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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    辛まわり

    「ごめんな、今日は先約がある」

    『今日は』どころじゃなかったじゃん。
    うそつき。






    アイツに二度目の決闘を申し込むために、朝早く起きたボクは、今……

    好奇心からはじめて「決闘」というものに触れ なすすべもなくボロ負けして ものすごく痛かったけど、ものすごく楽しかった。
    「次こそは勝ちたい」と、燃えることができた。 ボクは戦いに関しては素人だし、素人でもわかるぐらい アイツは「そうカンタンには勝てない相手」だった。

    だから、長く楽しめるって
    長い長い物語の、オープニングを迎えたのだと、信じていたのに。

    ……ボクは今、自室にいる。
    とっくにアイツに喰らわせているはずの『最強武器』を握ったまま。


    *


    『最強武器』が生み出されたのは、前日のキッチンだ。
    正直このやり方は不本意でしかなかったんだけど、今はそんなこと言ってられない。


    「え?キッチンで武器が作れるんですか?」

    「そうなんですよ! …とはいっても、パンや野菜から剣や銃がつくれるってワケじゃなくってぇ…」

    教育実習生のグロウ先生… 4月になっても結局休校のままだったから、ヒマだったんだろうなぁ。 作業をしているところにやってきて、『キッチンで生み出される武器』に興味津々のようだった。

    アイツとの闘いを思い出す。 攻撃を避けるだけじゃ勝てない。
    避けまくって疲れたところに一撃を喰らわせる 武器もない。
    有効な魔法もない。経験もない。
    圧倒的不利な状況。燃える
    ないない尽くしの中、作戦を考えるのはとても楽しかった。
    戦いの中でも、外でもいい。 アイツがキライなものはなかった?
    決闘した時の記憶を駆け足で廻れば、簡単にひとつの答えにたどり着く。

    『……な、何これ……餓鬼の腎臓……?』
    『え?からしパン。』

    ボクの非常食にしようと思っていた『お手製からしパン』が口の中に入った時、
    アイツは確かに身もだえた。大ダメージを与えるほどではなかったけれど それならもっともっともっともっと辛くしてやればいい。
    でも、からしパンは一度食べているから、同じものを出せば絶対に警戒される。 食べ物ってだけで警戒されちゃうかも? 何とか、警戒心より食欲を勝たせる、魅力的な逸品はないだろうか?
    そんな時……

    『あ!ボクのチュロス〜〜〜〜!』
    『ちょっとくらいくださいよ好物なんですから』

    すれ違ったアイツが大ヒントを置いていってくれた。
    このあと先約を入れたのが運の尽きだと、確信した勝利のもとボクが生み出した最強武器、それが… 激辛チュロスだ。

    「ん゛っっっ」

    グロウ先生が悲鳴をあげたのは、コレを口に入れたからではなく、 調味料につかったデスソースをほんのちょっと(スプーン一杯☆)舐めただけ。

    別にイジワルしたわけじゃなくて、辛いものを舐めたことがないと言うので試してもらっただけ。

    「げほ、ごほっ!!!」

    そして効果テキメンだった。
    グロウ先生が舐めたのは、チュロスにつかったデスソースの半分くらいの量。
    くわえてチュロスには、からし、わさび…その他思いつく限りのから~いものが入っている。 たぶん先生が食べたのがこっちだったら、再起不能になっていただろう。

    「これは…武器ですね…」

    悲鳴を聞いてかけつけたドール達に介抱されながら

    「なるほど…これは…勝てますよ!」

    というお墨付きをもらったので、明日アイツがどんな悲鳴をあげるのかますます楽しみになった。 明日起きたら真っ先にアイツを叩き起こして宣戦布告をしよう!
    まるで楽しいお祭りの前夜のような気持ちで、ボクは眠りについた。


    この日を全てやり直したいだなんて思う時がすぐにやってくるなんて、考えられなかった。



    *


    「シキくん!」

    『決闘を見てくれる』と約束してくれたグロウ先生に対戦相手がどこにもいないと愚痴っていたら、突然グラウンドに集められた。
    目線の先に、探していたドールがいた。 ボクは喜んで駆け寄った。
    けど、なにかに阻まれて、それ以上近づくことができなかった。
    シキの隣には、センセーがいる。 なにが始まるのか聞こうとしてボクが口を開きかけたとき。

    「シキさんの廃棄処分が決定されました」


    うそでしょ。


    「今回は皆さんに見届けていただきたいと思います」

    耳を疑った。
    目の前のドールは何も答えない。
    ボクの身体は硬直した。
    まるで誰かに時間をとめられたように。
    怖かったわけじゃない。
    あまりにも突然で、
    状況を理解するのに時間がかかっていたのだ。
    どんな顔をしていただろう。
    ワクワクしたまま固まってしまったから、
    笑顔のままだったかな。

    傍らで「遮る何か」を叩くドールが
    目の前でどんどん形が崩れてゆくドールが
    ボクの周りの時間が、
    ボクとは無関係にいつも通り動いていることを教えてくれる。

    あまりにも早く
    あまりにもあっけなく
    時間は流れ、
    「そのとき」は、終わった。

    「ガーデンにとって不都合な生徒はこうなります。
    ガーデンはキミ達が優等生であることを願っています」

    センセーが立ち去り、シキの立っていた場所にドールが集まり始める。
    嘆く声、「なんで」「どうして」と訴える声…状況を受け居られず笑う声。
    残されたものを拾うドールたち… ざわめきの中、ボクの時間も徐々に元通りになった。
    元通りになった途端、次にこみあげてきたのは

    怒りだった。

    うそつき。
    うそつき。
    なんで言ってくれなかった。
    他のコたちはこの話を聞いているのか?

    シキと最近よくつるんでいたドールをはじめ、
    放心状態であろうが、泣いていようが、構わず色んなドール達を問い詰める。

    ボクは何も聞いてない。
    どうしてこんなことになったんだ。
    キミは教えてもらったのか。
    ひとりひとりがどう反応したかは、覚えてない。
    首を振ったかもしれない。 怒ったかもしれない。 答えなかったかもしれない。
    覚えていない。
    どの反応も印象に残らなかったことだけ覚えてる。
    だんだん疲れてきた。
    どうでもよくなってきた。

    「……つまんないの」

    折角の楽しみが奪われてしまった。
    ああ、タイクツだ。
    面白くない。


    *

    ……ボクは今、自室にいる。
    とっくにアイツに喰らわせているはずの『最強武器』を握ったまま。
    それと……朝冷蔵庫から持ち出したシュークリームふたつ。
    「ボクに勝てたご褒美」として、あげるつもりだった。 あと…ついでにグロウ先生の分も。

    あーあ、 どうするんだよ、この最終武器。 完璧な作戦だったのに。
    運よくバラしてくれた、キミの大好物を選んだのに。
    誰も食べないぞ、こんなの。
    …ボクが食べちゃおっかな。

    あ~、辛い。
    ボクは自他ともに認める辛党だけど、いやぁ、それにしても辛い。
    ありとあらゆる辛口を詰め込んだだけある。
    使ってたら大成功だったかな。
    やっぱりボクは天才だな。
    見た目はチュロスなのに。
    チュロスの味ぜんぜんしない。
    うそつきはボクかな。
    笑えてきた。

    辛くて
    辛くて
    鼻につんときて
    辛くて
    辛くて
    口の中がひりひりして
    辛くて
    辛くて
    一口以上、喉をとおらない。
    辛くて
    辛くて
    もしかすると、
    前に辛党のドールがつくったカレーより辛いかもしれない。
    だって、
    辛くて
    辛くて
    辛くて……


    ちょっと泣いちゃうぐらいだったんだから。



    Diary 007 「辛(から)まわり」
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