(カガリには見えない文字で書かれている)
※不快な表現が多分に含まれております
部屋に蓄音機を置いて寝る。
できれば眠ってしまうぎりぎりまで、音に溺れていたいから。
結局、味覚はマギアビーストによって奪われたものだった。
失ったものが帰ってきた。
悪夢が終われば、完全な日常が戻ってくるはずだ。
今日の夢には色がある。
音がある。
学校のグラウンドだ。
学園祭で使われるステージよりもサイズの大きい舞台で
みんながボクを、待っている。
楽しい音楽が聞こえる。
さっきまで流していた曲だろうか?
違う。
でもこの曲をボクは知っている。
パチパチパチ。
拍手がボクを迎えてくれる。
そういえば、そろそろ一か月経つころだろうか?
呪われた時間が終わるにはまだ少し早い気もするが。
そんなことは今となってはどうだっていい。
楽しい夢が、微笑んでくれるのなら
ボクはよろこんで飛び込もう。
センターに立つ。
楽しい、ああ、楽しい。
楽しくて、楽しくて、思わず歌ってしまうほどに。
ボクは夢中で歌った。
飛び出した声が、耳へ共鳴する。
なんて自由なんだろう。
ずっとこの時を待っていた。
安堵の後、胸が高揚する……
歌う
歌う
歌う
燃えている、ああ、ボクは、燃えている。
たのしいね
たのしいね
たのしいね
たのしいね
周りのドール達が歌に加わっていく。
歌声が
歌声が
歌声が
歌声が
歓声が
歓声が
歓声が
歓声が
悲鳴が
歓声が
歓声が
歓声が
歓声が
悲鳴が
悲鳴が
悲鳴が
悲鳴が
悲鳴が
悲鳴が
あれ?
最近よく一緒に歌ってくれるあのコが
いなくなったり帰ってきたりしたあのコが
ナイフの使い方を教えてくれたあのコが
ずーっと前に、いなくなったはずのあのコが
あのコが あのコが あのコが あのコが
ちょうど10分間の「演奏」を終えて
苦しんで
赤を吐いて、倒れれて。
顔を覗き込む。
誰だっけ。
誰だこいつは。
顔なんてあったっけ。
顔ってなんだっけ。
誰だ。
誰でもない。
つまらない。
つまらない。
つまらない。
つまらない。
おもちゃ。
おもちゃ。
おもちゃ。
紅くなって
積み上げられた
みーんな、
動かないおもちゃ。
でも、どうしてだろう。 涙がとまらないんだ。
おもちゃが壊れて悲しいのかな。
何で壊れちゃったのかな。
ボクのせい?
ボクがみんなを?
たのしかった?
何で泣いているのかな。
理由もわからないんじゃ
涙を流すことさえつまらないな。
頬をつたっていく感覚が妙に生々しいな。
これは夢なの? 現実なの?
もうどっちでもいいや。
早く終わって。
この舞台を
誰でもいい
終わらせて。
目を開いた。
見慣れた部屋の、見慣れた天井へ還る。
蓄音機はとまっている。
朝だ。 解放された。
……いや、待って。 目元に残る、これは
さっきまでグラウンドで流していたものだ
………え。
夢? 現実?夢?
どっち?
みんな…みんな……
そこに、いる………?
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