ボクはいつだって、自分のために動いている。自分が燃える方を選ぶ。ただそれだけだ。 箱庭のドール達にも興味があれば近付いていって、なければたとえ目の前で死ぬほどの苦痛を味わっていようが知ったこっちゃない。
でもここには、『誰かのために何かをする』ドールが一定数いる。
それが特に顕著なのが、仮面で素顔が未だにわからない、クラスコード・グリーンのロベルトだろう。何故かドールのピンチに首を突っ込んでは、時に自分を棚上げして助けようとするし、周りが不快になるような行動をとったドールにさえ同じように手を差し伸べるのだ。
「…ねぇ。どうしてロベルトくんは、皆を助けたいの?」
義務感や責任感といったものに縛られるタイプなのか、それがかっこいいと思ってやっているのか……この日も大輪級のお人形好し(おひとよし)をしようとした彼に、遂にこの質問をぶつけてみたのだ。
「そうするのが楽しいの?それとも、感謝されるのが好きなの?」
自分第一でも胸を張って自業自得と呼べる理由で手を怪我したボクに、蘇生奇跡を使おうとしてきた日のことだった。
詳しい内容はこっち
「心の底から皆さんのことを想っているから…」
ここで彼の話が終わっていたら、多分ボクは軽蔑しただろう。
「そう言えたら、素敵だったんでしょうね」
ロベルトは首を振って続ける。
「……私はそんな高尚な人形(ヒトガタ)じゃあない。私のこれは、きっと自己満足です」
予想以上にまっすぐで、変に飾らない答えが返ってきた。
「誰かが笑顔になってくれたら嬉しい。
誰かが辛い思いをしたら悲しい。
だからせめて、周りの方には笑顔でいてほしいんです。
私が皆さんを助けたいと思うのは、きっと私が嬉しくなるためなんです」
笑顔を見ると嬉しくなる。至ってシンプルな行動理念。 彼もまた、『自分が燃える方』を選んでいる。燃えるなら、疲れようが、面倒であろうが問題じゃない。だから迷わずに誰かを助ける。頭の中で彼の考えを整理すると、妙に腑に落ちる。
「いいじゃん自己満足で!やっぱ自分が楽しくなかったり~、嬉しくないと意味ないじゃん。 ボクはそっちの方が好きだよ?」
だから、ボクも率直な感想を返した。
チョコレートを食べる瞬間に嬉しくなることを知っているから、怪我をしていても痛みを我慢して、手を伸ばして取ろうとしたボクと、
誰かが笑う瞬間に嬉しくなることを知っているから、体に負担をかけてでもドール助けをしようとするロベルト。
置かれているチョコレートが誰の作ったものであろうと、美味しければそれでいい。
困っているドールが誰であろうと、笑顔が見られるならそれでいい。
想像の域ではあるけど、ボクとロベルトの考え方は一見絶対噛み合わなさそうで、それでいてどこかぴったりと重なるポイントもあるような、そんな気がした。
そういえば避難所にいた時
その後ドールがひとり、またひとりといなくなった時、
ガーデンの皆から消えたものはなんだった?
それにタイクツを感じていたのは誰だった?
そんなわけでボクは、他ドールの為に動いた先に得られるものがそんなに魅力的なのか、少しだけ興味を持った。
*
『ドロシーちゃんとレオくんの歓迎会やりたいでーす!
候補に書いておくから来れそうな日ぜんぶに目印お願いしまーす!』
それからというもの、ボクは気が向いた時、気がついた時に、「誰かが喜びそうなこと」「ロベルトっぽいこと」を思いついては実行した。
パーティーを企画してみたり
後片付けを引き受けてみたり
こっちの魔力を気遣うロベルトを逆に気遣ってみたり…
とはいえ、自分が大事という本質は多分人格コアをどうこうされても多分変えられない…と思ってるから、片手で数えられるぐらいしか試してないけど…
「しかしなんかカガリさん、最近良い子ぽいですよね……」
それでもアザミはボクが『新しいことを始めている』と真っ先に気がついたみたい。本を沢山読んでいると、洞察力も研ぎ澄まされるんだろうか。 良い子になるつもりはないし、飽きたらやめる。でも、もう暫くはこれを続けてみてもいいかな。
笑顔だけじゃ………刺激が足りない気もするけど。
Diary012「笑顔の価値」
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