」
    「まぁまぁ、ジオくんもその辺で」

    いいじゃんオマエだってとち狂ってんだから!と言い返すより先にククツミセンパイが遮る。

    「折角演者もスタッフも全員揃っていることだし。私(わたし)としては衣装を着たみんなの記念撮影ができたら嬉しいんだけど、どうかな?」

    ククツミセンパイは、既に片手に持っている映写魔道具を指差す。 ジオは観念したように軽くため息をついて

    「やれやれ…仕方ありませんねェ」

    とこぼしてピアノ椅子を立つ。
    スタッフメンバーは練習への参加が必須ではないので、ククツミセンパイの言う通り、ライブ参加ドールが全員集まっているのは珍しい。本番前はなにかと慌ただしいし、集合映写画を撮れるのは今が絶好のチャンスかも知れない。

    各自着替えを済ませ戻ってくると、音楽室はあっという間に楽屋になった。
    衣装にあわせて髪型をどうするかの話を少し羨ましそうに聞いているロベルトにアルゴ先生がヘアアレンジを提案したり、そんな先生はなぜ着替えないのかと尋ねれば「本番前に着替えたらあまりのカッコよさに皆自信をなくす」といういつも通りのキレキレのボケ(本人いわく「本気」らしい)が返ってきたり、同じTシャツ姿で見分けがつきにくくなってしまったククツミデュオの、どっちがどっちかを当てようとするアイラに、ククツミちゃんが約一か月間それをし続けた実力を見せつけんばかりに、ククツミセンパイのマネをして余計に混乱させたり…
    とにかく賑やかで、賑やかで…ボクはとても居心地がよかった。

    その後、撮影はスムーズに行われた。椅子をつかって簡易的な平台をつくったり、微妙に立ち位置を調整したり…今までは集団行動なんて楽しいのは最初だけだと思っていた(実際、飽きてサボり始めたのを知っているドールもいるだろう)けど…今日はなんだか気分が華やいだまま。
    シャッターはセンセーにでも切ってもらうのかと思いきや、ククツミセンパイが浮遊魔法…とも違う何かを使って映写魔道具を操り、シャッターを切っていた。 開演中、喋っていない間も音の調節を気にかけるシャロンと違ってククツミデュオは比較的自由に動けるので、この方法でちょっと変わった角度から臨場感のある映写画を撮るつもりだと意気込んでいた。

    いつしか演劇の本に書かれてあった「舞台は裏方がいないと成り立たない」という言葉の意味が、ようやっと理解できた気がした。



    かくして、ライブの大成功を予感させる瞬間が、一枚の映写画におさめられたのだった。


    Diary029「その瞬間(とき)を閉じ込めて」





    ~おまけ~


    ボク「ちょっ…オレちゃんせんせぇのせいで全員ピンボケしてるじゃん!!」

    オレちゃんせんせぇ「映写魔導具がオレちゃんを一番撮りたかっただけなのです。気持ちはわかりますなのです」

    リッちゃん「あ~あ、フィルム腐ったわ」

     
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