次の日。 昨日魔力を大量に使ったせいか見事に爆睡し、 「今日は鳥の声がよく聞こえるわい」 という、使い魔のノームじいちゃんの独り言で目覚めた時には、既に太陽が真上の空から少し傾きはじめているところだった。
…ノームじいちゃん、会話が全然通じないけど、ボクの留守中もしぶとく生きていたようだ。
さて…アザミとのいざこざは解決したわけだけど、本人以外も随分と巻き込んでしまった。
ひとりひとり謝るべき?
…謝ってそのあとどうする?それで終わり?
なにごとも無かったかのように、日常へ戻る?
また間違えるかもしれないのに、また巻き込むかもしれないのに。
…ゆっくり考えている暇はない。時間はあるように見えて、意外とせっかちだ。
次にいつ、何がどう、変わってしまうかわからない。
…手っ取り早くできることといえば… 恐らくメンバーの信頼が地に落ちているであろう、チーム・グレ☆グレを、ケジメとして畳むべきだろうか。
*
重い腰を上げ、森での生活で汚れ切った身体をなんとかして、メンバーのクラート、フェン、ヨハイ… 念話じゃなく、ひとりひとりの部屋をまわって…全員がチーム・グレ☆グレの活動室に集まった頃には日はすっかりと落ちていた。
「えと……みんな、大丈夫?」
まずはどれほど生徒会や風紀委員にしぼられたかを確かめる。 明るい声色をできるだけ取り繕うが、上手く皆と目線を合わせられない。
「…大丈夫って、何が?」
最初に答えたのは熊耳困り顔でお馴染みのクラート。苛立つ様子もなく、至っていつも通りな声色だ。
「あ~…だからその…怒られたりとか、した?」
アザミに生徒会をやめさせる為、ガーデンの1階、2階の廊下にメンバー全員で落書きをした。
授業が中止にはならなかったけど、校内を汚したのでしっかり学校全体に迷惑がかかっているはず。
犯人を探すドールだっているはずだし、チーム名を図書室の扉にも残したので、少なくともチーム名を知っているドール達(の中に生徒会もいる!)は気づくはず。 罰則を貰ったからそれでチャラ……には多分、ならないだろう。ところが…
「…別に。罰則ポイントはついたけど……」
「今のところ、それ以外に何もねえな」
フェンとクラートは、わざわざ気を遣って嘘をつくようなドールじゃない。
もしそうだったとしても、ボクに気遣いなんて全くの無意味であるととうに学習していると思う。 更に、ヨハイが続ける。
「うむ!いやしかし確かに余輩の美しいあまり、嫉妬されてしまう時があるやもしれぬが…はっはっは!!」
これはつまり、ボクがいない間も平和そのものだったって意味だろう。 それでも…そうだったとしても、ドール達の疑いの目がグレ☆グレへ向くことを知っていながら逃げ出した事実は取り消せない。
だから…
「なんていうか~…多分ボクもう信用ないじゃん。 正直集まってくれるとも思ってなくてさ! 多分この先も、逃げることとか、あると思うから…もしもう此処にいたくなかったら……」
今この場で言って欲しい。咎めないし、この先もとばっちりを食わないために離れた方がいい。 そんな言葉をかけようとする。
「…誰だって、一人でいたくなるときくらいあるでしょ。別に僕は、気にしない……」
相当心が広いのか、相当バカなのか、クラートが否定した。フェンは少し呆れた様子ではあったけど、クラートの言葉に反論する様子はない。
「…ふむ」
ヨハイが突然ボクの真正面に立ったかと思えば、片膝をついて
「崇高なる我らが団長よ!忠実なる配下である我らは、貴方のもとを離れることはない!それが我らの誓いなのだ!」
なぜか変声魔法でガーデンのイケメン担当・ヤクノジの声をつかって喋る。 確かにヤクノジは何をやっても絵になるから、こんな役もきっとピッタリかも知れないけど、彼はガーデンの平和が乱れることにひときわ敏感なドールでもあるから、その声で悪の集団を崇拝されると違和感しかない。
あと、敢えて他ドールの声を使うものだから本心なのかどうかちょっとわからなくなり、こっちに差し伸べられた手をどうすることもできず、気まずい沈黙が流れる。 と、ヨハイが手を引っ込めて立ち上がる。
「__それとも。この集いは嫌になったかい?カワイイアイドルカガリ君」
その声色はヨハイ本来のものに戻っていた。 ボクは皆の意志を確かめるために呼んだのに、まさかこんな事を聞かれるなんて。 …皆、ボクの答えを待ってる。
「……嫌になんて、なるわけないよ」
嫌いになったからやめると嘘をついて解散してしまう方が、皆にこれ以上迷惑はかけなかっただろう。
……でも、正直な気持ちを問われて、そんな器用なことはできなかった。
「……楽しくてさ…皆の存在がどんどん…大きくなって、 …もし何かが変わったとき、壊れたとき、受け入れられなくて…絶対、困らせるから…… …いっそ、今のうちに嫌われよっかな、って……」
自分のことしか考えず、勝手の限りを尽くしたのに。 口を利いてすら貰えないと思っていたのに、皆ここに集まって、黙ってボクの話に耳を傾けている。 それが情けなくて、伏し目がちになる。
「だけど……」
顔を上げ、クラート、ヨハイ…と順番に目線を向ける。 ここにはいないメンバーであり、短命のドールであったイブキとホムラがいなくなっても、次に誰を失うのだろうと恐怖して、一緒にいることを投げ出したドールはいなかった。
「……同じ明日なんて来ないって、皆も当然わかった上で、ここに来てくれてたんだよね」
親しかったドールがある日突然『いのちの期限』を迎えた…それを誰より身近に経験しているフェンを最後に見る。そして…
「ボクだけ…逃げて、ごめん!」
たまらなくなって、深く頭を下げる。
「……逃げりゃいいじゃねえか」
頭の上に、フェンの棘のない言葉がそっと降ってくる。 ボクは戸惑いながら再び顔を上げる。
「逃げた先で、見えてくるモンがあるだろ」
…ずっと前に、ボクはフェンの行動を負け犬だとボロクソに否定したことがあった。卑怯な負け犬はどっちだとこの場で言われても受け入れるつもりだった。…それなのに、いつものしかめっ面でフェンはたったこれだけ言った。クラートもその横で、うんうんと頷いている。 …ある教師AIが放った言葉を許すことができず、死んで当然だとまで豪語したフェンもまた……”変わった”んだろうな。それこそ、入学した時はうかつに教師AIに刃向かってひどい目に遭ってたのに、今は一歩立ち止まって冷静に考えられるようになって…たくさん考えられる余地ができたから、その分許せるものも増えた…のかな。
「あっはっはっは!!流石稀代の芸術者フェン君だ!その素晴らしい感性も、芸術の中で培ったのかな?」
「……そうかもな」
「いやはや、その先見の明。余輩も是非賜りたいものだ!」
ボクがチームを抜ける前と変わらない、時間がゆっくりと流れるような落ち着いた空気に浸って良いものか戸惑っていると、
「……で。言いたいことはそれだけか? わざわざ部屋に来てまで呼んだんだ。何かあんだろ」
フェンの言葉に便乗するように、クラート、ヨハイもこっちに注目する。 ……。 チームの解散を宣言するのに呼んだつもりではあったけど………
………うーん……ダメだ。やっぱりダメだ。
ボクはアザミのように、望んでもいない事を「間違えないために」と強行できるほど、『良い子』にはなれそうにない。
校則も迷惑も、正しさも間違いも気にしないでやりたい放題やって、誰がどう得するわけでもないのにとてつもなく自由で、晴れやかな気分になる。ヤケクソで始めたことだけど、ここに『自分の居場所』を感じた。
それを放り捨ててもなお、壊さずに、信じて待っていてくれたなら… チームをなくしたことで自分へのケジメになるとしても、絶対に後悔する。 ……後悔はもう、したくない。いや、また必ずするものなら、せめて少ないほうがいい。
「いやぁ~…困ったことに…まだ、やりたくて仕方がないんだよね。楽しいこと…」
……だから、思い切って我儘になってみることにした。
「はっきり言え。ここはそういう場所なんだろ?」
「………」
楽しいことをするチーム。タイクツになったら暴れられる場所。 ただの手駒なんかじゃなくて、一緒にそんな場所をつくる、騒げる仲間として皆を迎え入れるチャンスを どうかもう一度、ボクに下さい。 ……という堅苦しい挨拶を思い浮かんだけどぐっと呑み込んで、勢いよく片腕を突き上げる。
「チーム・グレ☆グレ、活動再開!各々楽しいコト思いついたら即、報告ー!!」
ふふ、と笑うクラート。無言で頷くフェン。
「うむ!承知した!」
と勇ましく答えるヨハイ。反応がまるでバラバラでちっとも統率なんてとれてない。でもそれでいい。これがいいんだ。
これが、チーム・グレート☆グレネード。
明日から普段通りの生活に戻ろうと思う。
チームメンバーは大丈夫でも、ひょっとすると別のドールからは嫌われてるかも知れない。でもそんなのしょうがない。嫌われるならとことん嫌われるし、怒られるならとことん怒られよう。
無理にいいひとにはならず、いつも通り、
おつむの足りないカガリとして。
チーム・グレ☆グレのリーダーとして。
……でも、他のドールをもう少し識ろうとする努力は……まぁ、前よりほんの少しだけ、してみてもいいかな?
Diary085「不滅のグレ☆グレ団」
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