夜、自室に帰ろうと寮の階段をのぼりきった時、カギを開けて部屋に戻ろうとするドロシーを発見した。 おさげをぶら下げたニンジン色の髪の毛に…今日はちょっと違和感があった。
ぴろんっ、とアホ毛が生えていたのだ。
「んふっ」
アホ毛と、それに全く気付かず一日過ごしていたドロシーの両方が可愛らしくて、思わず吹き出してしまう。
「あ、カガリちゃん。今寝るとこ?」
ドロシーがこちらを振り返れば、頭から生えてるイキモノもぴよんぴよんと自己主張する。
「ん、んふっ」
「なんか楽しそうだね。いいことあったの?」
「ど、ドロシーちゃん、あの…アホ毛がめっちゃ自己主張してるよ」
「ええっ、ど、どれどれ!?」
ボクはぷるぷると震えた声で、普段はないはずのものの存在を指摘する。
ドロシーそれを探すように頭のあちこちを触ってみるのだが、絶妙に狙いがズレている。
「んっっ…そこじゃない…」
愛らしさに思わず爆笑しそうになるのをガマンしてお腹が割れそう。 ボクはオレンジ色の山の上で自由気ままにダンスするそれを早く見て欲しくて
「カガミよカガミ…っと」
手に持っていた台本執筆用のノートに咄嗟に反射魔法をかけてドロシーに見せる。
入学したときからずっと使えてた、クラスコード・イエロー専用の魔法。
「物質に鏡の性質を発生させる」効果があるけど…部屋には姿見があるし、イマイチ使いどころがわからなかったけど…なるほどこういう時に便利か。
でも鏡がない昼間に咄嗟につかわないように気をつけておかないと。ヘアスタイルを治しただけで公開処刑行きは流石に笑えない。
「あ、ホントだ……!気づかなかった…」
鏡の中でもなお踊り続けるアホ毛とにらめっこしながら、ドロシーは言う。
「ドロシーちゃん、それで一日過ごしてたの!?」
「そうなるかな……!でも、今日会ったドールはカガリちゃんだけだよ。 昨日の戦いで疲れちゃって、ほとんど部屋でゴロゴロしてたから…」
「え~~!?ゴロゴロしてるだけでよく飽きないねぇ!」
今、ガーデンを(ジミに)騒がせているフルーツビーストのうちの一体、アップルネークとの戦いで
ボクが大活躍して…ドロシーちゃんもちょっとだけ活躍した話や、さっき使った魔法の話…… 他愛ない会話を終えたあと、二人はそれぞれの部屋へ。
*
即席でつくりだした鏡が、ただのノートに戻るまでまだ時間がある。
とはいえ、自分の部屋にはホンモノの鏡がある。なんだか勿体ない。
と、ここであることに気が付いた。
鏡は自分の姿を映し出す。では、鏡で鏡を映したら、どうなるだろうか? ボクは姿見と自作の鏡を向かい合わせた。 すると……鏡の中に鏡が映り、その中に鏡が映り、その中にまた鏡が、その中
ああもうキリがない。 とにかく、無限の迷宮が広がっているようだった。
このまま手を伸ばして、鏡の世界へ迷い込み……なんてことが起きたらもっと面白かったんだけど。 鏡を合わせただけで、こんな不思議なことが起こるんだなぁ。
これは魔法じゃなくて…なんだろう?
『カガクですよカガクゥ』
そんな不快な雑音が聞こえてきそうだったので、ボクはやや勢いよくノートを机の上に戻し、ベッドに潜って消灯し、一日を終えるのだった。
Diary010「ぴろりんちょ」
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