(カガリには見えない文字で書かれている)
※虫の表現等精神的に不快になる描写があります。
わざと気を失うように過った武器を選んでも
連れ戻される。贖罪の回廊へ
いい加減に見飽きた、学校の廊下を歩く。
各教室のドアは閉まっていて、誰もいない。
誰も、何も、退屈を取り除いてくれるものはない。
それでも娯楽を求め、歩を進める
やがて教室は無くなる。
長い長い廊下が見せるのは
壁、また壁。
右も、左も、振り返っても。そこには
ああ、もういい。何度目だこのくだりは。
別の景色を期待することは
本当に許されないのだろうか。
静寂だけが、耳を不快に擽った。
昨日まではこのあたりで夢が終わっていたが
まだまだ廊下が続く。
何時間歩いたのだろう。
ようやく突き当たりが見えてきた。
大きな扉
この扉を知っている
図書室へ続く扉だ
用はない
引き返そうと扉に背をむけた刹那、
扉がひとりでに開き、風の音と共に吸い込まれる。
身体が引き裂かれそうだ。
これは…竜巻だ。
ボクが悪夢に抗うために、わざと無防備に受けた
マギアビーストからの攻撃。
となれば、このまま気絶してこんな夢とはおさらばか。
ボクの記憶では
あと少し…
あと少し…
痛みの末に、ボクは図書室の椅子の上で目が覚めた。
こんな所に来るわけはないのに、どうして。
目の前に大量の本が置いてある。
ボクは普段あまり本は読まないし
お目当ての本があったとしても、借りて自室で歌を歌いながらでないと耐えられない。
しかし何故か、とても興味をそそられる。
ボクはページを開いた。
文字が書いてある。
そう「文字」とだけ書いてある。
文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字
ボクはまだ悪夢の中に閉じ込められている。
気が狂いそうなほどの文字の羅列を見ていると、だんだん文字がうじゃうじゃと動いて見える。
動いてみえる。
動いてみえる。
動いている。
文字が動いている。
地を這う虫のように本の上を這いずり、机の上をカサカサと動き回り
机から手へよじのぼってくる。
「うわ!!!」
「図書室では静かに」
トンと肩を叩かれる。
聞き覚えのある声だけど、誰だっけ。
声の主を確かめようと振り返る。その顔には
文字文字文字文字文字文字
文字文字文字文字文字文字
文字目文字文字文字目文字
文字文字文鼻文字文字文字
字文字文字文字文字文字文
文字口文字文字文口文字文
字文字口口口口口文字文字
文字文字文字文字文字文字
顔が、目が、鼻が、口が、耳が、文字でできている。
ボクの瞳と「目」が遭った瞬間
いっせいに文字がとびかかってきた。
「うあああああ!!!」
「静かにしろって言っただろ!?」
同じドールが、ボクの鼻と口を手で覆った。
「文字」だったはずのドールの顔がようやく認識できた。
今日は、図書委員だったかもしれない。
昨日は、ついこの間一緒に出撃したコだったかも知れない。
その前は、よく話すドール
だったかも知れない。
身体に力が入らず、この不快な静けさをどうすることもできない。
床に散らばった文字が這い上がってくる。
靴へ。服へ。服の中から背中へ。
気持ち悪い
息ができない
気持ち悪い
苦しい
霞む視界のなかで鮮明に映るドールの顔。
違う、こいつは
図書委員でも
一緒出撃した奴でも
よく話す奴でもない
”きっとあいつだ”
やめろ
またそうやって
ボクの大事なものを
音の無い世界に、変えないで……
目が覚めた。
見慣れた部屋の、見慣れた天井へ還る。
鼓動がせわしない。
………夢だった。
そして覚める時は決まって、夜の途中。
ふと、誰かの声が聞きたくなった。
ガーデンには幸い夜型のドールがいる。
起き上がる元気もない。
念話で呼び出してみよう。
………………
………………
………………
念話魔法が、上手く使えない。