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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    借りを返す

    7月から、本当に色々あったし、色々やった。 にも関わらず、周りはボクが日常に戻ることをあっさりと受け入れた。
    「たのしい活動」をするチーム・グレート☆グレネードも、解散どころか新メンバーまで加わる始末。 一応チームでやらかした事のツケ払いっぽいことはさせられた。
    でも……ボクの中でつけなきゃいけない『ケジメ』…… こんなロクでもないチームを立ち上げるきっかけとも呼べる出来事……人格が変わってしまったドール、ジオとのごたごたにケリをつけなくちゃ。
    と、必死こいてたときの日記で、まだ書いてなかった部分があったので今日はそれを纏める。





    あるドールの部屋を訪ねた。
    彼は前はよく寮のキッチンに立ち、自慢の手料理を振る舞っていたけど、今はダイニングにすら滅多に顔を出さなくなった。
    その原因のひとつを作ったのは多分ボクであると心に留めつつ、彼には『3回分の貸し』がある(と本人が言う)ので、それを『情報』で払ってもらうつもり。
    いつもなら部屋の扉を見つけたら間髪入れずドアノブを掴んで開けるんだけど、珍しくその手を止め、ノックがわりに一声。

    「やっほ!ろべっち今時間ある~?」
    「うん、大丈夫だよ」

    すぐに返事が返ってきて、中から仮面とツノのドール、ロベルトが出てきた。

    「その呼び方は初めてだね」

    それはそう。ボクはロベルトのこと随分長い間「ししょー」と呼んでいた。

    「嫌だった~?」
    「いいや、悪い気はしないよ。新鮮だったのと、不思議な響きだなって」

    悪い気がしないならそれで良い。さて、本題に入ろう。

    「ちょっと聞きたいことあってさ」

    言いたくなかったら無理に答えなくていいと前置きしつつ

    「人格が変わったことのあるドールのこと…知りたくて」

    サラッと激重な話題を振った自覚はある。 人格が変わったドールは他にも何人かいるけど、ロベルトを選んだ理由は『本当に知りたいドール』と条件が近いから。しかも、人格が変わっている回数が一番多いから、新しい自分になったことに対しての苦労なんかにもそこそこ慣れていると思うし(慣れていなければ、そう何度も自分のコアを差し出したりはしないし)。

    「ん、わかった。僕に分かる範囲で話すよ」

    ロベルトは、躊躇いもせず承諾してくれた。 とはいえ廊下する立ち話でもないので、場所を変えることにした。



    *



    授業も終わり、静まりかえったガーデンの廊下をふたりで歩く。
    ちょうど3週間くらい前まではここら一帯が落書き地獄だった。犯人は勿論チーム・グレ☆グレ。ロベルトにもそれはバレていたようで、一階のは芸術的だっただの、二階の塗料の臭いがキツかっただの、そんな会話をしながら、到着したのは音楽室。ここって滅多にドールが来ないし壁が音を吸収するから、内緒話をするのにも最適。別に内容自体は聞かれても良いことなんだけど、ロベルトが周りを避けたそうだったし、学園祭の練習をした思い出もあるからなんとなくこの教室を選んだ。

    「じゃ、単刀直入に聞くけど……」

    まず、人格が変わった時「変わったんだな」という自覚はあるか。 コアを取られたその日の記憶がないなら、一番最初に『あ、変わった』と気づくのはどういう時なんだろう。やっぱり『誰?』って言われた時かな……
    ロベルトの答えはこう。

    「うん。……といっても、僕の場合は日記を書いてたからかもしれないけど。
    僕が”変わった”時には、既に何人か”変わった”後だったから、余計にね」

    なるほど日記ね。
    確かにそれを見れば口調も考え方も現在の自分と微妙に合ってないなって不思議に感じそう。 ロベルトの言うように、いろんな理由で何人ものドールの人格が更新された後だったから、すぐに「同じ現象が自分の身に起きたんだろうな」って推察できたんだ。だから必要以上には驚かなかった。

    次に聞いたのは、変わる前の自分がとった行動について、どんな風に考えているか。
    さっきも書いたけど、少なくとも日記を見て「自分はこんな事しないなぁ」と、なかなか受け入れられないのかなーって辺りも気になる。

    「人格が変わろうがどうなろうが、僕は僕だから」

    でも、ロベルトはあまり気にしていないようだった。
    ……うーん、こればっかりはドールにもよりそう。 だってボクが普通に朝起きて日記を開いて、一昨日の日付で「今日はアザミさんが罰則を犯さないよう注意して差し上げましたわ!オホホ」とか書いてあったら青ざめると思う。

    自分の感覚はこのくらいにして、周りにはどんな感じで接してくれるのが一番気楽かを聞いてみた。

    「今まで通りが嬉しいけどさ。……正直、好きにしてくれたらいいかな。近づきたければ近づけばいいし、離れていたければそうすればいい」

    他人の意志を尊重する、ロベルトらしい回答。でも多分本心は『今まで通りが嬉しい』んだろうね。 人格が変わったところで、記憶はそのままの『自分』なんだから、周りからどうこう言われたところで困るだけ。 困るだけ、なんだよなぁ…… 聞きたいことは、だいたい聞けた。…というかほぼ、おおよそ頭で纏めたことの答え合わせだったよね。 その後『件のドール』とどんな風に決着をつけたかはもう書き終わっているし、『人格が変わったことのあるドール』へのインタビューはこれでおしまい。
    ……でも『ロベルト』に話したいことは、まだ山積みだった。



    *



    「あのさ、…なんか迷惑してることあったら、言ってくれていいからね?」

    コアの話が一段落し、学校祭で演奏したり、ケバブ奢りをキャンセルした話なんかで小休止を挟んだあと、ボクは数秒間の沈黙を破る。

    「迷惑? ……なんで?」
    「ほら…うちらで戦ったあと通知、出たじゃん…?」

    話題にしているのは勿論、ボクが自分の命を3回、ロベルトに差し出したときの事。 ロベルトは、最終ミッション等の犠牲になった回数こそ多いものの、自分ではまだそれを達成できていない。 誰かを傷つけることを異常なまでに嫌うロベルトにとって、『最も傷つけたくないドールのコアを呑み込む』というのは、ぶっちゃけ不可能に近いんじゃないかなってボクは考えてたの。 でも、それを成し遂げたいって相談されたから協力したんだ。
    3回っていう数字にこだわりはなかったんだけど、1回じゃなかったのにはちゃんと理由もあるから、詳しくは当時の日記を読んでほしいな。

    「ああ、あれね。そりゃ、僕が校則を破ったからだよね」

    ガーデンでは『決闘』が許可されていて、場所だとか、そのあたりのルールさえ守れば殺し合いをしても構わない。でもそれ以外の場合は、殺したドールが罰則になる上に、「誰かが校則破ったよ」って全体通知が届くんだ。
    ロベルトは特に落ち込む様子もなく、淡々と答えている。
    本当に平気なのか、本当は悲しんでいるのか、仮面越しだからよくわからない。

    「…やっぱ怒られた?」

    思いの外辛気臭い声色になっちゃったから、パッと笑って付け加える。

    「ちなみにボクは怒られたよ!」
    「怒られたというか……拒絶されたって感じ、かな」
    「拒絶!?そこまで!?」
    「そりゃそうだよねって話なんだけどさ」

    流石に誰に、まで深掘りしようとは思わない。
    …多分だけど、全体通知を受けて殺した犯人を探そうと動いたドールがいたんだ。そのコたちかな。通知されるのはあくまで「校則が破られたこと」だけだから、具体的に誰がやったかは知らされない。 隠しておけとも言われなかったし、当時のボクはマジで機嫌悪くて、話長くなるのも嫌だったから全部話しちゃったんだよね。黙ってたところで、ロベルトなら正直に白状しそうだし。
    でも、怒られたんじゃなくて『拒絶』まで行く?

    「そんなにキレ散らかしてくれるほどのボクの熱狂的なファンいたんだ~♡」

    場を和ませようとして言いはしたけど、わりとこれ冗談じゃないよ?だってそういうコトじゃない!?

    「……その、どうして受け入れてくれたの? 殺し合いをしよう、なんて酔狂な頼みをさ」

    次に問いを投げかけたのはロベルト。ボクにいわせりゃ、そんな”まともなひと”にする質問をボクに投げかける方が酔狂だね。

    「何でって……『燃えた』からかな?」

    燃える……面白そうなものごとに吸い寄せられる習性は、いつまでも変わらない。 ……こう書くと虫みたいだけど! とにかく今引き受けなきゃ今後こんなチャンス二度とこないかも知れないから、って付け足したら、ロベルトの「はは、違いないや」という返答が苦笑い混じりで聞き取れる。

    「それだけ覚悟キマってたんでしょ?かっこよかったよ~!このこの~!」

    軽く握った拳で肩を軽く小突く。当然こんな言葉本人は求めてないだろうから戸惑ってるけど。

    「カガリさんは、怒んないの?」
    「怒るって、なにを?」
    「……僕のエゴのせいでさ、三回も痛い目を見た訳でしょ? カガリさんはほら……言ってみれば被害者じゃない?」

    怒るくらいなら最初から引き受けてないっつーの。

    「被害者?そんなカワイイもんじゃないし。  正直、対応がめんどくて被害者ヅラした時もあったけどぉ……」

    例の、犯人捜しドールたちに事情聴取された時ね。 被害者加害者以前に、寝不足すぎるし情緒ぐちゃぐちゃすぎて、はやく寝たかったんだ。

    「いい?ボクらは『共犯者』」

    得意げに悪い顔をして、ロベルトの仮面の奥をじっと見つめる。

    「殺す練習がしたいって言ったのはろべっち。でもそれを三回もやれって『命令』したのはボクだよ? ボクが一方的にやられただけの立場だと思ったら大間違いだから」

    だから、気遣いでもお人好しでもなく、怒る理由がこの箱庭じゅうのどこを探しても存在しないワケ。 ボクはまるで、自分の手柄を相手に横取りされたように、むす~っとして見せる。

    「その……だから……」

    ここから何と続けようか迷い、一瞬眉をひそめる。

    「拒絶とかなんとかで辛いんなら、そっちこそ怒ったっていいんだよ?」
    「……怒れないよ」

    ロベルトは首を振る。

    「カガリさんが殺し合いを受け入れてくれたから、気付けたこともあるんだ。だから、怒れない」

    いつもながらに、あくまで責任を他人に背負わせないような振舞いをしている……ようだったけど、今日はちょっと違和感を覚えた。なんとなく、彼のその態度に余所余所しさを感じた。

    「……あのさ~ろべっち。何でボクがキミに3回も命預けたかわかる?」

    もとい、どうして『共犯者』になったか、だね。 殺されるのは自分だってのに、どうしてその痛みを3倍に増やす決断ができたか。 ……ロベルトは暫く自分の胸に手を当て、悩むように沈黙してから

    「……わからない」

    と一言。そしてすぐに何かを思いついたように

    「僕が……カガリさんを頼ったから?」

    ちがう、と言おうとしたけど、まるで間違えることを恐れるように、躊躇いながら続きの言葉を紡ぐ姿……あまりにも身に覚えがあったので

    「ん~……半分正解」

    という答えに留めておく。

    「……いくらボクが他のドールより生死に無頓着でも 誰彼構わず頼ってきたドールにホイホイ命なんてあげたりしないよ?痛い思いまでしてさ」

    まだピンと来ていなさそうだったので、両手を自分の腰に当てながら更に至近距離まで近づき、仮面の奥を覗き込む。 “このドールはきっと、この後面白い結果を引き出してくれる、見せてくれる” ……そう確信できなきゃ、ボクは滅多に誰かのお願いなんて聞いたりしないもんね。

    で、それをすっごく、すっごーく美化して言うと……

    「キミを信じたんだよ」

    ……歯がゆいけど、こうなるワケ。

    「そんなボクに、今更気~つかう必要なんてある?」

    殺しの練習に付き合ったドールに対して言えないコトなんて、もはや愛のコクハクぐらいしか残されてなくない?

    「綺麗な言葉が聞きたいんじゃないの!キミの本心が聞きたいの!
    ……そのかわり、ボクだってなんでも答えるからさ?」

    伝わるまで、諦めない。
    あるドールが言ったことを思い出すように 別のドールと話した時にも同じようにできるように、必死に一言一言紡ぐと、心なしか声が大きくなる。
    世間話の中で、ロベルトは「怒鳴られるのが苦手だ」と聞いていたので、しまった……という顔をする。 とはいえ前にリビングでキレ散らかした時ほどの剣幕じゃなかったものの……ボクってわりと簡単におっきな声出ちゃうから、ビビる人はビビるだろうなーって。

    「…それとも、ろべっちは信用してないの?ボクのこと」

    ドン引きされても困るし、ちょっと大げさに寂しそうな顔をして、怒っているわけではないことをアピールすると

    「誰にだって、本当のことを言うのは、怖いよ」

    と言いつつも、ようやく詳しい話をしてくれそうな雰囲気になった。



    *



    「殺し合いを提案した時はさ、カガリさんなら受け止めてくれるかもしれないって、そう思ってた。多分、訓練で傷つけあったことがあるからと思う」

    オレンジ色だった空に少しずつ夜の帳が下りはじめる。薄暗くなる音楽室の照明を誰も点けようとしないので、仮面をしていないボクの表情すら隠れてしまった。

    「最後にカガリさんを殺せたのだって、ちゃんとカガリさんのことを信じられたからだって思ってた」

    それがかえって都合が良かったのか、ロベルトは思っていることをゆっくり、ゆっくり外へ出して行く。

    「今は……よくわかんなくなってる」

    言いたいことが喉まで出かかったけど、今は我慢して話を聞く。

    「あの日のことを打ち明けたふたりに拒絶されて、もうひとりも、よくわかんなくて。きっと、失望されたんだろうなって。他の人形(ヒトガタ)には言ってないけど、あの日のことを知ったら、みんな僕を拒絶するんだろうって。……僕はそれが、怖くてたまらない」

    ロベルトは度々ドールのことを「ヒトガタ」と呼ぶ。文脈でドールだとわかったから今迄深くはつっこまなかったけど……ロベルト自身にも、どうしてそう呼んでいるのかわかんないんだって。”そういう呼び方をしたい性格”なのかな。ボクが『燃えるコト』が好きなのと同じように、その根拠まではわかんないんだろうね。

    「そうじゃないかもしれないのに、そうとしか思えなくって。誰の言葉も、信じていいのかわかんなくなって」

    要は、ロベルトにとっては今、ガーデン中のドールが自分のことを極悪殺人犯だって軽蔑してるんじゃないかって被害妄想しちゃってるってことだね。
    ドール殺害の犯人を探していたドールは簡単に色んなことを言いふらすようなコじゃないと思うけど、生徒会ぐらいには伝わってるかも知れないし……誰が何を思ってるなんて、実際のところ確認しないと……いや、確かめてもわかんない時もあるから、そう思っちゃうのはまぁ、しょうがないっちゃないのかな。

    「あの日、カガリさんを信じたって思ってたけど、本当は僕がそう思っていただけなのかもしれない。あんなことをしたら拒絶されても仕方ないって覚悟してたはずなのに、全然できてない。そう考えたら、これまで感じてきた何もかもが、僕の勝手な思い込みでしかなかったんじゃないかって。だんだん、僕は僕が信じられなくなってきて」

    ………とはいえ。

    「もう、何を信じていいのかわかんない」

    ボクが3回死んだあとに出した結論が、ロベルトが最後に付け加えたこの言葉だったとしたら。
    …………これはもう、誰が何回死のうが、同じことなんじゃないか? ボクは両腕を組んで熟考し、そして……パッと笑う。

    「じゃあ、やめちゃお!」
    「えっ」
    「元々傷つけるのが嫌いなろべっちにはさ、やっぱ向いてなかったんだよ、最終ミッション」
    「そう、かもしれないけどさ。それでも、僕には知りたいことが……」
    「じゃあ、もう一回聞くけど……」

    また無責任言ってると思ったでしょ。でもさ、キメるべきものがキマってないんだもん。 次の質問の答えで、それがわかると思うよ。

    「最終ミッションを達成しないと得られない情報ってさ、ドールの命を使ってまで、それで皆に拒絶されてまで知りたいこと~?」
    「……それはっ、それしか方法がない、から」
    「ガーデンの全員に嫌われても、その情報つかみ取りたいってはっきり頷ける?」
    「っ、それは……」

    ほら、やっぱり口ごもった。目が泳いでる。 これは殺しの練習をする前にも一回聞いてるんだけどね。その時も「どうだろう」ってはぐらかされたんだ。

    …でも、本当に必要なのであれば、ボクをちゃんと殺せるはずだろうって、その時は特につっこまなかったんだけどさ。 ……ボクは攻めの姿勢を緩めない。 「それにさっきから聞いてりゃ、まるでボクたちが預けた命よりも、自分が拒絶されないことの方が大事みたいじゃん」 ボク”たち”。 他の日記でも触れてるけど、ロベルトが最終ミッションをこなす覚悟を決めるために犠牲にした命って、ボクのだけじゃないんだ。 何か言い返す余地を少しくらいは残そうとぶすーっと膨れてみるけど、特に反論はなさそう。

    「そんなんじゃ、『最も傷つけたくないドール』が自分になっちゃうじゃん」

    ロベルトが知りたいことを知るためには、『最も傷つけたくないドール』を 殺し、 コアを取り出し 呑み込むまでしないといけない。
    無論、そのドールは『自分』であってはならない。

    つまり

    「何人殺したって成功しないじゃん?ミッション。ただ犠牲増やして終わりじゃね?」

    こーなるよね?

    しかも多分「最終ミッション」による犠牲って、ただ死んで終わりじゃない。 コアが呑み込まれるわけだから、多分ミッションの相手に選ばれたドールは、何の意味もなく人格が別のものに変えられちゃう…よね?
    都合よく直してもらえるとか…ないよね? これがもしそのドールの望みじゃなかったら……もうロベルトは『拒絶』だけじゃ済まないよ?

    「……」

    ロベルトから言葉は出なかった。反論の余地は見つけられなかったみたい。

    「……とはいえ、ボクが最終ミッションやったときは、他の皆から責められるかもとか、 後先考えずにやったけどさ。ドールの死とか、はっきり言ってどうでもよかったもん」
    「そりゃ、カガリさんはそうかもしれないけどさ」

    ロベルトがようやく口を開いたけど、さっき逸らした顔はそのままだ。 今もそこまで『いいコ』になったわけじゃないけど、あの時は今以上に、どうでもよかったから、他人のミッションについてどうこう言える立場でもないことはわかってる。 わかってるけど……

    「……でも、予想もしない出来事に、ぶちのめされる気持ちは……ちょっとは、わかるよ」

    つい数日前までぶちのめされていたから。目的も何もかもぐちゃぐちゃになるのはわかる。 まぁ大半のドールは、ボクが落ち込むなんてありえないって思ってるだろうし、そのひとりであろうロベルトもほら、意外そうにしてる。

    「だから全部投げ出して、他のドールも巻き込んで、あんな落書きもした」
    「そう、だったんだ……それで……」

    周りのドールは器用で賢くて、自分だけ置いて行かれた気持ちになった。 でも実際は、見たくない現実から、自分が逃げているだけだった。 ……そんな風に、ボクは伝えた。 やらかした自分のことを話すように、今のロベルトの状態をなぞるように。

    「ろべっちが『拒絶した』って言ってたドール、本当に拒絶したのかな」

    ……ちょっと引っかかってるのが『拒絶』って言葉。

    「……さっき『ボクも3回殺されたことを怒られた』って言ったでしょ? その時、否定されたと思ったんだ。でも…そのドールの気持ちをよく考えずに拒絶したのは、結局ボクの方だったってコトがわかってさ」

    そのドールは、ボクに『大馬鹿者』と言った。言葉だけで見るのなら、相手を蔑む悪口だ。 でも、そのコがどんな気持ちで、何を伝えたくてそう言ったのか、ゆっくり紐を解いていって、その先で見つけた答えは悪口とはまるで正反対のものだった。

    「……見えてこないものほど、怖いよね。…でも、だからって目を逸らすんじゃなくて、ちゃんと向き合わないと、怖いものは怖いままだなって」

    自分の口から出た声があまりにも、いつもの可愛いカガリちゃんとかけ離れてて、ちょっと弱ってる感じがしたのが気持ち悪かったけど、今それを誤魔化すのは違うと思ったのでぐっとこらえる。

    「ろべっちは、考えた?どうしてそのふたりが拒絶したのか。きついこと言われたんなら、 その言葉で、本当は何をつたえたかったか」
    「……」

    ロベルトはこくりと一回だけ頷いた。

    「僕が、ふたりの想いを踏みにじったから。最初の殺しを進む理由にできないまま、カガリさんにまで手を掛けたから。……ふたりとも、ちゃんと伝えてくれた。その上での、拒絶なんだよ」
    「………ああ」

    ……拒絶した『ふたり』が誰なのか、おおよそ見えてきた。少なくとも、ボクの死にブチギレてくれる熱心なファンではないのは確か、とだけ書いておこうかな。

    「……ねぇ。ボクがさ、ろべっちがしたことをイヌイさんにしたら?それをろべっちに打ち明けたらどう思う?」

    その『ふたり』の立場をよく考えて、ボクはロベルトに問う。 『イヌイ』というドールの名前を出したのは、そのコに深い恩義があると感じた瞬間があったから。

    「……ものすごく、怒ったと思う」
    「ごめんねって言ったら、その後なーんにもしなくても許してくれる?」
    「……どう、だろう」
    「ごめんじゃ済まないとしたら……ボクにどうして欲しい?」
    「きっと、どうしたって心の靄が晴れるわけじゃあない。どれだけ傷付こうと、何回死のうと、この箱庭から消えてしまおうと、やったことはなくならないし、誰かが傷付いたことに変わりはない、から」
    「じゃあ、どうもして欲しくない?」

    暫くの沈黙の後、

    「僕なら、ちゃんと結果を見せてって言うかな」

    ボクが欲しかった答えを、ロベルトが口にした。

    「…それが今、ふたりが1番、ろべっちにやってほしい事じゃない?」

    っていうのはあくまで予想だし、やったところですっぱり何もかも許して貰えるなんて甘い話は無い。

    「そこで拒絶されたーって縮こまってても火に油じゃん?」

    でも、それすらできなければ何一つ変わらない。縮こまっている間得られるものは、信頼でも、期待でもなく、単なる気休め。

    「皆の痛みは自分の痛みならさ?」

    『皆の痛みは、私の痛み』……ボクが、ロベルトとはどういうドールなのかをおおよそ知るきっかけになった言葉。 あれは『カミサマ』と名乗っていたコがある日突然バケモノに変身しちゃって、倒さなくちゃならなくなった時だったっけな…あの時は、その言葉がまるできれいごとのようで正直ダサく聞こえた………もう随分前のことのように思える。今のボクがあの場にいたら、ロベルトになんて返したんだろう。
    ……でも少なくとも、そんな言葉を背負う気でいるんなら

    「ろべっちを拒絶したドール全員幸せにするカクゴぐらいキメなよ」

    これくらいやった方がカッコよくない?な~んてね。
    ………うーんスベったかも。反応ないわ。

    「それがどーしても辛くて無理なら………」

    今のキメ台詞を軽く流すように、無理やり話を繋げる。

    「…….一回泣いちゃえ!誰が良いとか悪いとか、みっともないとか恥ずかしいとか考えないで、わーーーーってスッキリしたら?」

    この提案はそこそこやけくそだと思った。そもそもロベルトが泣けと言われてすぐに泣くようなドールなのかどうかもわからないし。 だけど、少しは心に響くものがあったのか、ロベルトは仮面の目元を手で押さえて笑い、さっきよりも少しだけトーンの上がった声でこう言った。

    「はは、やっぱりカガリさんはすごいや」

    ちょっとだけ肩の荷が下りたように感じられたのは、ボクの都合の良い解釈かなぁ。

    「ちがう!ろべっちがドンカンなだけ!ボク以上にヤバイとか相当だよ!?」

    と、冗談っぽく笑ってみせれば、ロベルトもつられて微かな笑い声を溢した。 実際、『すごい』ことは何一つ言ってないんだよね。それどころか勝手な憶測が混ざってるし、蓋を開ければ、これもまた「まちがった答え」なのかも知れない。ロベルトにとって正しい答えなのかなんて、ボクにはわかんない。 それでもまぁ、少しは楽になったなら、今日のところは上出来なのかな?

    「……偉そうに言ってるボクもさ~、ケリつけないことあってさ~。 弟子も今が踏ん張りどころだし~、ししょ~も一緒に頑張ろうよ~?」

    ロベルトの両肩をとんとんと叩きつつ、ちゃっかり自分の退路も塞いでおくのだった。

    「うん。やれるだけ、やってみるよ」

    その言葉にどれだけの覚悟があるのか その言葉を貫くのか、途中でポッキリと折ってしまうのかは、ロベルトくんの今後の報告書に期待しましょ~!…ってところかな?

    「ありがとう。借りを返すつもりが、増やしちゃった」

    とりあえずそんな感じで今日のお喋りはここまでとなった。

    ……ホントに借りを返したいって思ってるんだったら、次は最終ミッションの達成報告でも持ってきてよね~。


    Diary091『借りを返す』
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