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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    ジャイアントインパクト

    ボクの自信作を読んだメロディアのため息が部室に響き渡るところから 今日の日記をはじめようと思う。



    「まずは実際にカガリさんが経験したことの中で インパクトが強かったことを台本に起こしてみたらどう?」

    そのアドバイスに忠実に従い書き上げたオリジナル台本2作目を、ボクは得意げにメロディアに見せた。
    あらすじはこう。

    『楽園と呼ばれる場所』
    ここは楽園と呼ばれる場所。
    ドールという生き物たちが魔法を学びながら楽しく暮らしています。ところがドールの中に規律を乱す悪いコがいたのです。ある日の全校集会で、悪いドールの処刑が行われました。
    悪いドールは苦しんだあとばたりと倒れました。
    みんなも悪いことをしないように気を付けようね!

    「……これ本気で公演できると思って書いたの?」

    台本が書かれたノートをボクに突っ返しながら、演劇部の大センパイは呆れた口調で話し始める。

     「うん!そこそこ印象に残ってて、みんなも知ってる内容だったからちょうどよかったかなって!」

    悪びれも戸惑いもせずにボクは即答する。

    「…せめて歓迎会とか、もっと他にあったじゃない?」
    「前に台本見せたとき『イマイチハラハラしない』って言ってたから、そういう出来事を選んでみました!」

    歓迎会がつまらなかったわけじゃないけど、この出来事に比べたらインパクトに欠けるし、パーティーの楽しさはお芝居抜きでないと味わえないものなので却下。 …でも、メロディアは納得していない様子だ。ホント言うと、それはわかりきってたけど。

    「…いい?カガリさん。 演劇っていうのは皆に楽しんでもらうためにするものだよ。特に最近は落ち込む事が多かったし…今こんなお芝居を見せたら、やっと取り戻した皆の元気が逃げちゃう」

    いかにもメロディアらしい考えだなと思った。…きっとコテコテのハッピーエンドのお話を書くのが正解なんだろう……でもボクがそんな「優等生」だと思う? 願われたってそんなのお断り!

    「ん~…いいアイデアだと思ったのになぁ」
    「…百歩譲ってこの題材で書くなら…」

    と、メロディアはそれ以上否定せず顎のあたりに手を当てて言葉を紡ぐ。

    「処刑されそうになってるドールは本当はいい子で、 それに気づいたクラスメイト達が必死で庇った結果処刑はなかったことになり、ドール達の絆も強くなる…みたいな展開にしたら?」

    ボクはこの提案に、思わずくくっと笑ってしまった。上がりっぱなしの口角を全く崩さずに
    「どうして?」 と尋ねる。
    あまりにも綺麗で完璧なエンディング。あまりにも綺麗で……味気ない。

    「どうしてって…」
    「なんでわざわざ事実を都合よく書き換えたり隠したりしなきゃいけないの?」

    それなら「インパクトが残った実話」を題材にする必要はない。王子様とお姫様が結婚した、みたいな子供だましの御伽噺ばかりをしゃぶっていれば良いわけだ。そういう物語を夢見る日はあってもいいけど、ボクはそれだけじゃ物足りない。

    「演劇は楽しんでもらうためにやるものだって、誰が決めたの?」

    メロディアの沈黙を、ボクは質問で上書きする。

    「単に、メロディアちゃんがハッピーエンドが好きなだけじゃなくて?」
    「…そうだよ」

    メロディアは両方の拳をぎゅっと握りしめる。勿論目の前のドールを殴る為ではなく、

    「あたしはハッピーエンドが好き。誰かが傷ついたりするのは嫌い」

    そう、この瞬間もハッピーエンドを守ろうとしている。

    「悲しい結末のお芝居も存在するよ。でも…あたしは…皆が楽しめるお話が好き。それじゃいけない?」

    ここにもいた。 演劇部の、ガーデンのセンパイとして綺麗事を並べるんじゃなく、心から周りのドール達の平穏を望むドールが。やっぱりこのタイプのコが言ってることはよくわからない。

    「ん~……メロディアちゃんが好きって言うなら、しょうがないか」

    この台本が間違っているとは思わない。けど、ここで押し通したところで出演者として名乗りをあげるドールなど多分このガーデンでは捕まらないだろうことは百も承知だったし、これ以上このドールの怒りを買っても特に良いことはなさそうなのでここで折れることにした。
    好きって言うなら、しょうがない。

    …好き……

    「…あたしそろそろ行くね」

    ……あ。

    「ねぇ!メロディアちゃんて」

    流れで思い出したことを尋ねようとした途端、奇しくもその話題の主人公が登場することに。 赤と青のオッドアイ…と同色のメッシュが特徴のドール…リツが、ドアが壁にバァンと叩きつけられるほど理不尽な力で開け、姿を現した。ドアに大量の鎖が絡まっている幻覚でも見えていたんだろうか。

    「し…失礼しますっ!……わあああっ!」」

    続いて、ドアに負けないぐらいのシャウト。それもそのはず、リツが目下片想い中のドールがちょうど部室から出ようとしていたところだったので、至近距離で向かい合わせになることは避けられなかったからだ。賑やかなのは嫌いじゃない。

    「わ~はこっちの台詞なんだけど…どうしたのリツさん?」

    メロディアはリツの本当の気持ちをまだ知らない(気がついているなら別だけど!)。この場にいるドールでそれを知っているのはリツ自身と……

    「めめ、メロディアちゃん!えっとあの」
    「な~に~?リッちゃん部活見学?」

    ボク!
    つまり……本人がなかなか言い出せないことを、ボクはこの場で今すぐにでもメロディアにバラせるってワケ。

    「それともメ…」
    「バカ!! 」

    リツもそれを十分に理解しているようで、ボクがわざとらしく意中のドールの名前を出そうものなら、すかさずものすごい目つきで睨みつけ一喝する。勿論ボクにしか聞こえない声の大きさで。

    「えと、メロディアちゃん、あたしさ、……」
    「?」

    リツがメロディアに向き直る。
    お?これは?まさか?決定的瞬間が来てしまうのか?

    「…演劇部に入部したからッ!対戦よろしくお願いします!」

    そっちか〜い。
    しかもなんで勝負なの?エアロスラスター部と間違えてる?

    「え、対…なんて?」
    「ああああっじゃなくて…」
    「…よくわからないけど、部活でわからないことがあれば聞いてね」
    「う、うん!」

    メロディアの大人の余裕で会話が成り立ってる感じ。ボクだったら間に受けたフリしてもうちょっとからかうところだけど。

    「じゃあまた」

    結局燃えるようなシーンには繋がることなく 「部室出る時、明かり消し忘れないでね」 なんてことのない日常の一コマゼリフを残して部室を去って行くメロディアを、ボクは適当な返事で見送る。
    …とはいえこの展開は「都合よく書き換えられた台本」よりよっぽど面白い。メロディアが掛け持っている部活のうち、わざわざボクがいる演劇部の扉を叩いた。つい昨日おちょくったのが効果覿面でしたと報告しに来ているようなもの。 それにこの行動力。
    ようやっとスタートラインに立てたってところかな?

    「…一歩前進したんじゃないの?リッちゃん」
    「ッなにその余裕!ムカつく!…絶対、負けないから…!」

    今日は『恋のライバル』を演じるのをすっかり忘れてたのになにが『負けない』なのか。そっちが余裕なさすぎだよ、リッちゃん。

    そんなこんなでボクの台本づくりはひとくぎり。今はもう少しこの『演目』を楽しむことにした。




    追記:
    そう遠くないうちに起こる大きな山場がこの恋路にどう影響するかを、ボクが知ることのできる日は果たして来るだろうか?



    Diary014「ジャイアントインパクト」
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