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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    対策本部のモトベさん

    マギアビースト交換ノート落書き事件の4日後、

    「おや、学生か。なぜここにいるんだい」
    「その声はモトベさん!探してたんですよ~!ず~っとお喋りしたくて!」

    ボクは、マギアビーストの対策本部を訪問しました。

    「えっと…私は付き添いというかなんというか、引きずられてきたというか……」

    クラスコード・ブルーのアザミセンパイも一緒。
    付き添いというか… ボクに盛大な勘違いをさせた罰ゲームです!
    目的は勿論…カワイイマギアビーストたちをもっと知るべく、ここで武器を貸し出してくれる『モトベさん』とお喋りするため!



    ―――― とはいえ、対策本部に来たのは今日初めてじゃないんです。
    あれは…ボクの歓迎会があった日。パーティーの途中でマギアビースト討伐から帰ってきたドールを見かけて…いてもたってもいられず、ボクを含めたドール何人かで次の攻撃をしかけることになったんです。
    そういえば、その時本部に行った時のモトベさんの第一声も「学生か」だったな~
    ボクはそこで、「一番ビーストの注意をひきやすい」とアドバイスされた盾を手に、じーっくり観察する予定だったんだけど…相手が弱っていたのか、センパイたちの剛腕が強すぎたのかは知らないけど、あっという間に動かなくなっちゃった。
    足がいっぱいあって、本を並べるのが好きなかわいいコで、このコといれば、図書室にいても飽きないだろうな~。もっと遊びたいな~って思ってたのに。

    「待たせたね」 モトベさんが、湯気の立つマグカップと、二等分の…お菓子?(保存食っていうらしい)と、お砂糖入りの壺を用意してくれました。
    コーヒーはあつあつでとってもおいしかったんだけど、保存食は…ボクなら保存しないで捨てるかな

    では、ここからモトベさんに聞いたことを纏めていきたいと思います!

    質問その1。
    あくまで『討伐対象』のマギアビースト。仲良くはなれないの?

    「不可能だ」

    バッサリ。モトベさん自身も他のドールも、手なずけられるか試してみたことはないらしいし、モトベさんに至ってはそれをする必要すらわからないみたい。
    飼ったら絶対カワイイって説得しようとしたんだけど

    「それを行って被害が拡大しないと言い切れるのかい」
    「じゃ、ボクがひとりで出撃するんなら、いいの?」
    「許可しない」

    ぶー。
    だってひとりで出撃すれば、勝っても負けても困るのはボクだけなのに。
    ボクは質問を変えました。

    質問その2。
    どうして一人で戦闘しちゃいけないの?

    一人で戦闘するのがキケンだから?キケンなのは100も承知。 偉い人達にとって都合が悪いから?そんな都合なんて知ったこっちゃない。
    どんな答えが来ても論破するつもりで聞いてみたんだけど

    「お前だけで自身の安全を保証できるのか?」

    ぶーぶー。
    質問を質問で返されちゃいました。 さっきから安全だの被害だのをやたら気にするモトベさん。

    「失敗したら無事じゃ済まないんじゃない?」
    「戦闘に失敗など許されない。許されてはいけないんだよ。 死に行く場所じゃないらしいからね」

    死に行く場所『じゃないらしい』って言い方がちょっとひっかかったけど、ツッコむ前にモトベさんが更にたたみかけます。

    「その失敗が自分以外にも被害をもたらすなら、
    その自分自身の身勝手な行動で…………失ってしまうのなら」

    モトベさんの声のトーンが、心なしかちょっと重くなったように感じました。

    「お前だけの問題で済むのか」
    「……言いたい事はわかるけどさぁ。 失敗を恐れて新しいことを試さないのは、ただの弱虫と変わらないよ?」

    モトベさんの言うことも別に間違ってはないと思うんだけど、う~ん… ちょっとアタマがカタいんじゃないかなぁ。 どうしてそこまで「倒すこと」にこだわるんだろ。
    ただただやっつけるって方法が通用しづらい状況になったらどうするんだろう? たとえば…

    質問その3.
    かたっぱしから討伐した結果、ある日ビーストの怒りを買い、大勢のビーストから奇襲をかけられたら?
    ↑これはモトベさんのいう「お前だけの問題」じゃ済まなくなるんじゃないかなって。

    「すべて倒せば問題ないだろう」

    ぶーぶーぶー。
    モトベさんの頭のカタさは大輪級だよぉ…

    「…たった一匹の討伐でも、何人ものドールが何日もかけて対処するのに…
    『全て倒す』なんて簡単に言えちゃうんだね?」

    ドールの数にだって限りがあるし、
    一度に戦闘に行けるのは四人までで、えーっとドールは今全部で何人……マジメに計算しようと思ったら面倒になったのでこれは報告書を読んで気になった人勝手に計算してね!
    とにかく、今のドールの数じゃ対応できないぐらいビーストがうじゃうじゃ現れたら、一匹ぐらい味方につけないと厳しいんじゃない?って話をしたかったんです。
    そうしたら

    「お前にはできないのか」

    ぶーぶーぶーぶー。
    出撃しろって言われたらそれはできるけど、今話しているのはそういうことじゃ…

    「モトベさんならできるの?」

    答えるのがだんだん面倒になったので質問に質問で返しちゃいました! お返しだもーん!

    「落ち着いてくださいカガリさん。私たちは喧嘩しに来たわけじゃないんですから……」

    そこに割って入ったのはアザミセンパイだった。

    「モトベさん。あなたがリスクやドールの安全を考えてくれていることはよくわかります。
    でなければ、強制帰還バッチだなんてつける必要ないわけですし。
    カガリさんはこんなパッションの塊みたいなドールですが、何も考えてないほどバカではな——」

    なんでここで一瞬言いよどんだんでしょうねアザミセンパイ。あとで問い詰めましょうねぇ。


    「ちょっと手と足が先に出るドールだとは思いますが、きちんと割り切れるタイプだと私は思ってます」

    なんかよくわかんないけど褒められたので、そうだそうだ!とボクは何度も頷きます。

    「ただ、私たちは知りたいだけなんです。マギアビーストのことを。 もし良ければ、モトベさんとガーデンが持っているマギアビーストの情報を教えてくれるとありがたいのです。
    その情報によってはカガリさんの意見は『ガーデンの利益』にもなりますし、
    『リスクの軽減』、『被害を未然に防ぐ』ことにも役立つと考えています」

    アザミセンパイがここまでアツく語ってるところは初めて見ました。 どっちかっていうとコミュ障根暗ってイメージだったからなぁ…

    「いかがでしょうか、モトベさん」
    「リス…?」

    モトベさん、リスじゃなくてリスクだよ。 確かにアザミセンパイのお話はちょっと長すぎたかもしれないけど、それにしても一番気にするところはそこなんだ!と、くすっときちゃいました。

    「要するに私たちの要求は2つ」

    ・マギアビーストの情報を全て教えて欲しい。
    ・討伐一辺倒になるのではなく、相手を理解することは我々の利益となる

    アザミセンパイがコンパクトに話をまとめてくれたけど、あれ?
    「ペットにしたら絶対カワイイ」が入ってない…

    「魔機構獣は個体によって性質が違うものだ」

    でも、アザミセンパイが根気よく訴えかけたおかげで、ようやくモトベさんはその口から情報を出してくれる気になったみたい。一方ボクは保存食を口から出してたけど。

    情報といえば、対策本部のコルクボードに、過去に討伐したと思われるマギアビーストの情報が、外見がよくわかるイラスト?つきで載っていた。それを見た限りでも、音楽を楽しんだり、戦いとは無関係なことをする習慣のあるコもいるようだったから、やっぱりボクはモトベさんのやり方にはナットクできません。
    だからちょっとでも仲良くなれるヒントになるようなことを聞けたら良かったんだけど…

    「過去に学生共を食っていた個体がいたことは聞いている」

    聞こえてきたのは、期待していたのと真反対の情報でした。

    「食べてたぁ!?」
    「……なるほど。そういう個体に関しては私たちも対処せざるを得ないですよね。身を守るために」

    まぁ、コレはコレで驚きました。 前ボクが戦ったコも、ドールより本に興味がありそうだったから……
    それこそ隣にいるアザミセンパイはこのコの長い脚に捕まっちゃったみたいだけど、そのまま口に持っていかれることはなかったみたいだし…ん?そもそもあのコ、口あったっけ?

    「…でも、性質が違うっていうならなおさら、
    全部が全部、必ずこっちに敵意を向けてくるコたちばかりとは限らないんじゃないですか?」

    そんなビーストの姿を思い浮かべながら、ボクはモトベさんに尋ね、

    「あなたやカガリさんが言うように個体によって性質が違うともあれば、討伐より先に『知る』ことが大切です。 ただでさえ情報が少ないんです。
    異なる生態の中から『共通する生態』を暴くのも大切ではないでしょうか?」

    アザミセンパイも、ボクの言葉に続け補足します。

    「……学生共に対して共通に悪意を持っているらしい」

    …そう言っておけば、「わかりました、討伐します」って引っ込むとでも思ったのかなぁ…
    本当に共通の悪意を持っていたとしても、それを取り除く方法が全くないとも限らないし…

    「マギアビーストは、ドールと敵対している組織からの生物兵器……とか?」

    モトベさんに反論しようと思ったけど、ここでアザミセンパイが面白いことを口にしました。

    「面白い意見だと思いますけど、
    ボクらからは絶対に出られないガーデンの外からの贈り物の侵入を、わざわざガーデンが許すかな?」
    「……わかりません。 でも例えば……ガーデンはたまごの殻のようなもので、
    我々ドールがその中身。育ちきると厄介だから先に潰しておきたい、
    みたいな可能性はあるかもです」
    「……ボクらが育ちきると困るやつらって、『ガーデンに敵対してる組織』じゃなくて……
    『ガーデンそのもの』だったりして?」

    あることないことを想像して話すのってとっても楽しい! 楽しすぎて、アザミセンパイにすごくワルいカオ向けちゃってたかも。おまけに、カンジンのモトベさんをすっかり置いてけぼりにしちゃいました。 いつものかわいい笑顔に切り替えて…

    「な~~んちゃって!あっはは! それをガーデンのそこそこエライ人の前で言っちゃうボクって大っっ概悪いコだよねぇ~~!!」

    きょとん顔のモトベさん。ちょっと気まずい。

    「とんでも理論での話、ですけどね…… どちらにせよ、すべての個体悪意を持ってることすら憶測の域ですし。 まぁでも、最初の出撃くらいは……平和的なアプローチをするのも悪くないのかなと……」

    「そうそう。悪いコでもおいしいおやつで言うコト聞かせられちゃう場合だってあるしさぁ」

    いつ使おうかな?とポケットに仕舞ったままちょっとくしゃっとなりつつある食堂のスペシャルメニューのチケットをチラつかせます。 モトベさんは…いまいち話を理解していないのか、別の事を考えているのか、ボクたちとは別の方を向いていました。一瞬仲間はずれになっちゃって、いじけちゃったかな?

    「…一番安全で効率がいい選択肢が討伐なんだってのもわかったよ。
    …でも、長く付き合ってかなきゃいけない種族なんだったら、たまにはアプローチの仕方を変えてみるのだって面白いと思うよっ!」
    「そうか」

    そう言ってモトベさんは、ボクたちの方へ向き直りました。

    「討伐は学生共の責務ではないよ、怖いというのなら参加しなくても問題はないよ」

    モトベさんの声が、なんだか今日一番優しく聞こえました。

    「…………本来僕たちが行うべきことだったからね」

    別に怖いから和解を提案しているんじゃないよ、とボクが口をはさむ前に

    「それって、どういうことなんですか?」

    アザミセンパイが食いつきました。

    「僕はもう戦えない。それだけだ」

    モトベさん、戦えないんだ… その気になればマギアビースト一体ぐらい背負い投げできそうだけど… …それができてたらとっくに討伐に参加してるか!

    「モトベさん……モトベさん以外の方達は? 」

    正直ボクはモトベさん自身のことはどうでもいいので、トークはアザミセンパイに任せてコーヒーを楽しむことにしました。 なんとなく出されたものを残すのは悔しいので、保存食を流し込んでみたりしながら。

    「…………」

    ながーい沈黙。

    「……彼は死んだよ」
    「死…!?」

    アザミセンパイはびっくりしてるけど…

    「え、だって……ガーデンの技術は身体的な損傷をほぼ完治できるはず……
    人格コアをやられたんですか? それとも……ドールじゃなかったからできなかった……とか?」

    どうしてびっくりするんだろう?どうしてそんなこと気にするんだろう? ドールと、ドールじゃない生き物がいて、 ドールじゃない生き物はしんじゃうって生物研究部のコが言ってたし… なんでいちいち、そんなこと気にするんだろう。

    「………」
    「………… 答えたくない。もしくは答えられない……ってことでしょうか?」
    「モトベさんが死んだって言ってるんだから、そうなんじゃない?」

    今すぐ死んで消えてなくなってほしい、まだ半分くらい残ってる保存食とにらめっこしながらボクは言いました。

    「……そう、ですね。ちょっと深入りしすぎちゃったかも……」

    深入りというか…マギアビーストを知る上で、モトベさんの友達が死んだかどうかってそれほど重要なのかな?話が脱線しているようだったから、戻してあげただけですよ?

    「カガリさん」

    と、アザミセンパイに呼ばれ、ボクは保存食とのにらめっこをやめる。

    「あなたの方は今の答えで納得してますか?
    マギアビーストの生態……わかってる限り、危険である確率は高い……ということらしいですが……」
    「ん~ぜんぜん?」

    憶測でしかない情報に、ナットクなんてできるはずもなく。 即答でノー。

    「でも…」

    でも。なぜそんな情報しか出せないのか。 モトベさんがビーストをとにかく討伐したがるのか。その答えは、

    「モトベさんがビーストをめちゃくちゃ嫌ってるっていうのは、わかってきたかも」

    これもまた、憶測でしかないですけれど。 でもめちゃくちゃ嫌ってる、ならしっくりくるんですよね。 ボクだってここにある保存食を捨てずにおいしいものと思って食べろと言われたら無理ですもん。

    「………… 今日は……もう、帰ってくれ」

    あ~あ。アザミセンパイが死んだお友達の詮索なんてするからモトベさん落ち込んじゃった。

    「いいよ」

    ボクは多分これ以上、この人から『マギアビーストを手名付ける』ためのヒントは引き出せないな、と確信したので、コーヒーを飲み干して、潔く立ち上がりました。

    「…少なくとも次からここに来るときは…ちゃんと『討伐目的』で来てあげるよ。
    でも…知りたいことがあったら遠慮なく聞くから。嫌だったらボクのことは出入り禁止にしといてよね!
    …ボクの名前はカガリ、だから」

    聞けることもないだろうし、と今日は諦めたけど、絶対にモトベさんがカギを握ってるに違いないことがもしも出てきたら… 落ち込もうがキレようが、何がなんでも吐いてもらうからカクゴしといてよね、モトベさん!

    「行こ?アザミセンパイ」
    「そうですね。
    モトベさん、今日は時間をとっていただきありがとうございました。
    いずれまた、お世話になると思います」

    アザミセンパイも立ちあがって、ボクの傍へ。

    「私は——あなたが私たちのことを本当に気にかけてくれている。きっとそれは真実だと思うので……」

    それはボクも、そうだと思います。

    「…気を付けて帰ってくれ」

    いわゆる「社交辞令」が得意じゃなさそうなモトベさんが、あれだけ言いたい放題だったボクらに、こんなこと言えるはずがないですから。
    何も得られなかったわけじゃない。ボクが戦ったことのないビーストのことも少しはわかったし、本部に辿り着いた直後なかなかモトベさんが見つからなくて、本部を色々と探検できたし…
    でも…

    「ええと……」

    モトベさんがさよならの挨拶がわりに、ボクらの名前を呼ぼうとしてくれたんだけど…

    「けがり?くんとがざみ?くん」

    なんでガーデンにはちょいちょい名前ちゃんと覚えてくれない人いるのぉ!?!?!?


    書いた日:3月1日
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