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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    ロベルトの挑戦状

    (カガリには見えない字で書かれている)
    ※最終ミッション内容のネタバレがあります

    「おはよう、カガリ」

    7月2日…入った時点では誰もいなかったはずの寮のダイニングから、適当に食べ物を取ってさっさと自室に帰ろうとしたところを『ししょー』に見つかった。
    きっと今日も訓練に誘いに来たのだろう。




    ボクが『ししょー』と呼んでいるドールは仮面のドール、ロベルトだ。
    未だに古い制服を着ている。お気に入りなのかな?
    刃物の扱いが上手く、ある日をさかいに、ボクに戦いの…特にナイフによる接近戦の稽古をつけてくれている。浮遊魔法を応用し、相手の動きを封じたり、移動手段に使ったりする方法もこのドールから習った。 ただの稽古とはいえ、ガチで殺す気で挑んでも怒らないし、魔法や身のこなしでそれなりに対策もしてくる。上手く立ち回れば褒めてくれるし、改善が必要な点はちゃんと指摘してくれる。 そこそこ手応えのある訓練になる……

    ……こちらが攻めに徹した場合は。

    当時は戦いのプロだと思っていた彼には、戦いに向かない致命的な弱点があった。
    それは、ドールを傷つけられない事。
    攻撃が常に本気ではなく、魔法も武器も、当たるぎりぎりの所を攻めて来る…初心者にとってはありがたい練習相手だけど…そこそこ実戦経験を積んだ(かといって戦闘の達人ではないにしろ)ボクにとっては、もはや『訓練と呼ぶには生ぬるい何か』だった。
    早い話がそれがつまらなくて、ここ最近ずっと、誘いを断り続けている。

    「行かないよ~」

    聞かれる間もなく、さっさと結論を雑にぶつける。

    「何かあったのか?最近… いつもの覇気がないように見える」
    「べっつに~」

    何かあったと呼べるほどさして大げさなことではないけれど…早い話が、訓練そのものが楽しいかどうかを抜きにしても、今あらゆるやる気が完全に終わっていた。

    「訓練では退屈か。では――」

    もう来なくて良い、といじけて帰るか、と思いきや



    「…殺し合いならばどうだ?」



    「……へぇ?」

    予想外な返答に、思わず口元が緩む。 他でもない”傷つけられないドール”が、命のやりとりをしようと言うのだ。

    「珍しいじゃん。どういう風の吹き回し?」
    「殺せぬ自分を変えたいと思うた」
    「へ~。殺したいドールでもいるの?代わりに殺ってこよっか?」
    「やめろ」

    ちょっとからかってやったら、冷ややかな声で止められてしまった。

    つくづく思う。ボクとロベルトはまるで正反対だ。
    ロベルトと違って、ボクはドールを殺すことに躊躇いがないガーデンの技術を用いて行う廃棄処分や公開処刑とは違い、ドールがドールを殺したところで、次の日の朝には目覚めている。寝る前に痛みを伴うかぐらいの違いしかない。
    ボクは平気で冗談を言うけれど、ロベルトにはまるでそれが通じない。
    ロベルトは他人の気持ちを尊重しようとするけど、ボクは自分が燃えるかどうかが一番大事。
    でも、自分の性格に対して頑固なところは一緒なので、ボクはこのドールのことが嫌いじゃない。

    「これは某の問題だ。某の手で為さねば意味がない」
    「…で、ボクを殺しの練習台にしたいの…?」

    覚悟の程を見極めるため、わざと眉を寄せ、死や痛みに対しての恐怖を訴えるように声を震わせる。 ロベルトは数秒間をおいた後、


    「そうだ」

    と言い切り、更に「某の都合で、其方を利用しようとしている」と、自分の性質と間逆の行動をとろうとしている事を、自分の言葉で示した。 う~ん、なるほどねぇ…

    「…別にいいよっ!」

    いや~、面白いコトって、黙ってても案外向こうからやってくるものなんだねぇ…

    久々に、燃えてきちゃったかも。

    「ただし!なんでそうしたいのか詳しく聞いてから」

    あまりにサラッと申し出を快諾され、呆気にとられているロベルトに、貴重な命を使うことになるかも知れないんだから、それぐらい聞く権利はあるだろうと主張する。まぁホントは単に何がロベルトの心を動かしたのか聞きたいだけなんだけど。

    「ああ、違いない。…道すがら、話すとしよう」

    ロベルトは、戦いに行くにしてはやや不自然な量の荷物が入っていると思われる鞄を背負ってダイニングを出る。殺傷能力の高い兵器でも貰ったのだろうか。



    *



    「…それで、殺さねばならない理由…だったな」
    「ちょい待って。グラウンドじゃないの?」

    ”殺し合い”…それはグラウンドで行われるものだと思っていた。
    しかし、ロベルトは明らかに別の方向へ向かって歩いている。

    「あまり人形目(ひとめ)につかない場所が良い」
    「罰則は~?」

    ドールを殺害すると罰則ポイントがほんのちょっとつく。けれど、その殺しが”決闘”の中で行われていたものなら合法。決闘はグラウンドで行うことが条件だから、てっきりそっちに行くと思ってたんだけど…うっかり無関係なドールがボクらどちらかの死体を見てしまって、ショックを受けないための配慮だろうか。

    「…。…某が勝てば、其方は贖罪券を買う必要はないだろう?」

    いつもの自己犠牲の精神が発動した台詞のように思えて…これは違う。
    殺す隙を与えないと言っている…いや、自分にそう言い聞かせているみたいだ。

    「ふ~ん」

    “やれるものならやってみろ”…この時のボクはそう思った。ロベルトが有言実行できるか、半信半疑だったから。

    このドールが訓練ではない戦いを挑んできたのは今日が初めてじゃない。 以前も「手合わせ」を求めてきたので「訓練じゃないなら手加減はナシだ」を条件に付き合った。 結果は……隙が沢山あったにも関わらず、ロベルトはボクの手を傷つけるのさえ一苦労した。
    …まぁ「殺す練習がしたい」とは言ってなかったから今回は本当に本気なのかも知れないけど…どうだか。

    「どうしても知りたいことがある。『そちら側』でしか、知れぬことらしい」
    「なるほど~?」

    “そちら側”――何の話かすぐにわかった。”最終ミッションを達成したドール”という意味だ。 ボクらドール全員が抱えている『欠けた記憶』を取り戻すためのミッション。その最後のひとつが 『最も傷つけたくないドールの人格コアを呑み込む』こと。 早い話がころさないといけない。
    ちょうど『手合わせ』した時もその話をしてたっけ。
    つまり、あの時折角傷つける練習してあげたのに、そっから半年以上経って未だ進展ナシだったってワケ。



    *



    太陽の花畑を通り過ぎたあたり…川を渡る橋の近くに差し掛かったあたりで休憩をとることにした。 ロベルトは(兵器が入っていると思われた)荷物の中から、常温保存のきくお菓子やパンを取り出した。最初から、ガーデンからなるべく遠く離れた場所で殺り合おうと決めていたんだろう。

    「前に、別の人形に決闘を申し込んだことがあってな」

    ふと、ロベルトが口を開く。

    「某を殺せば相手の勝ち、相手を殺せなければ某の負け。そういうルールにした。某が後戻りできぬように」

    決闘の相手はリラ。緑色の髪で、丁寧な話し方が特徴の、ボクと同じクラスコードのドールだ。 校内を案内してくれたり、料理を教えてくれたり…なにかと面倒見が良いドールだ。

    「…それで?殺せなかったの?」
    「ああ。だめだった。……手を取って、殺させてもらった」
    「自分が殺されるだけでなく、相手を殺せなかった場合も引き分けではなく、自分の負け」

    って縛りまで設けたのに、結局『リラが”ロベルトの手”を使って自害し、勝利扱いにしてもらった』んだって。 しかも、わざわざその場面をリラの恋人であるヤクノジに見届けさせたらしい。ちゃんとした理由があっての事だろうけど、これだけ聞いたらロベルトもなかなかにサイコパスでウケる。拷問じゃん
    リラも、ヤクノジも、「この出来事を、しっかり”進む理由”にしてほしい」と願ったという。 その言葉は重く刻まれただろうが、それでもドールを傷つける勇気が実るには至らなかった。 もし実っていたなら…いつかの手合わせでボクは、ちゃんと殺されていたと思う。

    自分に足りないものは見えているのに、たどり着けない状態。
    あーあ。誰かさんと一緒だよ。

    反吐が出る。

    「……じゃ、今回はこうしよう?」

    ロベルトの力ではなかったにしろ、確かにドールを刺し、降りかかる紅い液体の温度、身体の奥深くに刃が到達し、肉を引き裂く感触…苦しみ悶える声…更に、愛しいドールを目の前で殺された恋人の悲痛な表情…その全てをきちんと経験しているはず。

    それでも、臆病な自分が拒むなら。
    それを振り切って、前に進むなら。

    「3回」

    その自分ごと殺すつもりで――

    「ボクを3回殺せたらししょーの勝ち」
    「3回…!?しかし」
    「1回やってダメだったんだから次は3回だよ」
    「…自分が何を言っているのかわかっているのか?」

    わかってるよ。
    まぁイカれてるよなって。
    自分に何の得もないのに他ドールに三度も命をくれてやるなんて、一年前のボクが聞いたら開いた口が塞がらなくて顎が地面についちゃうレベル。ロベルトが動揺するのも最もだ。

    ただ、こんな風に命の安売りをしていたのはボクだけじゃないよね?
    手なり足なり人格コアなり、購買担当のバグちゃんもびっくりするぐらい格安でホイホイ差し出してたんじゃない?
    売った相手が優しいドールだったら…どんな顔させてたんだろうね。

    「うっさいなぁ。じゃやめんの?」
    「……」

    反論の余地を、逃げる理由を与えないようにたたみかける。
    少しでも言い訳の材料があれば、簡単に逃げてしまえるって、痛いほどによく知っているから。
    今もこうして他ドールのお悩みに首を突っ込んでる時点で、もうね。
    …だからこそ、見たいのかも知れない。自分の行動に待ったをかけてしまう自分へ立ち向かう姿を。

    …師匠のお手本を。

    「わかった。その条件で問題ない」

    吹っ切れたのか、圧に負けたのかは謎だけど、ロベルトは観念しボクの提案を受け入れた。
    そう来なくちゃ。ここでビビって逃げたらリラノジカップルから一生軽蔑されるよ。

    長い長い散歩の末、ボクたちは海にたどり着いた。
    前に進むその足を掴んで邪魔をする恐怖を、波が攫ってくれるのか見物だね。
    良い気晴らしさせてもらお。
    今何かを『燃える』と感じられるのは珍しいんだから。

    ……いっそ人格コアをぶち抜いて、海原の彼方に放り投げちゃってくれたら…
    なんて一瞬でも考えたあたり、ボクもボクで相当参ってるな。


    Diary066「ロベルトの試練」
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