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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    貸すだけだからね

    「ニチカさんには、命の期限がありましたなのです。いま、彼女の遺体はそこのソファに寝かせてありますなのです」

    ボクがまだ修行に出る前――。
    寮のリビングに集まったガーデン生たちに、教師AIのアルゴ先生がゆっくりと話し始める。 クラスコード・イエローのドール、ニチカについて。 暫く見かけないと思っていた彼女とも久々に再会を果たしたけれど…その姿は変わり果てていて、二度と言葉を交わすことはなかった。







    ボクらドールは、「人格コア」が埋め込まれていて、抜き取られれば機能を停止し、破壊されれば新しいものが埋め込まれ、命と記憶は繋がるけれど、全く別の性格になってしまう。 ところが、ニチカの場合は…

    「ニチカさんは人格チップというものを埋め込まれた一般生徒ドールでしたなのです。人格チップは太陽の種の形をしていて、半年以内に花を咲かせますなのです」

    一般生徒ドール…授業のある日にガーデンをうろついている無個性な存在。舞台にたとえるなら「その他大勢の脇役」ってところ。でも、困ったことにぞんざいに扱うと痛い目を見る。 太陽の花は、その名の通り太陽を探し求めるように大きくひらく花。
    …それが頭の上にちょこんと乗っているのであれば可愛いものだけど、花はニチカの胸を裂き、どこか勝ち誇ったように、けれど無機質に佇んでいた。



    *



    ニチカの説明がひととおり終わると、ボクは誰よりも先に寮の自分の部屋に戻り、荷物を持って廊下へ。ニチカが安置されている空き部屋を…

    「あ、せんせぇ!」

    …どうやら、探す必要はなさそうだ。ドールの遺体を抱えたアルゴ先生が、ちょうどボクの左隣の部屋の鍵を開けているところに遭遇した。

    「この部屋?」
    「フェンさんの近くが良いかなと思ったので、この部屋を借りますなのですよ」

    ニチカは6期生のドールで、ボクの後輩に当たる。今は後輩も随分増えたけど、少なくともボクがニチカをよく見かけていた頃は、あのコ以外の6期生は…警戒心の強いイヌみたいな肉好きドール、フェンだけだった。そういえば昨年のビーチキャンプの時、ふたりで一緒にいるのを見た。ふたりは思った以上に普段から仲良しだったみたい。

    「あのさ、コレ…着せたいんだけど、いいかな」

    他にニチカで印象に残っているのは……学園祭のボクらのライブを見に来てくれて、ボク(とその他大勢)の大ファンになってくれてるコト。ボクには入学する前の記憶がないけれど、それはたまたまボクだけだったという可能性もあるので(ある理由によってボクらの記憶の一部分はごっそり消えてるのは知ってるんだけど、ドールによっては、入学する直前の出来事をちょっと憶えてるコもいるのかな、って。)そこまで気にしてなかった。何より推してくれる嬉しさの方が勝ってたし。
    …まさか、その辺うろうろしてた一般生徒ドールだったなんて…。

    …で、ボクのほんの気まぐれで、ボクがライブで着ていた衣装を貸してあげようってわけ。

    「良いと思いますなのです。でもその衣装、カガリさんのなのですよね?さすがに脱ぎっぱなしで数ヶ月放置とかしてませんよね?」
    「仕舞う前に洗いました!!!せんせぇと違いますー!!」

    洗わないとヘンな臭いしてくるから洗ってますけど!?!?

    「オレちゃん、しっかり仕立て屋さんでスーツ綺麗にしてもらってますなのですよ!!」

    仕立て屋さんで綺麗にして貰えるの!?いいこと聞いた。
    ぶっちゃけ面倒だったから次回から汚れた服全部仕立て屋さんに持って行こ。

    「ニチカさん、喜んでくれるといいですね」
    「だね」

    アルゴ先生がニチカを寝かせている間に、ボクは畳んであったライブ衣装を広げると、学園祭のライブの記憶が甦ってくる。

    「…ライブさぁ…」

    学園祭のライブは、ボクがアルゴ先生に打診して、ふたりでメンバーを集めるところから始めた企画だった。色々あったけど、ボクはステージが終わった瞬間、最高に楽しかった。 ところが、アルゴ先生は演奏が終わるなりすぐどこかへ行ってしまって…勿論教師AIはドールよりもっと忙しいだろうけど…。

    「先生にとっては………やっぱだるかった?」

    ライブから4か月後……アルゴ先生がボクらの『敵』となり、立ちはだかったとき……”想いは口にして伝えるべき”というあるドールの言葉に背中を押されて、先生を説得しようとした。けれど……全く届かなかった。 また一緒に演奏しよう、って言葉が「だっる」の一言によってあっさりと叩き落されてしまった。
    …ボクは誰かを説得できるガラじゃないし、あの時は先生も先生で切羽詰まってたから当然っちゃ当然だけど、ボクにとっては心に残る思い出でも、先生にとってはどうでもよかったのかなって、些細なことかもしれないけど、ずっと引っかかってたから…思わず聞いちゃった。

    「……」

    すると先生は、少し真顔になって暫く沈黙してから、ふっと笑って

    「楽しかったよ。あまりにも楽しくて……本当は終わるはずだったのに、予定が狂っちゃった」

    こう言った。
    ……少し、霧が晴れたような気がした。
    どうも最近、こんな風にもやもやと考えることが多くなった。なんでだろう。

    「あのときのメンバーが揃うのは無理だけど、またどこかで一緒にステージ立てたら嬉しいね」

    あれから随分と時間が経って、一緒に出演してくれたメンバーからも卒業生が出た。新しくつくられた「生徒会」って役職で忙しそうなコもいるし…全く同じステージにはならないだろうけど…少なくとも、今目の前で静かに仰向けになっているドールを起こしてしまうぐらい、楽しいものにできる自信はある。

    「先生、これつけたままじゃないとダメ?服に穴あけないとじゃん」

    さて、ライブ衣装をニチカに貸してあげる話に戻す。自分で着替えなんてできないからカガリちゃんが直々に着せてあげちゃうわけだけど、この服は当然ながら胸から花がコンニチワしているドール用にはつくられていない。胸元を切って可愛いボタンをつけるという選択肢もアリだけどそれよりは花を切っちゃった方が早い。だってこの花、ものすごく固い。箱庭の花畑に咲いてるのと全然違う。

    「……うーん……この花、鉄製なのです。オレちゃんの魔術で切り取りましょうか」

    鉄というものがどんなものかピンとこなかったけど、とりあえず先生は『なにかして』その花をスパッと切り裂いた。過去に決闘した時これを使ってこなくてよかったと心底思った。 とにかくこれで、無事ライブ衣装を着る準備は整ったわけだ。

    「おふとん、用意してあげない?ニチカちゃん寒いね」
    「じゃあ布団持ってきておきます。あと必要なものありますか?」
    「他には…特にないけど、布団はカワイイのがいいと思うよ!ニチカちゃんそういうの好きだったから」
    「分かりましたなのです。オレちゃんのセンスにお任せあれなのですよ!」

    まるでパジャマパーティーの計画でも練っているような会話の後、布団を取りに行く先生の背中に

    「あ、そだ!…先生」

    自分ごとガーデンを壊してくれという『我儘』を引っ提げて、敵としてボクらに立ちはだかったアルゴ先生。結局生徒たちの『我儘』に相殺されて今もこうしてボクらとガーデンと過ごすことになった(…ってことでいいよね?)けれど、そういえばまだちゃんと言えてなかったな。

    「…おかえり!」

    …これで、いいのかな。 ボクが学園祭の最中、暫く誰の前にも顔を出さない時期があって…久々に練習に復帰したときのことを思い出しながら言ってはみたけど…

    「……オレ、もうここには帰らないつもりでした。でも……帰ってこれて良かったと思ってます。ありがとう、カガリさん。ただいまなのです!」

    先生は振り向いて明るく返してはくれたけど、正直「~なのです!」って言ってるときのせんせぇは読めないときがあるからなぁ。 ”だれかを識る”って、魔法や魔術を学ぶより難しい。図書室に行けば、教科書がわりになる本があるだろうか。こりゃまだまだ苦労しそう。

    ライブ衣装に身を包み、根っこもすっぽり隠れたニチカの顔を覗き込む。
    生命をたたえる吐息のリズムが聞こえてこない以外は、寝ているドールと大した違いはない。
    いなくなったわけでも、溶けたわけでも、ない。
    とりあえず……あくまでニチカには、ライブ衣装を貸しただけだから いつかちゃんと、返しに来てくれる日を気長に待とう。…気長にね。



    Diary 060「貸すだけだからね」
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