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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    【PGP作品】ひと借りいこうぜ!

    気が付けば入学してもう半年が経とうとしていた。
    まさか…このタイミングで『はじめましてのセンパイ』に出会うなんて。
    やっぱりガーデンって面白いなぁ。





    『お面』 …それが、ボクがゴールテープを切る為に必要なカギだった。

    9月から10月までガーデンでPGP…わかりやすく言うと運動会が行われてる。
    今ボクが参加しているのは借り物競走。いわば指定されたモノを持った状態でないとゴールできない、ちょっと変わった徒競走だ。

    お面と言えばパッと浮かぶのがクラスコード・グリーンの仮面のドール、ロベルト………だが、彼もまたボクと同時にスタートを切った走者。選択肢からは除外だ。 でも……他に仮面をつけたドールは?戦いの時仮面をつけるドールを知っているが、今日は見当たらない……足の速さには自信があるのに、難易度の高いモノを引き当てちゃったなぁ…
    もたもたしていたらどんどん順位が落ちてしまう。何とかしなきゃ……でもそんな都合よくお面をつけたドールがいるわけ………

    ……いた。

    顔は隠れていないが、お面を身につけているドールが順番を待っていた。クッキー色の短い髪に、春の木漏れ日色の羽。新入生?ずっと前からいたコ?そんな事を考えている暇はない。

    「ごめ〜ん借りるよ!」

    返事も待たず、ボクはそのドールから仮面をかすめ取り、ひた走る。 後方で「返せ!」という声が背中にタックルしてきたような気がするけどお構いなし。遅れを取り戻さんと無我夢中でトラックを駆け抜ける。
    息が少し上がってきた。ボクの前を走っているドールはいない。少しくらいペースを落としても大丈夫だろうか? と思ったときだった。

    ッタッタッタッタッタッタ…

    どんどん近づいてくる足音。スタートした時には無かった音。気を取られるままに後ろを振り返ると…


    なんかものすごい勢いでさっきのドールが追いかけてくる。


    どうやらお面は相当大事なモノだったようだ。そうか……素顔を隠すわけでもないのに常時身につけているということは…命の次くらいに大事なモノ……なのかもしれない。少なくとも早く返さないと殺されると確信したのでボクは全速力でゴールテープに突っ込む。 お面をもっている理由を手放した瞬間、すぐ後ろからの「返して」という言葉と共にほんの一瞬の隙をついてお面はボクの手を離れた。ボクが何か言葉を返す暇も与えられることなく、知らないコはさっさと順番待ちの列に戻って行く。

    ……恥ずかしかったのかな?




    *



    ほんのちょびっと強引ではあったけど、無事に自分の役割は果たせたボクは首位の列からその後の競技の様子を見守る……あ、さっきのドールが走るところだ。クラスは違うけど、ボクの勝利に貢献してくれたんだからあのコにだけは勝って欲しいな…とぼんやりレースの動向を見守る…

    ……あれ?
    次の瞬間、仮面のドールが消えていた。見間違いではないかと目を擦っていると、

    トン。

    突然、後ろから肩を叩かれる。

    「びぇっ!?」

    さっきまでトラックを走っていたはずの仮面のドールが真後ろにいる。『転移奇跡』という魔法が存在するこのガーデンでは瞬間移動なんて珍しいことではないんだけど、
    とにかく圧が。 圧がすごい。
    思わずぎょっと目を丸くする。

    「も、もうお面は返したよね!?」

    『それはそうとムカついたのでぶっ殺しに来た』…とか言ってくれた方がまだ良かったかもしれない。そのコは無言で、まるで長い木材でも担ぐようにボクをひょいと抱え上げ、そのままトラックに突っ込み、何事もなかったかのようにゴールまで走り切る。 普段なら降り解くところなんだけど、この時ばかりは、理由はわからないけどここで抵抗するとマズい、と勘が告げていたので、このドールがゴールテープを切り、下ろして貰う瞬間までボクは『荷物』のフリをしながら頭の中で親しいドールに着せ替えをさせる妄想をしながらやり過ごした。

    「ヤユさん。カガリさんは『物体』ではありません」

    両足で地面に立つことを許され、ボクがドールとしての尊厳を取り戻した瞬間、『センセー』と呼ばれる端末がふよふよとヤユに近づき、つまらない音程で失格を告げる。

    「したがって、ゴールは認められません。只今の順位は、3位、ヤユさん、2位…」
    「…ふぅん」

    淡々と最下位宣告をされても、そのコ……ヤユは大して気にしていない様子で、どこか眠そうにも聴こえる相槌を打つ。

    「ん?どゆこと?」

    まぁ、借りもの競走の舞台に『荷物』として再び出演させられたということは、ボクがヤユに与えられた条件を満たすものをなにかしら持っていたから……のはずだけど、『ボク自身が物体じゃない』とは…? その答えとなる、『借りるもの』が書かれた紙をヤユが見せてくれた。

    『苦手なもの』

    「へ…なんで?」

    どうしてボクに苦手意識を持ったのか
    どうしてボクを『モノ』扱いしたのか
    ボクが発した「なんで?」はそのどちらでもない。

    「食べ物とか、教科とか、他にあったじゃん!?」
    「一番近くに居たから、丁度いいかなって」

    ヤユはそれだけ告げると、まるで風がそちらの方向に吹いているように、流れるように最下位の列に去って行った。居たから、て……そ、それ…だけ……? ボクはすっかりあっけにとられ、自分の列に戻るまで暫くぽへら…と立ち尽くしてしまった。

    ガーデンには色々なドールがいる。傷つきやすいコ、腹の立つコ、ミステリアスなコ……でも、今日会ったヤユというドールは、今迄出会ったどのコとも似つかない独特な空気を放っている。名簿を確認すれば、ボクより前から在籍していたコで、よく会っている「もうひとりの仮面のドール」と同期。…それなのにこれまで殆ど会わず、センセーのツッコミで初めて名前を知ることになる……なかなかに得体の知れないドールだ。 大事なものを取られたから怒った、という単純明快な行動をとったことを含めても…謎が多すぎる……ある意味『苦手なもの』と感じているのはボクも同じかも知れない。

    『苦手』を克服するために、またちょっかいかけられたらいいなって意味だけど!


    Diary032 ひと借りいこうぜ!
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