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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    恐怖

    (カガリには見えない文字で書かれている)
    ※かなりグロテスクな表現があります。

    「狭くない?」
    「ん~ん、大丈夫。避難所の寝袋よりは」
    「あれちょっと動きづらかったもんね…」

    今日ボクは、ドロシーの部屋にいる。 部屋の前で立ったまま寝落ちしかけていたところ声をかけられ、悪夢が続いて寝不足であることだけを軽く打ち明けると、理由を一切聞かずに此処へ招いてくれた。
    ドロシーの部屋はボクの部屋に比べれば置いている家具、壁紙や床も地味だが、色のチョイスはボクと少し通じるものがあった。 そして、ボクの部屋にはない『あるもの』が窓際に設置されている。彼女が今日ここに泊まるよう提案した理由もこれだ。 それは…日によって異なる気体や香りを排出し続ける装置…そう、マギアレリックだ。 頭をぶつけたらとても痛そうな見た目をしている。 今日はちょうど、「落ち着く香り」を、次の日には「元気な香り」を出してくれるのだそうだ。 軽めの毒が出る日もあるようだが、その時はどうしているのだろう。隣のドールの部屋にでも置いているのだろうか。 部屋に充満する香りは確かに落ち着く。わざわざ自室に置いている蓄音機を持ってくる必要もなさそうだ。 ボクはドロシーと他愛ない話を楽しんだあと、いつの間にか眠りに落ちた。






    「カガリちゃん、カガリちゃん」

    ドロシーの声で、ボクはすぐに明るい世界に戻される。

    「起きて、カガリちゃん」
    「んん~……」

    目を開けると照明ではなく陽の光が部屋を照らしていた。
    マギアレリックの力が、悪夢を跳ねのけたのだろうか?
    それか連日の寝不足で、夢を見る暇もない程に熟睡してしまったのだろうか。

    「よく眠れた?」
    「…うん!お陰でぜ~んぜん夢見なかった!」

    心配そうに尋ねるドロシーに、ボクは笑顔で応える。

    「よかったぁ…」

    うん、よかったぁ…
    ボクも心の中でドロシーと同じ言葉を呟きながらベッドから降り、窓の外の澄んだ青空を見つめる。

    「ところでカガリちゃん…さっきから、無いんだけど…」
    「なにが… …!?」

    呼び止められて再び目線をドロシーに戻すと、
    明らかに先程とは違う光景に目を大きく見開く。






    「私の 羽 知らない?」






    後ろを向いているドロシーの背中には、あるはずのものがない。
    かわりにべっとりと紅い譜面が滲んでいる。

    「私、知ってるよ。カガリちゃん、取ったでしょ」
    「ち、ちが」

    否定しようとしたその時、直前までは無かった感触がボクの手のひらに宿る。
    下を見れば、両手や服に滲む紅と……黄昏色の羽。

    「えっ」
    「私の羽…おいしかった?」

    ああ、期待したボクがバカだった。 朝など、きっとまだずっと遠いところにある。
    ここは……ガーデンの作り出した舞台の上だ。
    ボクは確かにドールから羽を奪ったことがある。でも彼女のじゃない。 本当にそれを奪った誰かの代役を、わざわざ面識のある彼女にやらせているのだ。

    「あとは、腕もいるんだっけ?」
    「言ってない!!」

    ボクはドロシーの両肩を摑むと ズルリ。 まるで綿の塊でも契ったかのように容易く、ドロシーの両腕が落ちた。

    「うわ!!?」
    「ふふ、ふ、いいの。カガリちゃん、いいんだよ。 私知ってるよ。カガリちゃん、こういうの好きなんだもんね。 次は足がいい?どこがいい?」
    「…ふざけんな!!!」

    あまりに馬鹿らしい茶番劇にボクは声を荒げた。
    ドロシーは強い衝撃でも喰らったかのようにバランスを崩し、後ろにのけ反って倒れる。




    『……友達が傷付いたら悲しくなりませんか?』




    すぐ後ろから、聞き覚えのある声。

    「ならないよね?カガリちゃん」

    死体のように横たわる体とは裏腹に、不自然にはきはきと動く口で、ドロシーが「声」から注意を逸らす。

    『キミは誰かが傷付いても、誰かが死んでしまっても、何とも思わないんですか』
    「嬉しいんだよね?カガリちゃん」

    煩い。

    『キミが友達と思ってなくても』
    「私ね、少しでもカガリちゃんに元気になってほしくて」

    ガタガタガタ、ガタガタガタ。 窓の傍に置かれたレリックが揺れる。
    煩い。煩い。

    『でも、誰かが傷付くのは……悲しいことじゃないですか』
    「今日の香りはね……カガリちゃんの大好きな香り」

    ゴポゴポゴポ。湧き上がるような音を立てて吹き出す紅。
    煩い。煩い。煩い。

    『キミのその考え方は寂しいと思います』
    「寂しくないよね、笑ってよカガリちゃん」

    ゴポ ゴポ ゴポポポポポポポポ。
    煩い。煩い。煩い、煩い!!

    「だって私達…」





    「黙れ!!!!!!!!」






    全身からふり絞って出た声が、世界をひっくり返した。
    同じ部屋の天井と壁。 でも、さっきよりはとても静かだ。 皮肉にも、今日は静寂の訪れに安堵してしまった。 窓際に置かれた装置は、もう煩い歌を奏でていない。

    「か、カガリちゃん…?」

    枕元から声をかけられ、びくっとする。
    ふと窓を見れば、群青色の下から顔をのぞかせる朝焼けの空。

    「…やっぱり、見ちゃった…?悪夢…」

    もう一度優しい声がした方を見るなり、ボクは布団をばさりとはぎとる。

    「怖い夢だったんだね…」

    ボクはどんな顔をしていたんだろう。怯えていたか?怒っていたか?
    それよりも先に確認すべきことがある。
    ドロシーの腕は、羽は……



    ……ついている。
    元の位置に。



    そもそも、最初からはずれてなどいない。
    辺りを見回しても紅い譜面はどこにもないし、部屋いっぱいに落ち着く香りが漂っている。
    ボクは何も言わずに布団をドロシーにかけ、ベッドから降りた。

    「どこか行くの?」
    「…部屋、帰る」
    「一緒にいこうか?」
    「…いい」

    ボクは精一杯笑って答えた、と思う。
    でもその顔を、彼女に見せる元気はなかった。





    自室に戻ってふと考える。
    夢は夢だ。ガーデンが造った笑えない小芝居だ。
    ドールがいなくなる夢、ドールを壊す夢…
    でももしそれが、いつか夢ではなくなるとしたら?

    ……実を言うと。
    タイクツを壊す手段が全てなくなってしまったら ボクは……
    ドールをひとりひとり、壊すつもりだった。
    さいごのひとりになるまで、壊すつもりだった。
    これはボクにとって「燃える選択肢」のひとつだった。
    好奇心ひとつで、楽園に沢山の悲鳴を轟かせ 死体の山へと変えてしまう。
    それをたったひとりで成し遂げるのはどんなに楽しいことだろうか、と。


    けれど…… ボクは今それをするのが、とても怖いと思った。
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