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ガーデンでの生活を記録したり、報告書をボク用にまとめたり。
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    焦燥

    「黒鳥も元の世界に戻って、オレたちの話をしてるんじゃないかな。こんな風に笑いながら、ね!」

    交流室にて、紅茶を飲みほした教師AIのアルゴ先生は吹っ切れたように言った。
    どんな風に笑うこともできなかったボクは、ただただ窓から眺める雲の動きを追うばかりだった。






    ガーデンに敷かれていた雪の絨毯が、音もなく消え去って数日…
    そろそろ6月も終わりに向かう頃。
    アルゴ先生によって数人のドールが集められ、黒鳥先生こと元教育実習生の教師AI、グロウ先生についての情報を共有するミーティングが開かれた…
    って言うとちょっと堅苦しいかな。
    5月に突然現れたグロウ先生は、でちせんせぇことルナガーデンの学園長代理のルファル先生によって「存在しないもしもの世界」から連れて来られた、『なんちゃってグロウ』だった。

    彼の世界では、
    グロウ先生は『黒鳥』と改名(?)し、
    正式な教師AIとして今もなおガーデンに在籍していて
    「白縫」という野に放ったらヤバそうなもうひとりの人格があって

    …などなど、トンチキストーリーをお菓子をつまみながら一つの思い出として語り合う、ゆるい会合だった。詳しいことは、こっちの報告書に書いてある。







    ボクは来る気なんてなかったんだけど、アルゴ先生の鬼念話が鬱陶しかったからしぶしぶ出席し、テーブルからは少し離れた窓側から時折お菓子だけを強奪しつつ時間を潰していた。だから、一緒に振る舞われていた紅茶の存在に気づいたのは、お茶会が終わってから。
    双子のドールの片割れで、「からころ」という笑い方が特徴的な、ククツミちゃんが淹れたものらしい。ちなみに『もしもの世界』ではククツミちゃんは10ツミいたんだって。…99(クク)ツミだったらもっと面白かっ…いや、2ツミでお腹いっぱいだわ

    後片付けをしていたククツミちゃんが、洗いたてのティーカップをひとつ差し出してくれたので、一杯貰ってから帰ることにした。

    「ねえ。なんっか面白いことない?なんでもいいの」

    ややだらしなく椅子に腰かけ、紅茶を飲みながらククツミちゃんに話しかける。 紅茶は少し冷めていたが、冷めた紅茶特有に渋みがなく口あたりが良かった。

    「そうですねぇ……私《わたし》が失踪している間にマギアビーストのステッカーを50枚近く集めたこと、でしょうか?」

    近々開催される、部活やら決闘やらのちょっとしたイベントの話が聞ければそれでよかったんだけど、もっと凄い変化球が来た。

    「すご!50も……」

    ガーデンに時折現れる脅威…“マギアビースト”のステッカーは、コイツらの討伐に参加すると手に入る。実戦闘はもちろん、戦う練習ができる仮想戦闘に赴き、標的を討伐することでも入手できる…んだけど、確か貰えるステッカーって、実戦闘に参加したら1枚、仮想戦闘の場合は3枚ぐらいじゃなかったっけ?

    「って、しっそー!?」

    話をちょっと戻すけど、ククツミちゃんが言っていた『私(わたし)』というのは、双子の残りのひとり…”ふわり”と笑う、ククツミセンパイ。失踪…?したらしい。

    「…そういえばククツミセンパイ見てないよーな…」

    とはいえ、6月に入ってからも何度か軽く挨拶した記憶があるから、あまりピンとこないけど……とりあえずククツミちゃんが短期間で仮想戦闘の鬼と化していたことだけは把握した。

    「えぇ、いったいどこをほっつき歩いているのでしょうか。
    ……帰ってくるとは思うので、それまでこちらは待っているだけですよ」

    多分これは少なくとも、すぐ探しに行く必要はなさそう。そうでなければとっくに端末を通して捜索の呼びかけが出てるはずだもん。 そもそも寮生のドールは、校則に縛られているとはいえ存外自由。授業に出ないどころか、学園に顔を出さなくてもお咎めなしだから、広い箱庭で好き勝手に生活してる。だから一週間以上特定のドールを見かけないことなんてわりと頻繁。姿をくらますドールにも、ひとりになりたい理由があるはず。現にボクだって、三か月くらい学園から離れてたわけだし…
    一番一緒にいるであろうククツミちゃんが、センパイの事少しも心配してない様子だし、ケンカして意地張ってる風でもないから…心配だと言ってきたら手伝うことにしよう。

    …それにしても、一月経たないうちにステッカー50枚はエグい。確かマギアビーストの対策本部の傍にある装置にステッカーを突っ込むと、身体を強くする薬(クソマズい)が貰えるから…ククツミちゃん…おとなしいコが着るようなこのふわふわの服の下、ムキムキになってたらどーしよ。そっちの方が心配だよ。 それはさておき…ティーカップの中身も半分ほどになったので、本題に移る。

    「前にガーデンが止まっちゃった時さぁ。”思ってることは、言葉にしなきゃ伝わらない”って言ってたよね」
    「言葉に……」

    去年の暮れに、ガーデンのシステムが停止し、アルゴ先生がボクらの敵として立ちはだかった時だ。 『ある歌』を使って機能を停止させるか、滅ぼすか、生かすか…集まれるドールが集まって話し合った時のこと。

    “……思っていることは、言葉にしなければ伝わりません。
    それが相手に拒絶されて、否定されたとしても。
    歌うにしろ、戦うにしろ…
    …想いを伝えることは、忘れてはいけないと思います……”

    ただ動きを封じるだけでなく、伝えたい事があるなら相手がどのような態度だろうがきちんと伝えるべきだと、ククツミちゃんは言っていた。 言葉の断片を幾らか口にすると、本人も思い出してくれたようだった。

    「…でも、言葉にしても、伝わらない時もあるよね」

    結局、ボクの言葉はアルゴ先生には伝わらなかった。
    一緒に作ったと思い込んでいた思い出も、彼が尊敬するグロウ先生から託された言葉も、何一つ。 彼と心が通じ合っていたドールがかけつけて来なければ、彼は自ら『自分の機能を停止させる歌』を歌って眠りについていたことだろう。

    「…そういう時、ククツミちゃんならどうする?」

    “黒鳥先生”が姿をあらわした時も、ボクは今までどうであったか、どんな想いでいたかを伝えようとした。ところがその言葉は休符に書き換えられ、思うように届かなかった。でも、その妨害の穴を見つけて、想いを伝えることができたドールはきっといただろう。
    ……それを目の当たりにするのが嫌だった。だから今日、此処へ来たくなかったんだよ。

    …だって、どうすれば良いか、考えることから逃げたんだから。

    大食い大会とか、楽しそうなことだけに足をつっこんだり、うまく友達の話を聞けた気になった報告書を気休めに書いてみたりしながら、肝心なことからは目を背けて、事態の終息をただ待っていただけ。
    で、自分では得られなかった情報をタダで貰って帰ってめでたしめでたし? それじゃあまた似たような状況に立たされた時、同じことを繰り返してしまう。知りたい答えを全部言ってくれなくていい。何か、考えるためのとっかかりが欲しかった。

    「そうですね……」

    暫くの沈黙の後、ククツミちゃんから意外な答えが出た。

    「そしたらもう意地です、実力行使です!」
    「実力!?…それって集光魔術とかでこう…」
    「……あら?……あ、えっと違います違います! 
    その、武力行使ではなくてですね?!」
    「違うの?な~んだ」

    知ってた。
    武力行使で解決できるんだったら多分今こんな悩んでない。

    「えぇと……こほん。諦めずに行動する、でしょうか」
    「…………」

    肝心の、行動する方法がわかんなくて困ってるんだよなぁ…

    「…やっぱそれしかない…か」
    「……そうですね、そうでもしないと……自分が、納得できませんもの」

    ……でも、ククツミちゃんが…… ボクよりもっと酷いカタチで拒絶されたことのあるククツミちゃんがこう言うんだから、 本当に、本当にそれしか…ないんだろう。

    「何度だって言葉にして、何度だって相手を呼び止めて……何度だって言葉を、相手に送り続けて……」

    ククツミちゃんを拒絶したヤツをボクは少なくともひとり知ってる。 その相手はよくわかんない持論を押し付けて、気持ちを伝えようとするククツミちゃんの口を封じ、次に目覚めた時にはもう、呼び止めることは二度と叶わなくなった。存在ごと抹消されてしまった。

    「それでダメだったら、諦めます」

    少なからずその時のことを思い返しながら話しているであろうククツミちゃんの顔に描かれていたのは悲しみではなく、困り眉の笑顔…でもどこか、晴れやかだ。

    「……このお方に、私の言葉は伝わらないのだと。どれだけ言葉を尽くしても、無理なものは無理なのだろうと」

    それもひとつの選択だ。八方手を尽くして清々しく諦められるのなら、それでも…

    「……諦めを覚えた、というにはその後もしっかり燻るのですけれどね?1週間後も同じことを感じて、また伝えようと奔走しているかもしれません」

    ……って、どうも綺麗さっぱり何もかも…というわけではなさそう。

    「シャロンさんに愚痴を聞いてもらいながら、伝わらないことに何度も憤りを覚えながら……」 「……私が伝えることに疲れて、諦めるまで。……結局は、頑固な私との戦いですね」 「……とても、時間のかかることですよ」

    頑固な自分さえ元気にしていれば、何とかなるものなのだろうか。
    たとえ全く同じ言葉でも、途方もない時間さえかければいつかは伝わるだろうか。
    これが戦いだとしたら…頑固に振る舞えるのは、あれこれ試す術を知っているからじゃないか?
    例えばどんな事を試せば?
    いろんな事を聞きたかった。そんな自分がみっともなくて

    「…とても…って、どのくらい?」

    無理やりひとつに絞ろうとしたら、なんだかパッとしない質問をしてしまった。

    「……どうでしょうね。……相手が廃棄処分になってからも、ずっと。かもしれません」
    「…!ウソ!?ククツミちゃん、まだ……」

    …そうしたら、またとんでもない答えが返ってきた。
    まさにさっき書いた『ククツミちゃんを拒絶した相手』のことが未だに頭に過るらしい。 もう言葉をかける手段なんてないのに、そんな奴なんていなくても、ククツミちゃんを理解してくれる相手は他にいるのに。 忘れてしまっても誰ひとり責めないのに。 忘れることが正しい選択とさえ思うのに。

    「ふふ、驚きましたか? 私も驚いていますよ、まだ燻っているなんて、と」
    「驚いたっていうか……理解、できない。だって、そいつは…」
    「ええ。……居なくなってしまったら流石に、もう伝えられませんからね。……それでも『なぜあの時に伝わらなかったのだろう』と考えてしまうことも、少なくありません」

    未だに、頑固な自分と戦ってしまうようだ。
    前のボクなら「バカだ」「不毛だ」と一蹴していただろう。
    …確かに不毛とは思うけど、それでもなお「思い出す」ことを選んで……

    『伝わらなかった』現実から目を逸らさず、向き合い続けている。
    そいつが廃棄処分された時、ククツミちゃんは気が動転していて、すぐに原因を探ろうとしなかった。 ボクはそれを意気地なしだと言った。 けど、今じゃまるで

    本当に意気地なしなのは―――

    「……けれど、だんだん思い出すことが少なくなって……ふと思い出した時に『あぁ、伝わらなかったのですね』と……
    そう思えた時に、ようやく私は諦めるのでしょう。
    ……本当に、生きるのが下手ですね。私って」

    終わってしまった事に囚われ続けるのは、器用な生き方とは言えないだろう。 でも、囚われて、立ち止まっているわけじゃないし、少なくともククツミちゃんには、ボクにないものを持っていた。 ククツミちゃんだけじゃない。皆、それぞれ―――

    「…教えてくれないもんは、上手くできないって」

    ククツミちゃんの生き方を、上手いとも下手とも形容できず、 その責任を別のところへ転嫁するように、ふてくされがちに言う。

    「……ふふ、そうですね。教えてくれないことがいっぱいです」

    ……教えてくれないこと、といえば。

    「も一個、いっかな… ククツミちゃんとしゃろしゃろは、トモダチ…だよね。
    じゃー、ククツミちゃんと、れおれおはコイビト?
    コイビトとトモダチって、どーちがうの?」
    「……ほへっ?」

    ククツミちゃんから、なんか珍しいリアクションが返ってきた。ちょっとかわいい。
    ボクと同期のれおれおことレオと、ククツミちゃん。ふたり揃えば仲良さそうにしてるし、れおれおはククツミちゃんガチ推しだし。こりゃもう付き合ってるでしょ。
    …演劇部関連の日記にも書いたけど、ガーデンでは、イチャイチャカップルを何組か見ていた。面白いほどにベタベタしてるから冷やかしたり、片思い中のドールをからかったりしてたけど……ぶっちゃけ「どんな気持ちでそうしているのか」がわからなかった。

    「友達は、……そうですね……。どんなことであっても、相手がこれを聞いたらどう思うかを、互いに想像できる相手、でしょうか?」

    互いに想像できる相手……頭の中で、親友というポジションに位置づけているドール、アザミを想像する。からかった時、マギアビーストを倒してもご褒美が貰えなかった時、どんな反応をするかは予想できる……けど、相手の考え、か……正直、上手く想像できている自信はない。

    「もちろん予想が外れることもあります、相手が突飛なことを考えていることもあります。
    ……でも、そういう予想外のことも、互いに受け入れて対応できる相手……そういった信頼関係が、友達と言えるのではないでしょうかね?」

    盛大にツッコミつつ、あまりにも的外れな時は制止させつつも、完璧に拒絶してはおらず「いつものカガリだ」と受け入れてくれる相手……アザミにくわえ、演劇部員のリツも頭に過る。

    「……カガリさんにとって、そういうお方はいらっしゃいますか?」
    「ボクには……」

    言いかけて、急に胸のあたりがざわつく。 数日前に公園で、ウィズの像の前に立った時と同じ感覚だった。 時計がとまったように、表情が固まる。

    ボクには友達がいる。それを素直に肯定できない。

    アザミは……対等だと思っていたのに、いつの間にかガーデンを担う組織…「生徒会」に就いていた。
    リツは……「愛」について。ボクの知らないことを何処で学んだやら、奥深くまで知っている。
    新入生ミレイユの歓迎会でふたりを見かけたとき、歓迎はそっちのけでふたりとの距離を、”いつも通り”を確かめ合おうとして…結局いつも通りがそこにあって、安心したはずだった。 人格コアが壊れて性格が変わったわけでもないのに、どうしてこんなに焦っているんだろう。
    どうしてこんなに、皆が遠くに見えるのだろう。

    「……な~いしょ!」

    沈黙が不自然な長さにならないうちに、おどけたように笑うしかできなかった。

    「あら、ないしょにされてしまいました」

    多少強引に話題を打ち切ったけれど、ククツミちゃんは特に機嫌が悪くなることもなく、からころと笑った。

    「それで、えっと……レオさん、は……えぇと……、その……」

    友達に続いて恋人の話に移った瞬間、ククツミちゃんの様子がちょっとおかしかった。

    「愛されていることが、分かると……くすぐったくて、恥ずかしくて……」

    さっきまでは落ち着いて、迷うことなく言葉を紡いでいたのに、なんか急に喋り方を忘れちゃったような、頭の中の辞書をどこかに落としてきちゃったような…とにかく、見ている側からすればはちゃめちゃに愉快だった。

    「……レオさんが、こちらに送ってくださる感情が……嫌ではなくて、でもくすぐったくて……逃げ出したくなるけれど、そこに居たいとも思って……」

    ククツミちゃんの頬が少しだけ桃色に染まっていた。元々肌が白いからとてもわかりやすい。 う~ん、照れてるなこれ。 そういえば他のカップルも、照れたり、怒りやすくなったり…好きな相手のことになると何となく感情の起伏がいつもより激しくなるような。でも、どうしてだろう。友達の『好き』と違うから…っていうところまではわかるけど……制御がめんどくさそう。

    「……しあわせを、くれる……お方、でしょうか……?」

    ……その『幸せ』が、めんどくささを上回るから恋人関係が成り立つってこと……?

    「…………やっぱり、くすぐったい……」
    「……嫌じゃなくて、くすぐったくて、うーん……」

    確かに「付き合っている」判定をしたふたりは、幸せそうだ。でも体験したことがない以上、やっぱりイマイチその感覚がわからない。

    「少なくとも愛の魔法にかかってるコたちを眺めるのはおもしろいよね~~!!!」
    「……もう、からかわないでください……!」

    交流室は暫く、二色の笑い声に包まれた。







    ……からかってもいたけど、実際嘘は言ってないもん。
    ホントに今わかるのこれだけだし。
    何で、授業で教えて貰わないことを皆、どんどん知って行くのかな。
    …そんなの皆の勝手で、悪いことでもないのに、どうしてざわざわするんだろう。
    上手く言葉を伝えられないどころか、とっちらかっている感情の整理さえつけられないでいるのが、本当に腹立たしい。 折角”あれこれ考えるとっかかり”を聞きに行ったのに、それを頭の中で噛み砕けない自分に疲れ果て、最終的に自室に帰ってベッドに仰向けに倒れ込むと、またこの一言で、今日を締めくくる。

    「あ~あ……めんどくさ~…」


    Diary065「焦燥」
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