前の報告書を出した時から少し経って、フィナーレライブの参加メンバーも増えたけど まだまだ物足りない。どうにかしてドールを多く集めるには… …「声」が主役のイベントだし、頭よりも声を沢山使うのが一番だと気づいたのでした!
「…日もしっかり落ちたし…そっちの準備は?」
7月17日。
燃える空がすっかり寝静まったのを確認して、夜明け色の髪に二本のツノが特徴のシャロンちゃんが録音魔法の準備を始めます。
「いいよー!」
「大丈夫です!」
ボクと、ピアニカを持ったアイラちゃん…プリンみたいな色のショートヘアを真ん中分けにしたドール……が同時に応えます。こんな時でも息ピッタリ!
でも、アイラちゃんはちょっと緊張してるみたい。
これから何をするかというと…お昼の放送で流すための音声づくり!
二日前くらいに、放送委員であるシャロンちゃんが、先月新しく入った六期生(つまりボクのコーハイ!)のコと決闘をしているのを見てピンと閃いちゃったのです! ライブで演奏する曲もちょっとずつできてるし、演奏を放送に乗せて宣伝して、ライブのよさをより直感的に味わってもらえばいいって! ホントはボクひとりでやってもよかったんだけど、伴奏があった方が歌いやすいし、今のところピアニカでの伴奏を担当することになっているアイラちゃんにも協力してもらうことに。
「よし。流すタイミングは…明日のお昼の放送でいいかい?」
「おねがいしまーす!」
放送用のマイクで演奏の音を綺麗に拾うのが難しいから録音魔法で事前に録ったものを流した方が良いとのことだったので、ボクらは今音楽室に集まっているというわけです。
「……うん!じゃ、録音開始まで3…2…」
再生する時刻を決めて、録音スタート!
「みんな元気かい?放送委員のシャロンだ!」
いつも放送のスピーカーから聴いているこのセリフ!生で聴ける日が来るなんて思わなかったなぁ!
「学園祭の準備は進んでるかな?屋台の種類も増えてきたし、今日からこのお昼の放送の時間を使ってお店やステージイベントの情報を伝えていくよ。 さて本日は…お祭のフィナーレを飾るとっておきのライブステージを企画しているカガリちゃんが、宣伝に来てくれたぞ!」
流石は放送委員!シャロンちゃんはスムーズに放送原稿を読んでいきます。 セリフがそのまま書かれてるのかな?喋ることを箇条書きにしてあるのかな?ちょっと気になるところ。 続いてボクも企画を熱烈アピール!
「やっほ~!ハートに篝火咲かせます☆ガーデン一の火っ飛び系歌姫カガリちゃんだよ~!
みんな!フィナーレライブの募集チラシ、見てくれたかな? 楽器を弾けるコと、あとスタッフメンバーがぜんぜん足りてないので助けてくれるやさし~いドールを募集中です!
今日はみんなに少しでも興味を持ってもらうために、ライブで披露する予定の曲をちょっとだけ紹介するね!それでは聴いてください!」
お芝居の台本を考えたり読んだりするのは好きだけど、こういう時の喋りはいわゆる「あどりぶ」でやった方がしっくり来るのがボク。 ひととおり喋り終えたらアイラちゃんにわかるようにこくんと頷いて、演奏と歌を披露。
実を言うとこの曲はライブの募集をはじめた頃にはもう殆どできあがっていた曲で、ライブではラストに演奏する予定なんです!他にも集まったメンバーでつくった曲も歌う予定だから、楽しみにしていてくださいね!
「いかがでしたか?ビビっときてくれたコは是非、カガリかオレちゃ…あ、アルゴ先生までお知らせください!」
いつものクセで先生の名前を言い間違えちゃいました。 シャロンちゃんが笑ったのを見逃さなかったけど録音中だったからスルーする他ありませんでした。 前のシャロンちゃんなら、早口言葉でちょっと言い間違えても「どうしてだい?」って顔をするぐらいだったのに。 シャロンちゃん、暫く見ない間に服もガラッと変わってて…宣伝放送をお願いしに行った時は「え?ああ、まぁそんな感じ」って軽く流されちゃったけれど…。
そういえばちょっと前には同じライブメンバーのリツちゃんも髪型変えてたし、今流行ってるのかな?イメチェン。
「準備に練習に運営に、とにかく大がかりだろうから 皆是非手伝ってあげて。
以上、お昼の放送をお送りしました!」
台詞が終わり、暫くの無音。 …ボクはこういうシーンとしている状態がとにかく苦手!
もう喋っていい?耐えられない…と思っていたら
「……はい!録音完了」
もとい、『もう喋って大丈夫だよ』の合図をシャロンちゃんがくれました!
「はぁ~…緊張した…」
アイラちゃんが伸びに重ねるようにボクもぷはぁっと息を吐き、
「お疲れ!伴奏助かっちゃったぁ!」
と続ける。
「それよりカガリちゃん、今日ちょっと喉の調子悪い?」
「あははは!初めての録音だったからアガっちゃってたのな~!」
録音中、そういえば何度か咳払いをしたかも知れないけど、特にカゼは引いていないので心配ご無用!の笑顔を向けます。
「ところで、スタッフが全然足りてないって言ってたよね?司会とか音響周りのこととか、手伝おうか?」
と、ここでシャロンちゃんの願ってもない一言! 自分で司会進行をするのも捨てがたいけど、やっぱここは放送のプロにかっこよく紹介して貰って、テンションを爆上げした状態で歌う方が絶対燃えるに決まってる!
「ホント~~!?放送委員がサポートしてくれるなんて最強じゃん!」
「マイクの使い方とか、しっかり教えてください!」
マイク…ライブで使うからって初めて触ったけど、意外と使いづらいんだよね。ちょっとでも息が多いと「ボッ」て音が出るし。炎がボッと出るならいいんだけど…
「ああ、もちろん。その辺りで他にも何かあれば、俺でよければ相談に乗るから」
「わーい!」
「ありがとうございまーす!」
思いがけないプレゼントに、ボクもアイラちゃんもおおはしゃぎ…していたんだけど テンポよく進む会話の中に潜む違和感を、聞き逃すことはできませんでした。 違和感の正体やら原因やらもお話したいところなんだけど…学園祭とは関係なくなっちゃうので、今日の報告書は歌姫ふたりの驚愕のハーモニーでしめくくりたいと思います!
「「…『俺』ぇ!?」」
報告書008「放送のプロにお任せ!」
PR