原因は多分…大団円で幕を閉じた学園祭のフィナーレライブに全力を注いで燃え尽きたのが一つ。…その舞台が…一緒に歌ってくれた、ボクの歌にはじめて歌を重ねてくれたドールとの生活のフィナーレにもなってしまったのが一つ。
ライブの後、そのコを見かけないと思ったら…パートナーのドールと共にガーデンを去っていた。彼らは廃棄処分や公開処刑ではなく「卒業」したという。
特別な言葉を交わすことなく別れを迎えてしまったのは、またいつか出会える望みがあるからだと信じたい。
でも、いつまでも空の巣になっていても仕方がない。 少しずつ燻った心を炙りなおす。声が失われた時より立ち直るのは容易だった。
部屋の大掃除をして頭をすっきりさせたり
掃除中に頭上から落ちて来た初版の教科書を読み直したら、前見た時より意外と理解できる部分が増えていて、
気晴らしにそれ……
『魔術』という新しいワザを実践してみたり。
光をまっすぐに放って攻撃する『集光魔術』をうまく炎の形にできないか奮闘して、魔力切れに気づかず倒れたり…
…ボクらしい充実した日々を重ね、元気を取り戻す。
そして…できる事が増えれば、やりたい事も増えていくというもの。
ちょうど今春エリアに『なんかデカいヤツ』が出現しているらしいので、魔術の試し撃ちでもしてやろう…そもそも『なんかデカいヤツ』って何なの?いつも通り武器を借りて戦闘をしろとのことだけど、マギアビーストとは何が違うんだろう?
そんなことを考えながら寮のたまり場(リビング)へ降りて行くと、見た目も声も瓜二つのまま別人格で分裂(?)した、ククツミデュオが揃って、激しい運動でもした後のようにぐったりしていた。運動会に参加をしたのか、それとも朝いちばんに出撃でもしたのだろうか。
「ん?これククツミちゃんの~?」
ククツミデュオの片割れ…結った髪にふわふわをつけている『ククツミちゃん』が座っているソファの横に、見慣れない袋が置いてあったので、仕立て屋で新調したバッグだろうか?と軽い気持ちで触れようとした。すると
「だ、ダメです……!」
怒られた…と、いうよりは、めちゃくちゃ焦らせてしまった。なぜか聞こうとする前にククツミちゃんはこう続ける。
「爆発してしまいますよ……!!」
ククツミちゃんの横で、抹茶色の服を纏った『ククツミセンパイ』も、マズいものでも食べたような顔でボクを見ながら、呆れたように笑っている。 袋の中に何があるのか、ふたりに何が起きたのかはさっぱりだったが、ボクは今確信したことを口に出す。
「…おもしろそ~~~!!!!」
*
「……という『武器』だそうです。討伐参加の報酬、とのことで渡されたのですが……」
場所をガーデンの屋上へと移し、ククツミちゃんがこのナゾぶくろの説明をしてくれた。
袋から無限に楕円形のボール?が出すことができ、それを敵に向かって投げ、爆発させて使う 『グレネードポーチ・プロトタイプ』という名前の武器であること。
魔力を込めて投げつければ更に高い威力を発揮できること。
そして……
「その、決して安全なものではなく……運が悪いと、えっと……」
「どっかーんと、傍にいる子たちも巻き込んで暴発しちゃうんだよねぇ」
途中で口ごもったククツミちゃんの代わりに、ククツミセンパイが説明する。 その間ずっとばつが悪そうだった。まるで「爆発させました」と顔に書いてあるようだった。
……ほらやっぱり面白い!!!
袋から爆弾を取り出す前にボクの好奇心は爆発してしまった。 爆発が起きればそこにできるのは火の海。
「ね!ね!貸して貸して!いっかいだけでいいから~!」
ボクははしゃぎながら両手を前に出し、受け取る準備ができていることをアピールした。 …すると、ククツミセンパイが
「……多分これ、カガリくんなら楽しく使ってくれそうだと思うよ?」
願ってもないことをククツミちゃんに口走った。 話を詳しく聞いてみると、案の定ククツミちゃんが昨日、魔力を込めた全力の状態の爆弾を暴発させてしまい大惨事になったらしい。今現れている『なんかデカいヤツ』はマギアビーストとは別物らしく、この爆弾も有効打のひとつらしいが、かといって周りのドールを巻き込んでまでこの武器を使い続けるのも忍びない…とのこと。
(ちなみに覚えたての魔術も効くみたいだけど、こっちにも跳ね返されてしまうらしい。ちぇ。)
「まぁ、カガリさんなら燃えることに食いつきそうだとは思っていましたけれど……」
「それならやっぱり躊躇いなくこの武器の力をフル活用できるドールに託すべきだと思うなぁ!?」
「もう、仕方がないですね……貸すではなく、完全に譲渡という形でお渡ししてしまいましょうか」
…ただ爆発させたいだけ。
それをきっとわかったうえで、ククツミちゃんはボクに、爆発袋を渡す選択をしてくれた。
「ただし、ひとつだけ条件をつけさせてください」
「なになに~?」
「……今後戦闘に同伴する方にも、この武器がどういうものかを必ず伝えてから使ってくださいね?」
「もちろん!!」
それくらいならお安い御用!
言えばいいんだもんね?「爆発するよ~!」って。
「……ふふ。約束、ですよ」
そう言ってククツミちゃんが差し出した爆発袋を受け取ろうとしたとき、ボクはふと、あることを思い出した。 あれはガーデンにまだ雪が降り積もっていた頃…雪遊びをすると貰える『ウィンターチケット』で挑戦できるガラポンゲームでボクが狙っていた『うさぎのぬいぐるみ』…それを、ククツミセンパ……
…待って、違う。
あれは…『人格コアが変わったことで周りをビックリさせないために(とボクは思ってる)、ククツミセンパイになりすましていたククツミちゃん』だ…
…… とにかくククツミちゃんがそのぬいぐるみを持っていて、ボクが羨ましがって……思えば、あのときと全く同じだ。
「…なんか、貰ってばっかりだなぁ」
義理やら何やらはどうでもいいけど、やられっぱなしというのがどうにも納得いかない。
そんな気持ちをぽつりと呟けば、ククツミちゃんは何のことだかさっぱり、と言いたげに首をかしげる。
「ククツミちゃんにも、なんかあげられたらいいんだけど」
ボクはそこそこククツミちゃんとはそこそこ喋ってはきたけど、そういえば好きなものを聞いたことがなかった。なんなら、ボクが一方的にそれを話して終わったことが多かったような。
「ほしいものとか…してほしいこととか、ないの?」
「ほしいもの……してほしいこと……」
アイデアが湧いてこないらしく、センパイに助けを求めるククツミちゃん。
「いや、こっちに視線を向けられてもね?」
「あまり、そういうものが思いつかなくて…」
ボクは耳を疑った。 深く考えなくても、今食べたいものとか、最近使い切りそうになってる文房具を思い浮かべて口に出せばいいだけなのに…? 欲しいものはと聞かれれば最低でも10個は即答できるボクにとってこの状況を全く理解できなかったので、なんと言葉をかけたら良いかもナゾ。…すると、ククツミセンパイが助け舟を出してくれる。
「……カガリくんと、したいこととかは?」
「……」
センパイの言葉を聞いて、ククツミちゃんは暫く考え込む。
「…………」
やっぱり何も思い浮かばないのか、それとも逆に色々あって迷っているのか。
「その…」
もう少しククツミちゃんの沈黙が長かったら、
音を求めてボクは爆発袋にちょっかいを出していたかもしれない。
「カガリさんの歌に合わせて、アイススケートで……踊ってみたい、とか……」
「アイススケート?…え、ククツミちゃんも滑ってたの?」
懐かしい響き。
ガーデンに雪が降っていた頃、とにかく楽しいことを探し求めていた頃、夜の凍ったプールをステージに見立てて発光魔法を使いながら歌って踊ったことを思い出す。 ボクの知らないところで、ククツミちゃんも滑っていたんだ。
「ええ、時々…」
「そっかぁ…ぜんぜん会わなかったね!」
「そうですね、昼間に少しだけ、でしたので……」
「あぁ~、ボクは夜にしかやんなかったからなぁ」
「……ふふ。カガリさんも、好きなのですね」
テンポよく会話が進む。ククツミちゃんは、ボクと同じ『好き』をひとつ、持っている……。
たったそれだけのことで、心に優しい蛍火が灯る。
「これも……してほしいこと、になりますか……?」
「当たり前じゃん!今度やろ!」
燃える提案に乗らないわけがない、とボクは即答したが、あとから考えてみると…これじゃあ結局ボクも楽しい時間をまた『貰っちゃう』わけだけど、これでよかったのだろうか? …その疑問を感じ取ったのかはわからないけれど、ククツミセンパイがボクらふたりを見て微笑みながらこく、と頷く。
「では、改めて…」
ククツミちゃんが爆発袋を口をきゅっと閉じたことを確認してから、ボクに差し出す。
「上手に使ってくださいね」
「うん、ありがと~!!」
ボクは袋を受け取ると、折角かたく閉じられた口を緩め、ぱぁぁっと笑顔を輝かせながらさっそく一つ球体を取り出s
ちゅどーーーーーん。
幸い壊れたものはなかったけど、無事に爆発袋はボクの手に渡り、無事爆発した。
Diary031 だいばくはつ
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