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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    新しいオモチャ

    ガーデンに入学して3か月後、やっとボクにとっての新学期がやってきた。
    自分で書いててま~~意味がわかんないけど、その通りなんだからしょうがない。

    やっと楽しい学園ライフが幕を開ける… …






    が、それは束の間の夢だった。蓋を開けてみれば授業はただ座ってセンセーの抑揚のない話を聞くだけ。魔法の実技ですら、今迄使ったことのある魔法のおさらいのようなもので、ワクワクしたのは最初だけ。 すぐにタイクツの海が生えそこに突き落とされてしまったボクは、終業ベルの音で今日もセンセーの催眠魔法に耐えられなかったことを知らされるのだった。

    「ふぁ……あ、あぇっ!……しまったぁ………」

    それでも、ボクがひそかに期待している『炎の魔法の習得』のチャンスを逃さないために、魔法座学の授業のノートだけは取るようにしている。あとから。誰かに見せてもらって。

    「リッちゃ〜ん……ね、ノートみして……ん?」

    今日ボクの前に座っていたのはリツ。赤と青のメッシュ…とお揃いのオッドアイが目印のドールだ。 第一印象は「面白いテンションでボク好みの激辛カレーを作る、甘辛党のコ」だったけど… 在学中にいつの間にかガラっと雰囲気が変わったのも記憶に残ってる。イメージチェンジしたという自覚は本人がしっかり持っているから、人格コアをぶっこ抜かれたわけではないみたい。

    そんなリツはボーっとしていて、ボクの声は耳に入っていない。『ただボーッとしているだけ』ならノートの拝借先を別のドールに変えてこの話はおしまいだった。でも…どうやらリツは何かを目だけで追いかけている。追いかけているのを、悟られないようにしながら…

    目線の先は…は教室を出て行くドール、メロディアの姿。特別仲良しってわけではないけど、委員会も部活も一緒だからよく見かける。

    「リッちゃん!!」

    これは確実に面白いことになりそうだ。 リツの両肩をぱんぱんと、ぎりぎり痛くない程度に叩く。

    「わっ、!!な、カガリちゃん!?いきなり何…」

    軽く飛び上がるリツ。知り合って初期の頃のリツはこんなことぐらいじゃ動じなかったのに、すっかり牙が抜かれちゃった感じ。

    「いきなりって…さっきから呼んでたよ?ノート見せてほしくて…」

    と返すボクの興味は既にノートから別のものへ向いていたんだけど。

    「あ、ああ…別にいいけど…」
    「…でもぉ〜そんなことより〜」

    リツが開きっぱなしのノートを手に取り、差し出すよりも前に、ボクは彼女にちょっと辛めのエサを垂らしてみる。

    「リッちゃんさぁ。メロディアちゃんのこと好きでしょ!」
    「ちょ、しーっ!皆いるんだよ!?」

    見事に食いついた。顔面の全パーツが、同時に転移奇跡を使ったように変化し、その声は動揺の音色一色だ。

    「へ?こいつら別に聞いてなさそうじゃない?」

    と言いながらこいつら…一般生徒ドール達を見る。
    こいつらと初めて会ったのは…ある生徒が処刑されたときだけど、録音魔法でも仕込まれた物体であるかのように状況に応じたうすっぺらい言葉を繰り返し吐くだけ。会話をしようと思えばできるけど、時間を無駄にした、ていう後悔が残るだけ。ちょっと歩いたり魔法を使ったりできるだけのただのオキモノだ。
    彼らについて気になることといえば…強いて言うなら「痛みを与えた時どんな反応をするか」ぐらいかな?

    「そーゆー問題じゃなくて!」

    そんなオキモノよりも、今ボクの手を引き、手頃な空き教室へと連行するリツの方がよっぽど面白い。

    「……それで?」

    さぁ邪魔モノは見当たらなくなった。続けて続けて?

    「……メロディアちゃんのことは好き、だよ」
    「ビンゴー!!」
    「しーっ!しーっ!」

    まずは予感的中。でも遊びはまだ始まったばかり。

    「でもさっきの様子だと…アタックはまだって感じだねぇ?」
    「で、できるわけないし、するつもりもないよ…」

    するつもりもない。
    そんな一言で納得できるほどボクはアッサリ味にはできていない。

    「どうして?」
    「…好き…だけど、独占したいとかそういうんじゃ、ないし…」

    言葉のところどころが途切れたり、吃ったりしているのを聞くまでもなく見え透いた嘘だ。
    だって

    「あんなに釘付けだったのに?」
    「んっ……うるさいな」

    まるでお手本のような、ザ・図星を突かれた時の反応。

    「兎に角あたしは、メロディアちゃんが幸せなら、それがあたしの、幸せでも、ある…わけで……」

    言葉を並べてみるけど完全に断言もできないといった雰囲気で、リツの声はデクレッシェンドしていく。 その様子を見てボクの好奇心は膨れ上がる。
    ここで更に辛い爆弾をぶつけてみたらどうなるだろう?

    「….じゃあ…ボクがアタック、しに行っちゃおうかな〜?」

    ちょっと唐突すぎたか?流石にわかりやすすぎたか?
    しばらく教室に沈黙が居座る。

    「……は!?」

    この声、この顔、どっちゃどちゃに本気にしてる。
    ウソでしょ!? そもそもボクが恋するタイプのドールだと思ってるコ他にいる??
    うっっっわおんもっっしろ!!

    こんなの休講明けの喜びの比じゃない! 最近ボクの中で暇つぶしにやってみていることならあるけど…イマイチ『楽しい』に繋がらなくて正直ちょっと飽き始めてたところだったんだよね。
    これはいいタイクツしのぎ。これはいい…真新しいオモチャ!

    「最初はさぁ〜メロディアちゃんてパッとしないコだと思ってたの〜。でもさ〜生徒想いで優しいし〜、怒る時には怒る頼もしいお姉さんって感じだし〜?」

    点火されたボクの炎ジンは加速する。 もっともっと面白くするために、あることないこと、すらすらと歌い上げられる。

    「……で、でも、カガリちゃんが好きになるタイプのドールじゃないでしょ…!?」

    そこまで分かっているのにどうしてそうもぎこちないの?もし『そうでなかった』場合、ボクに勝てる自信がないとでも言うの?心の中でテンポよく問いかけながら、ボクはリツの周りをくるくる歩きながら様子を伺い、追い討ちをかける。

    「この前も演劇の台本書いた時にめっちゃ的確にアドバイスくれてね〜!もう感動しちゃったぁ!…あ。ボクさぁ、演劇部と園芸委員でたーくさんメロディアちゃんと会ってるんだよ。
    ……あ〜部活といえば!メロディアちゃんて部活の兼任もしてるし凄すぎだよね〜!
    あれぇどうしてだろ…メロディアちゃんのいいところがど〜んどん出てくる〜どうしてだろう〜!?……これって……」

    青の戸惑いと赤い怒りがちょうど半分になったような瞳をしっかりとらえて逃さない。

    「メロディアちゃんのこと……気になっちゃってるってコトかなぁ〜〜?」
    「……!!メロディアちゃんは、ドールが傷ついたりするのが嫌いだから!カガリちゃんとは真反対でしょ…!?理解し合えるわけ…」

    リツの声がわなわなと震え始めた。 躊躇が消え、しっかりとボクを睨みつけている。
    たのしいな たのしいな

    「知ってるよ?じゃあボクが武器を捨てて平和主義のドールになればワンチャンあるかな〜?」
    「っ……」

    こんなにも、即興で書き上げた台本への返しとして相応しいリアクションをとってくれるなんて
    たのしいな たのしいな!

    「もっともっとメロディアちゃんと仲良くなればぁ、メロディアちゃんの隠された魅力なんかもわかっちゃったりするのかなぁ〜?」
    「……あんたなんかメロディアちゃんに相応しくない」

    リツの口調が荒くなったのを、ボクは聞き逃さなかった。
    こんな燃える脚本をこの場限りの会話で終わらせるなんて勿体無い!ってことで

    「じゃあ、どっちが早くメロディアちゃんのココロの隙間を埋められるか、競走だねっ!」

    存在しない果し状をトドメとばかりにリツにたたきつけた。

    「あ…あたし負けないから!」

    どうやらリツも別の意味で火がついてしまったようだ。 これから直ぐに決闘でも始まるんじゃないかってぐらい、敵意剥き出しの宣戦布告のあと、教室を立ち去る前に

    「あたしの方がメロディアちゃんの事好きだもん!」

    というひと言を残した。 そして、リツが完全に見えなくなるまで飲み込んでおいた言葉を、がらんとした教室にそっと解き放った。



    「へぇ。 言えるんじゃん、そういうこと」


    Diary013「新しいオモチャ」
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